「じゃ、今年もよろしくね。皆さん。……さて、皆楽しみにしていたでしょう質問タイム、しようか」
 そう笑顔で言うのは私の担任。黒髪ポニーテールに魅力的な三白眼を持つ、美人な教師だ。高校二年間で分かったのは、彼女が良い先生だと言うこと。最後の年も一緒に過ごすことが出来てとても嬉しい。
 新学年が始まってすぐのHR、生徒同士の自己紹介などを済ませてからその質問タイムが設けられた。
「はい! 先生いくつ?」「今年二十五!」
「はいはい! 先生の子供の時の夢は何ですか?」「子供の時は将来とか考えたことなかった!」
「先生彼氏居る?」「居ないよ〜」
 そのような質問が矢継ぎ早に先生へ投げ掛けられる。ありがちな質問ばっかりで先生も対応に慣れていた。
「先生って大恋愛したことある〜?」
 そんな中、どこからともなくそんな質問が飛んでくる。先生はかなり考えて、口を開いた。
「まぁ、したことない、訳では無い。かな? 」
 曖昧な答えに教室がザワつく。彼氏は居ないけど大恋愛はした事ある。かなり気になるだろう。
「先生! 詳しく教えてくださいか!!」
「気になる〜」
「話しても良いけどめちゃくちゃ長くなるよ? 余裕で一時間ぐらい語れちゃうから」
 いや、それでも気になる。何時間でも聞いてみたい。「聞きたい!」案の定その声が飛び交った。先生はまた長く考えて言った。
「分かったよ。でもほんっとに長いけど、ほんっとに良いんだね? じゃ、行くよ」
 先生は教卓の後ろに椅子を置き、そこに座る。深呼吸の後、ゆっくりと話し始めた。
「私が君たちと同じぐらいの時は、『死にたい』『消えたい』とかそんな事ばかりを思っていた。理由はまぁ、色々。ずっと明日が怖くてね、明日を迎えるのが嫌だったんだよ。眠ると最悪な夢を見る。それで、結構夜遅くまで起きてたんだよね」
 そこで一息付いた。たったこれだけで、かなり引き込まれていく。
「で、その『死にたい』って思いが爆発して、深夜の二時ちょっと前ぐらいにね財布とスマホだけ持って家を出たことがあった。こんなに辛いなら、苦しいならどっか遠く行ってもう死んでやる〜ってね。でも真夜中だから電車とか無くて、だから始発まで近所の公園で過ごそうと思ったの」
 結構壮絶なのにどうしてこんなに軽く聞こえるのだろう。
「タコの形した滑り台分かる? それ。そこで青年に出会ったの。それが、物語の導入」
 その後彼女が語っていくのは、不思議な話だった。でも、温かかった。
 今から始まるのは、先生の物語。