「おっはようあまねく〜ん」
「もう二時半だけど。遅くない?」
「ごめんごめん、めっちゃ良い試合しちゃってさ、中々終われなかったんだよ」
「なるほどね。勝った?」
「もちろん。もうボイチャまで入れちゃったよ。楽しかった〜」
あの時の興奮は凄まじかった。『YOU WIN』と画面に表示された時は手が震えた。
珍しく滑り台の出口に座っているあまね。幅が広いためその隣に腰掛ける。
「今日は、校長の話ほんとに短かった。んでさっきも言ったけど、ゲームに勝った。どっちもあまねの言う通りだったよ」
「ふっふっふ。そうでしょうそうでしょう。私嘘は吐かない主義ですからねぇ。ふふふ」「はいダウト」
今まで数え切れないぐらい嘘を吐いて来た人間が何を今更言ってるんだよ。本人には言わないが、ツッコミを入れた。
また、いつもと変わらず今日の残り少ない時間を二人で過ごす。
☂
「あまねって将来の夢みたいなのあるの? 職業とかじゃなくても良いんだけどさ、ある?」
「あー、あるよ。教師になりたい」
「教師かぁ良いねぇ。小中高どこの?」
「高校かな」
「あまねならめっちゃ良い先生になりそうだね。生徒達から人気なタイプだよ、絶対」
確信が持てる。あまねは男子からも女子からも好かれそうだ。それと面白いし。
「あまねが先生になったら見に行きたいな。え、行って良い?」
「あのね、まだ決まってないんだから早まるな。それに、俺は多分無理っ」
さっぱりとした口調とさっぱりとした表情。学力がどうこうとかの冗談じゃなくて、何かしっかりとした理由があって、全てを悟って諦めているような。そんな風に見えた。
理由は訊かない方が良い。それが私の出した答え。
「んーもしなれたとして、どんな先生になりたい?」
「生徒の小さな疑問とか、悩みとか、生徒同士のわだかまりとか。どんな小さな事でも見逃さずに掬い上げられるような先生」
極めて慎重に言葉を発していた。いつもよりゆっくりと丁寧な言葉選びだ。ガラス細工を扱うように丁重だった。
「あそうだ! 翠はもし教師になったらどんな風になりたい?」
「え私!?」
まさか私に飛んで来るとは思わず、意図せず大きな声を出してしまった。
向かいの家の番犬が唸り出す。やってしまった。瞬時に理解する。「バウッバウッバウッ!!」かなりの大きさで番犬が哭いた。
「やばいやばいやばいやばいっごめんねわんちゃん、ほんとにごめんね」
「うちの翠が本当にごめんなっもう静かにするからなっ」
二人して人差し指を唇に当て「しー」と言う。犬に伝わる訳が無いのに何度も何度も繰り返した。
「あっぶね〜。誰も起きてこないで良かったぁ」
いつものスポットに避難してからほっと胸を撫で下ろす。
「翠声でかすぎるんだよぉ……ごめんなワンコ」
「私だって出そうと思って出して無いんだよぉ、許してぇ。ごめんね……」
番犬とあまね、どちらにも手を合わせて謝る。あまねは「まあ良いだろう」と上から目線で許してくれた。
「で、さっきの続き。翠はどんな教師になりたい?」
「んー……そうだなぁ、どんな教師、か」
考える。今までの学校生活と、出会った教師達を思い浮かべた。
「ま、優しい先生かなっ」
ありきたりだとは思う。でも結局それが一番な気がする。私は人差し指を立てて続けた。
「例えばそうだな、いじめを絶対に見逃さないっとか! どぉ?」
「あー、良いね。この頃ずっと問題視されてるもんね」
「そぉ。いじめって、言い方を変えれば犯罪になるでしょ。『いじめ』って言うから少しは軽く感じるけど、いじめを見逃すのは犯罪を見逃すのと同じって考えるとなんか、ね」
「分かるよ。分かる。見逃せば被害者の人生も加害者の人生もどちらも壊れる可能性がある。だからこそ、そういう先生は大事になるかもね」
まさかこんなに肯定してくれるとは思わなかった。そうだ、刃はいつどこでどこから飛んでくるか分からない。あの時の私みたいな死なば諸共精神で行動をしようとする人もきっといるだろう。
それを食い止められたら、とても良い。
☂
今日は時事について真剣に話した。あまねの思考を知れる良い機会になった気がする。
「明日はね、翠が水筒のお茶を全部零す」「え、やだ。絶対に嘘であって欲しい」
「それと、古文の教師のダジャレが盛大にすべる」「可哀想だよそれは。あのおじいちゃんも頑張ってるんだから」
この『明日は〇〇』という言葉を待っている自分が居る。馬鹿馬鹿しいし意図も丸見えだけど、これが無いと物足りない身体になってしまった。『3:14』別れの時間だ。
「明日が楽しみだわ」
「もう二時半だけど。遅くない?」
「ごめんごめん、めっちゃ良い試合しちゃってさ、中々終われなかったんだよ」
「なるほどね。勝った?」
「もちろん。もうボイチャまで入れちゃったよ。楽しかった〜」
あの時の興奮は凄まじかった。『YOU WIN』と画面に表示された時は手が震えた。
珍しく滑り台の出口に座っているあまね。幅が広いためその隣に腰掛ける。
「今日は、校長の話ほんとに短かった。んでさっきも言ったけど、ゲームに勝った。どっちもあまねの言う通りだったよ」
「ふっふっふ。そうでしょうそうでしょう。私嘘は吐かない主義ですからねぇ。ふふふ」「はいダウト」
今まで数え切れないぐらい嘘を吐いて来た人間が何を今更言ってるんだよ。本人には言わないが、ツッコミを入れた。
また、いつもと変わらず今日の残り少ない時間を二人で過ごす。
☂
「あまねって将来の夢みたいなのあるの? 職業とかじゃなくても良いんだけどさ、ある?」
「あー、あるよ。教師になりたい」
「教師かぁ良いねぇ。小中高どこの?」
「高校かな」
「あまねならめっちゃ良い先生になりそうだね。生徒達から人気なタイプだよ、絶対」
確信が持てる。あまねは男子からも女子からも好かれそうだ。それと面白いし。
「あまねが先生になったら見に行きたいな。え、行って良い?」
「あのね、まだ決まってないんだから早まるな。それに、俺は多分無理っ」
さっぱりとした口調とさっぱりとした表情。学力がどうこうとかの冗談じゃなくて、何かしっかりとした理由があって、全てを悟って諦めているような。そんな風に見えた。
理由は訊かない方が良い。それが私の出した答え。
「んーもしなれたとして、どんな先生になりたい?」
「生徒の小さな疑問とか、悩みとか、生徒同士のわだかまりとか。どんな小さな事でも見逃さずに掬い上げられるような先生」
極めて慎重に言葉を発していた。いつもよりゆっくりと丁寧な言葉選びだ。ガラス細工を扱うように丁重だった。
「あそうだ! 翠はもし教師になったらどんな風になりたい?」
「え私!?」
まさか私に飛んで来るとは思わず、意図せず大きな声を出してしまった。
向かいの家の番犬が唸り出す。やってしまった。瞬時に理解する。「バウッバウッバウッ!!」かなりの大きさで番犬が哭いた。
「やばいやばいやばいやばいっごめんねわんちゃん、ほんとにごめんね」
「うちの翠が本当にごめんなっもう静かにするからなっ」
二人して人差し指を唇に当て「しー」と言う。犬に伝わる訳が無いのに何度も何度も繰り返した。
「あっぶね〜。誰も起きてこないで良かったぁ」
いつものスポットに避難してからほっと胸を撫で下ろす。
「翠声でかすぎるんだよぉ……ごめんなワンコ」
「私だって出そうと思って出して無いんだよぉ、許してぇ。ごめんね……」
番犬とあまね、どちらにも手を合わせて謝る。あまねは「まあ良いだろう」と上から目線で許してくれた。
「で、さっきの続き。翠はどんな教師になりたい?」
「んー……そうだなぁ、どんな教師、か」
考える。今までの学校生活と、出会った教師達を思い浮かべた。
「ま、優しい先生かなっ」
ありきたりだとは思う。でも結局それが一番な気がする。私は人差し指を立てて続けた。
「例えばそうだな、いじめを絶対に見逃さないっとか! どぉ?」
「あー、良いね。この頃ずっと問題視されてるもんね」
「そぉ。いじめって、言い方を変えれば犯罪になるでしょ。『いじめ』って言うから少しは軽く感じるけど、いじめを見逃すのは犯罪を見逃すのと同じって考えるとなんか、ね」
「分かるよ。分かる。見逃せば被害者の人生も加害者の人生もどちらも壊れる可能性がある。だからこそ、そういう先生は大事になるかもね」
まさかこんなに肯定してくれるとは思わなかった。そうだ、刃はいつどこでどこから飛んでくるか分からない。あの時の私みたいな死なば諸共精神で行動をしようとする人もきっといるだろう。
それを食い止められたら、とても良い。
☂
今日は時事について真剣に話した。あまねの思考を知れる良い機会になった気がする。
「明日はね、翠が水筒のお茶を全部零す」「え、やだ。絶対に嘘であって欲しい」
「それと、古文の教師のダジャレが盛大にすべる」「可哀想だよそれは。あのおじいちゃんも頑張ってるんだから」
この『明日は〇〇』という言葉を待っている自分が居る。馬鹿馬鹿しいし意図も丸見えだけど、これが無いと物足りない身体になってしまった。『3:14』別れの時間だ。
「明日が楽しみだわ」