お茶をふたつのコップに注ぎ、個包装のクッキーやカステラなどをプレートに載せると、私はそれらと共に2階にある自分の部屋に向かった。
両手は塞がっているため肘で押してドアを開けると、部屋の隅にある鳥籠の前に映は立っていた。
「フク、元気そうだな」
フクと呼ばれた梟は、大きな瞳で映を見つめている。
フクは、中学生の時、羽を怪我しているところを私と映で助けたシロフクロウだ。怪我が治って飛べるようになるまで保護するつもりだったのに、妙に懐いて飛び立とうとしないため、それ以来私の部屋で飼っている。
梟だから頭の文字をとってフク。そう名づけたことに対して両親は安直だと笑ったけれど、映は可愛いねって言ってくれた。
「またフクと話してる」
「なんかフクって人間の言葉わかってる気がするんだよな」
「えー? そうかなぁ」
当たり前だけど、私が何度話しかけたって相槌ひとつ返ってきたことはない。だからこそフクにだけは話せる本音もあるのだけれど。
「そうだ、夜ごはんも食べていくよね?」
「いや、悪いからいいよ」
私の誘いというよりは最早決定事項に、映は首を横に振る。
映の言うこと成すこと全部好きだけれど、こういうところは可愛くない。遠慮なんていらないのに。
すると、その時。ノックもなく背後のドアがガチャリと開いた。
「ただいまー。日依、帰ってるの?」
その声に振り返れば、パート帰りのお母さんがドアの隙間から顔だけ覗かせていた。いつ帰ったのか、階下で音はしていたはずなのに全然気づかなかった。
「あ、お帰り、お母さん」
お母さんの視線は、部屋の奥の映を捕らえていた。途端、その表情がきらりと輝く。
お母さんは映のファンだから、映を連れて帰るといつも喜ぶ。なんでもお母さんがハマっている若手アイドルに似ているらしい。
「あら、映くんじゃない」
「おじゃましてます」
するとお母さんはさらに踏み込むようにずいっと首を伸ばした。
「ちょうどよかった。今日の夕食はすき焼きなの。映くんももちろん食べていくわよね?」
「え、そんな」
「奮発して豪華なお肉をたくさん買ってきたのよ。映くんがいたらお父さんも喜ぶわ」
早口でまくしたて、映に有無を言わさず丸め込んでしまうお母さん。この家でお母さんの言うことは絶対なのだ。