ーーー 病室からの帰り道。
洸達は、病院の独特な空気に声を潜めて、ラウンジまでたどり着いた。
「あ!」
先頭を歩いていた洸は、そのラウンジにて、とある人物を目撃して足を止めた。
「ん? どうした?」
「ちょっと、ごめん」
尚人の問にその言葉を残して、洸はその人物の元へと近寄っていく。
「陽子さん。こんにちは」
洸が声をかけたのは、40代半ばの女性であり、整った横顔には疲れが表れている。
「あら。洸くん。お見舞いに来てくれたのね。ありが とうね」
陽子と呼ばれたその女性は、椅子に腰掛け、洸を見上げる。
「いえ、当たり前じゃないですか」
親しげに会話を始めた二人を、洸の背後に立つ神影と尚人は、不思議そうに見つめている。
「あ、こちらは、咲夜の同級生で友人、同じ部活の仲間でもある、尚人と神影です」
洸が二人と陽子を引き合わせると、陽子は立ち上がり、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あら、あなた達が。あの子に話は聞いているわ。私は、咲夜の母親で、陽子と言います。二人とも、あの子と仲良くしてくれて、ありがとうね」
「あ、ああ。いえ、こちらこそ。私達こそ、咲夜ちゃんには、お世話になっているので」
神影と尚人は、ぎこちなくお辞儀をする。
「会えて嬉しいわ。さぁ、座って、少しお話を聞かせてちょうだい」
そう三人を半円を描くように設置されたソファーに誘導し、陽子は人数分の缶コーヒーを買って、自らも腰をかける。
「これはいつも、あの子と仲良くしてくれているお礼よ。こんなんじゃ、足りないけどね」
三人は恐縮しつつも、陽子の厚意を受け取る。
それぞれが缶コーヒーに口をつけて、一段落ついたところで、陽子が口を開いた。
「あの子、学校ではどんな感じ? 家庭では、口数は少ない、いえ、少なかったんだけど、この頃は、よく会話をするようになって。そうね。部活を始めて、暫くしてからね」
陽子の問に代表して口を開いたのは神影だ。
「確かに、一見クールな印象はありますが、とても友達想いで、優しくて、自分をしっかり持っていて、私達なんかよりも大人で、同級生にこういう事言うのは、違うのかもしれないですけど、とても尊敬してます」
「そう。そうなの」
陽子は、神影の返答に、噛み締めるように微笑み頷く。
「昔はね、もっと素直で明るい子だったんだけど、まぁ、無理もないわよね。親として、あの子にしてあげられることは、見守る事しかなくて。だから、最近のあの子の様子を見て、本当にホッとしたの。あの子が、心底楽しそうな様子で。だから、あなた達には感謝しているの」
真っ正面から向けられた感謝の意に、馴れない三人は、戸惑いながらも微笑み合う。
「だから、申し訳ないとも思うの。コンテストがあるのよね? 担当医の話では、コンテストに出場するのは、難しいだろうとの事で。あの子も本当に、楽しみにしていたんだろうけど、ごめんなさいね」
陽子はそう言って頭を下げる。そのため今度は、違う戸惑いを浮かべる三人。
「そんな。謝らないでくださいよ! 確かに、咲夜が出場できないのは残念です。でも、咲夜はコンテストのために、精一杯やってきました。その期間はきっと、咲夜だけじゃなく、僕たちにとって、かけがえのない時間になりましたから。もちろん。それはこれからも続いていくものだと思いますし、コンテストがゴールではないですから」
陽子の目に映る洸は、生き生きとしており、屈託のない笑顔と、混ざりけの無い純粋な言葉で彩られており、何処までも輝いて見えていた。
「洸くんは、大人になったわね。でも、変わらない所もあって、あの子が信頼するわけね」
「信頼なんて、そんな」
洸は、思わず視線を自らの膝の上に置いた缶コーヒーに落とす。
「本当にありがとうね。出来れば、これからもあの子と、仲良くしてあげてね」
陽子は、一人一人に微笑みを向けて、交わらせた視線から、信頼と誠実さを受け取り、胸を撫でおろした。
洸達は、病院の独特な空気に声を潜めて、ラウンジまでたどり着いた。
「あ!」
先頭を歩いていた洸は、そのラウンジにて、とある人物を目撃して足を止めた。
「ん? どうした?」
「ちょっと、ごめん」
尚人の問にその言葉を残して、洸はその人物の元へと近寄っていく。
「陽子さん。こんにちは」
洸が声をかけたのは、40代半ばの女性であり、整った横顔には疲れが表れている。
「あら。洸くん。お見舞いに来てくれたのね。ありが とうね」
陽子と呼ばれたその女性は、椅子に腰掛け、洸を見上げる。
「いえ、当たり前じゃないですか」
親しげに会話を始めた二人を、洸の背後に立つ神影と尚人は、不思議そうに見つめている。
「あ、こちらは、咲夜の同級生で友人、同じ部活の仲間でもある、尚人と神影です」
洸が二人と陽子を引き合わせると、陽子は立ち上がり、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あら、あなた達が。あの子に話は聞いているわ。私は、咲夜の母親で、陽子と言います。二人とも、あの子と仲良くしてくれて、ありがとうね」
「あ、ああ。いえ、こちらこそ。私達こそ、咲夜ちゃんには、お世話になっているので」
神影と尚人は、ぎこちなくお辞儀をする。
「会えて嬉しいわ。さぁ、座って、少しお話を聞かせてちょうだい」
そう三人を半円を描くように設置されたソファーに誘導し、陽子は人数分の缶コーヒーを買って、自らも腰をかける。
「これはいつも、あの子と仲良くしてくれているお礼よ。こんなんじゃ、足りないけどね」
三人は恐縮しつつも、陽子の厚意を受け取る。
それぞれが缶コーヒーに口をつけて、一段落ついたところで、陽子が口を開いた。
「あの子、学校ではどんな感じ? 家庭では、口数は少ない、いえ、少なかったんだけど、この頃は、よく会話をするようになって。そうね。部活を始めて、暫くしてからね」
陽子の問に代表して口を開いたのは神影だ。
「確かに、一見クールな印象はありますが、とても友達想いで、優しくて、自分をしっかり持っていて、私達なんかよりも大人で、同級生にこういう事言うのは、違うのかもしれないですけど、とても尊敬してます」
「そう。そうなの」
陽子は、神影の返答に、噛み締めるように微笑み頷く。
「昔はね、もっと素直で明るい子だったんだけど、まぁ、無理もないわよね。親として、あの子にしてあげられることは、見守る事しかなくて。だから、最近のあの子の様子を見て、本当にホッとしたの。あの子が、心底楽しそうな様子で。だから、あなた達には感謝しているの」
真っ正面から向けられた感謝の意に、馴れない三人は、戸惑いながらも微笑み合う。
「だから、申し訳ないとも思うの。コンテストがあるのよね? 担当医の話では、コンテストに出場するのは、難しいだろうとの事で。あの子も本当に、楽しみにしていたんだろうけど、ごめんなさいね」
陽子はそう言って頭を下げる。そのため今度は、違う戸惑いを浮かべる三人。
「そんな。謝らないでくださいよ! 確かに、咲夜が出場できないのは残念です。でも、咲夜はコンテストのために、精一杯やってきました。その期間はきっと、咲夜だけじゃなく、僕たちにとって、かけがえのない時間になりましたから。もちろん。それはこれからも続いていくものだと思いますし、コンテストがゴールではないですから」
陽子の目に映る洸は、生き生きとしており、屈託のない笑顔と、混ざりけの無い純粋な言葉で彩られており、何処までも輝いて見えていた。
「洸くんは、大人になったわね。でも、変わらない所もあって、あの子が信頼するわけね」
「信頼なんて、そんな」
洸は、思わず視線を自らの膝の上に置いた缶コーヒーに落とす。
「本当にありがとうね。出来れば、これからもあの子と、仲良くしてあげてね」
陽子は、一人一人に微笑みを向けて、交わらせた視線から、信頼と誠実さを受け取り、胸を撫でおろした。