“心臓癌、余命あと一年ですね――”

 そう医師に告げられたときは驚いた。最近息切れが多く、たまに失神するときもあった。学校の疲れだろうと思っていたが……僕が心臓癌で余命宣告されるとは思ってもいなかった。

「……卒業まで生きられるんですか」

「そうですね。ギリギリかと思います」

 ――今は4月で、高校最後の年。来年の春には卒業も控えているというのに。僕が生きるのはあと一年しかないだなんて……。

「延命もできますが、どうされますか?」

「……大丈夫です。今を精一杯生きます」

 と、答えた。好きなことをせずに死ぬだなんて絶対に嫌だった。

「分かりました。一緒に頑張りましょう」

 僕はどうしてこうなってしまったんだろう。どうして僕だけがこんな不幸になるんだろう。現実を信じられなかった。

「駄目です菜々花様! 今から検査ですよ!」

「ええ、だって外に行きたいんだもん。駄目ですかー?」

 外庭に座っていると、一人の女の子が看護師に追いかけられていた。……僕と同い年くらいだろうか。

「あれ、見たことない人。ここ来るの初めてですか?」

 突然、彼女は僕に話しかけてきた。

「まあ、そうですけど……」

「やっぱり! その制服、咲羽(さきはね)高校でしょ? いいなあ、私も行きたかったんです」

 ――彼女は、僕が行っている高校に行きたかったそうだ。制服で分かるのだからよっぽどだろう。

「何年生ですか?」

「三年です」

「わあ、先輩だ。私二年です。中学のときからずっと入院してるから病院としては先輩かな」

 そう言って彼女は笑みを浮かべた。――不思議な子だ。

「私、笹木菜々花(ささきななか)です」

「……僕は鈴原雅也(すずはらまさや)

「雅也くん、って呼んでもいい?」

「はあ、お好きにどうぞ」

 僕は正直言ってこのタイプは苦手だ。明るくハイテンションで話についていけない。女子って何でこんなにキラキラ輝いているのだろう……。

「雅也くんは私のこと菜々花って呼んで」

「……菜々花」

「へへ、そうそう。そっちの方が話しやすい」

 菜々花は照れた口調で言った。実際は僕をからかっているのだろう。

「雅也くん、これからも病院来て! 私も病気でさ、毎日つまらなくて。数日に一回くらいでいいから。ね、いいでしょ?」

 ……僕は小学生のとき以来、人と話す、ということを全くしてこなかった。だから友達は一人もいない。けれど菜々花は明るくて話しやすい人だなあと思う。まあ苦手なタイプだけど。

「……分かったよ」

「やったあ、決まりっ」

 明るくハイテンションな菜々花に、僕は理解ができなかった。