この残酷な世界ではたくさんの事件が起きている。
もしあなたの大切な人が、殺害されたら。
更にその犯人が、自分の友人だったら。
あなたはどうしますか――?
「じゃあ健(けん)ちゃん、また明日。
クリスマス楽しみだね!」
そう言っていた彼女は、5日前に亡くなった。
『〇△町にて殺人事件が起きました。
新川 由里(あらかわ ゆり)さん、高校1年生。
凶器は未だ判断できていないようです。犯人は逃亡中の模様です』
このニュースを聞いたとき、僕は絶望した。
また明日、と言っていた彼女が亡くなったなんて。
僕と由里は恋人だった。中学のときに出会い、一目惚れをした。彼女の方から告白され、お付き合いを始めた。
由里は明るくて、常に笑顔の子だった。涙を見せたことなんて1度もない。
そんな素敵な子が、どうして亡くなるのだろうと疑問に思った。それと同時に、決意した。
“犯人は僕が見つけよう”と。
探偵の知識もないし、そんな簡単に見つけられるとは思わない。けれど、そいつに会って復讐したいと思った。
12月24日、18時から21時の間。
彼女が何者かによって殺害された。
どうやって犯人は殺害したのだろう?
犯人は何の動機を持っていたのだろう?
疑問でいっぱいだった。
「おーい、皆川(みなかわ)。居る?」
突如、クラスの浅田 悠希(あさだ ゆうき)が僕の家へ訪れた。
浅田は由里と小学校から仲が良かったらしい。
「浅田。ごめん、どうしたの?」
「ん、皆川今日休んでたから見舞いに来た。まあ元気そうなら良かった」
僕は皆川健(みなかわ けん)という名前で、昔から健ちゃんと呼ばれることが多かった。
高校に入って苗字で呼ばれることが多くなったので、不思議な感じだ。
「体調は大丈夫。ありがとう」
「恋人が亡くなってるんだもんな。無理すんなよ」
と優しい笑顔で言ってくれた。
「うん。浅田は、由里を殺害した犯人ってどういう人だと思う?」
由里は自宅で殺害されたから、通り魔ではないことは確かだ。
「んーそうだなあ。新川のことを恨んでた人だとは思うけど。あいつは兄弟もいなかったらしいし……。あるとしたら友達じゃないかな」
やっぱり、由里の友人なのだろうか。でもあの
由里を恨む理由なんて考えられない。
「由里のことを恨んでた人、心当たりない?」
「……中学のとき、あいつ女子とトラブルがあったらしい。あと彼氏と揉めてたな」
「分かった。名前教えて」
僕は浅田にその人の名前を教えてもらった。
①川原圭介(かわはら けいすけ)
②長澤凛(ながさわ りん)
③真田ゆかり(さなだ ゆかり)
この3人が怪しい、と。
ただ、この3人には僕とも共通点がある。
“僕と幼馴染”だということだった。
名前を聞いたときにはびっくりした。
この3人とは幼稚園が一緒で、小さい頃からよく遊んでいた。
圭介と由里が恋人同士になっていたとは、僕も初耳だった。
凛もゆかりも陽気で優しい人だったから、トラブルがあったなんて驚きだ。
早速、1人1人に電話をかけることにした。
中学校は僕だけ受験したから、小学校の卒業式以来話していないことになる。少しだけ緊張してしまった。
『もしもし。健?』
「久しぶり、圭介。急にごめん」
『めっちゃ久しぶりだな。どうした?』
声や性格は相変わらず変わっていないようだ。僕は自分の心を落ち着かせ、今回の事件のことを話した。
『そうだよ。確かに俺達は付き合っていた。でも高校が離れ離れになるから俺から振ったんだ』
「そうだったのか……。じゃあ、怪しい人物とか居ない?由里のことを恨んでいそうな人」
念のため、圭介にも聞いた。由里の中学校時代のことをたくさん教えてくれた。
『俺達の幼馴染の、長澤凛。あいつと由里は親友だったんだけど、凛が俺のことを好きだったらしくて……』
なるほど。凛が圭介のことを好きだったけれど、由里が圭介と付き合ってしまったため、由里と凛の関係が壊れてしまったのか。
「分かった。色々ありがとう」
『もちろん。また遊ぼうな!』
と電話を切った。次に怪しいと思われている2人目の候補、凛に電話をかけた。
「もしもし。皆川健だけど、覚えてる?」
『え、健ちゃん? すごい久しぶりじゃん。覚えてるに決まってるよ! どうしたの?』
明るい口調は今も昔も変わっていなかった。凛にも今回の事件のことを話した。
『……由里、亡くなったの?』
声が震えていた。僕は心が痛くなりながらも、先程の圭介の話を聞いた。
『……そう、私は圭介のことが昔から好きだった。ずっと隣にいたのは私なのに……羨ましかったの、由里のことが』
どうやら、その話は本当のようだった。僕は更に探りを入れた。
「あと、怪しい人とかいないかな。由里のことを恨んでる人」
『……ゆかり覚えてる?由里ね、クラスで超人気者だったの。それに嫉妬してゆかりが陰口言ってた』
確かにゆかりは、目立ちたがりだった。
自分が1番じゃないと気が済まない、という感じ。だから納得はできた。
「ありがとう、凛」
『ううん。由里のお墓行って、私謝らないとだね。もう遅いけど……』
声を押し殺して泣いているようだった。僕は胸が苦しくなった。
そして3番目の候補、真田ゆかりに電話をかけた。
「もしもし、ゆかり?急にごめん」
『え、健ちゃんじゃん! 元気だった? てか急にどうしたの?』
ゆかりも、明るくて陽気な口調は変わっていなかった。
早速僕は今回の事件のことと、凛が言っていた話をゆかりに伝えた。
『ニュース見たよ、由里亡くなったんだね。そうだよ、私は由里のことを悪く言ってた。誰からも愛される由里が羨ましかったから』
そうだよな、と僕は思った。
ゆかりのご両親は離婚していて、お父さんの方に着いていったらしい。
でも中学生の頃からずっとお父さんは酒まみれで話すら聞いてくれない状態だと言っていた。
とても辛かったんだろうな……。
「ありがとう。じゃあ他に怪しい人はいない?」
『いるいる、圭介だと思う。圭介と由里は恋人だったんだけど、由里が別れたくないって泣きながら必死に止めようとしたのに、圭介はそれを押し切って別れたんだよ。冷たいなって思った』
……結局3人とも、お互いが怪しいって言ってるじゃないか。
誰なんだろう。この中に犯人はいるのか?
「……ゆかりは24日の夜何してた?」
『その日は圭介と凛と久々に会って、寿司屋に行ってたよ。19時くらいに圭介が、20時くらいに凛が帰った。私はその後家に直行したかな』
じゃあ、3人とも殺害することは可能だ。
でも、何故だ?よりによって由里が殺害された日に3人集まっている。
そんなことあり得るのか?
犯人が殺害計画を企んで、アリバイを作るために3人を集めたのかもしれない。
「……色々ありがとう」
と言って電話を切った。
①川原圭介
24日19時に帰宅。
中学のとき由里と恋人関係だった。
②長澤凛
24日20時に帰宅。
中学のとき由里とトラブルがあった。
③真田ゆかり
24日20時過ぎに帰宅。
中学のとき由里の陰口を言っていた。
こんな感じだろうか。
情報を整理しながら僕は由里のお墓へ足を運んだ。
「由里。クリスマス過ぎちゃったね。
そっちの世界では元気にしてる?」
心の中で問いかけた。
僕は由里が好きだった白い百合の花を仏壇へ置いた。
「……皆川」
僕が立ち去ろうとした瞬間、浅田が来た。
「なんで浅田がここに?」
「……ああ、クラスの代表で花束を持っていくことになってさ。俺がここに来たってわけ」
浅田も驚きながら花束を由里の仏壇へそっと置いた。
「……スノードロップ?」
「そう、スノードロップって“希望”とか“慰め”って意味があるらしいし。新川が向こうで幸せに暮らせてればいいなって思ってさ」
ニコッと浅田は笑った。その笑顔には何かの感情を隠している気がした。
由里が亡くなって1週間。結局、事件は明らかになっていないままだった。警察も毎日事件が起こって忙しく、由里の事件ばかり捜査するのは難しいそうだ。
「あれ、健ちゃん!」
「本当だ、健ちゃん」
「お前元気にしてた?」
たまたま町を歩いていたら、圭介、凛、ゆかりの三人に会った。
「みんな久しぶり。この前電話したけどね」
「まあね!」
「ところで三人は何をしてるの?」
と僕は聞いた。電話をしたとはいえ、小学校ぶりに直接話すので少し緊張していた。
「ほら、お前から電話あっただろ? 新川のこと。それで俺ら考えたんだ。新川を殺害した犯人を見つけようって」
「そうそう、健ちゃんも捜査してるんだよね?」
「私達にも協力させて」
……三人とも、やっぱり犯人に思えない。こんなにも優しい心を持っている人なのだから。
「由里、几帳面なところあったよね」
「そうそう、身内のこととか何も話してくれなかったもん」
「誰にも、本当の気持ちを打ち明けてなかったんだろうな」
その三人の言葉に、何か引っ掛かった。
几帳面、身内のことを誰にも話していない……?
「それ、本当? 身内のことを誰にも話していないって」
「え? ああ、うん、多分ね」
「昔、家族と色々あったらしいよ。でもお兄さんとは仲が良かったって」
「彼氏の俺にも打ち明けてくれなかったんだよ。今はごめん、話したくないって。だから誰にも言ってねえと思う」
……じゃあ、あの人はなぜ、由里に兄弟が居ないことを知っていたんだ?
どうして、彼氏の圭介にも教えていないことを知っていたんだ?
「……みんな、もしかしたらなんだけど」
そして翌日。僕は、いや僕たちは、“あの人”の家へ足を運んだ。
「……あれ、皆川じゃん。それに三人も。どうしたの?」
「……浅田、聞きたいことがあるんだけど」
僕は息をゆっくり吸って、こう言った。
「由里を殺害したのは、君だよね?」
「……なんで、俺なんだよ」
浅田の声は震えていた。
「確かに、俺は新川と友達だった。でも特別な関係なんてない」
「それだよ、その特別な関係ってやつ。俺と由里が付き合っていたこと、こいつら以外に話してないんだけど」
「……俺が新川を殺害したって証拠は? あるのかよ」
浅田は動揺していた。これは間違いないと思う。
「じゃあ24日、俺達三人を寿司屋に集めたのは誰?」
そう。あの由里が殺害された24日、圭介、凛、ゆかりを呼び出したのは浅田だった。圭介は凛が、凛はゆかりが、ゆかりは圭介が三人を呼び出したのだと思っていたらしい。けれど本当は、浅田が三人を集めたのだった。
「……ち、違う。俺は本当に……」
「由里と義理の兄妹だったんでしょ?」
「……っ」
色々と調べたら、5月に由里のお父さんと浅田のお母さんが再婚したらしい。そして二人は何かがあったのだろう……。きっとその何かが、由里を殺害した動機なのだと考察した。
「違う? 浅田、正直に答えて」
浅田は俯いた。
「……そうだよ、俺が新川を殺した」
「なんで……!」
「俺は……っ、俺は再婚なんて反対だったんだ。しかも中学と高校の同級生だった女の親父と。でも、新川は反対しなかったんだ……っ」
「なあ、俺のお母さんと新川の親父が結婚なんて反対なんだけど。新川も反対だろ?」
「え、私は賛成だよ。私はお父さんが幸せならそれでいいんだ」
浅田は、その当時のことを俺達に話してくれた。何も嘘をつかずに、真実を。
「それだけならまだ良かった。けど、5月に結婚して、10月になったある日。新川の親父が浮気したんだ」
「お前の親父、浮気してたんだけど。本当に新川はそれでいいの?」
「うーん。最低だと思うけど、お父さんが幸せならいいかな。浅田くんのお母さん、あんまり優しくないんだもの……」
それを聞いて、浅田は怒りが湧いてきたらしい。女手一つで育ててくれたお母さんを悪く言った、由里に。
「あの女は、母さんを馬鹿にし、俺の人生を全て狂わした。それにあいつの親父もだ。もう我慢の限界だったんだ」
それで12月24日の夜、三人を集め、犯人にされるよう仕向けたのか……。
「……皆川も見たろ?俺がスノードロップをあいつの墓に置いたところ。スノードロップって、“貴方の死を望みます”って意味もあるらしいぜ。あいつ、あっちの世界でも苦しんでると良いな、ははっ」
浅田は狂ったように豪快に笑った。僕は、怒りがみなぎってきた。
「……浅田」
「おい、健、大丈夫か?」
「け、健ちゃん? 落ち着いて」
みんな僕のことを止めた。けれど僕は、勢いが止まらなかった。
「お前、それでも人間かよ……人一人殺して、のうのうと生きていて。お前にはこの気持ちが分かるか? 大切な恋人が殺されて、本当に寂しくて、寂しくて……っ。なんなんだよ、お前が生きていて由里が生きていないの、おかしいだろ!! なんでこの世界はこんなに醜いんだよ……っ」
はあ、はあ、はあ……と、僕は息が上がっていた。辛い、悲しい、寂しい、今すぐにでもこいつを殺してやりたい。でも、それだときっと由里が悲しむから。この世界はどうして、こんなに醜いのだろう……?
「……浅田、警察呼んだから、そろそろ来るよ。お前、自主しな」
「そうだよ、お前逃げたんだから。その分の罪償いな」
「健ちゃんだけじゃないよ。私達も許さないからね」
三人とも、そう言ってくれた。僕は更に涙を流してしまった。
「みんな、ありがとう……」
それから数分後に警察が来て、僕達は事情聴取を受けることになった。そして浅田は自主し、罪を償うことになった。
「……由里」
僕は由里のお墓へ足を運んだ。
「由里、犯人を捕まえられたよ。復讐ができた。まあ、友達に支えられたんだけどね。由里、会いたい……。僕が守ってあげられていたら、こんなことにはなっていなかったよね……」
静かに息を吐き、手を合わせた。
「由里がそっちの世界で、幸せに暮らせていますように。また来るね」
僕はその場から立ち去った。
この世界はどうしてこんなに残酷なのだろう。誰にでも幸せになる権利は、あるはずなのに。僕はそう考えながら、この残酷な世界の真っ青な空を見上げていた。
もしあなたの大切な人が、殺害されたら。
更にその犯人が、自分の友人だったら。
あなたはどうしますか――?
「じゃあ健(けん)ちゃん、また明日。
クリスマス楽しみだね!」
そう言っていた彼女は、5日前に亡くなった。
『〇△町にて殺人事件が起きました。
新川 由里(あらかわ ゆり)さん、高校1年生。
凶器は未だ判断できていないようです。犯人は逃亡中の模様です』
このニュースを聞いたとき、僕は絶望した。
また明日、と言っていた彼女が亡くなったなんて。
僕と由里は恋人だった。中学のときに出会い、一目惚れをした。彼女の方から告白され、お付き合いを始めた。
由里は明るくて、常に笑顔の子だった。涙を見せたことなんて1度もない。
そんな素敵な子が、どうして亡くなるのだろうと疑問に思った。それと同時に、決意した。
“犯人は僕が見つけよう”と。
探偵の知識もないし、そんな簡単に見つけられるとは思わない。けれど、そいつに会って復讐したいと思った。
12月24日、18時から21時の間。
彼女が何者かによって殺害された。
どうやって犯人は殺害したのだろう?
犯人は何の動機を持っていたのだろう?
疑問でいっぱいだった。
「おーい、皆川(みなかわ)。居る?」
突如、クラスの浅田 悠希(あさだ ゆうき)が僕の家へ訪れた。
浅田は由里と小学校から仲が良かったらしい。
「浅田。ごめん、どうしたの?」
「ん、皆川今日休んでたから見舞いに来た。まあ元気そうなら良かった」
僕は皆川健(みなかわ けん)という名前で、昔から健ちゃんと呼ばれることが多かった。
高校に入って苗字で呼ばれることが多くなったので、不思議な感じだ。
「体調は大丈夫。ありがとう」
「恋人が亡くなってるんだもんな。無理すんなよ」
と優しい笑顔で言ってくれた。
「うん。浅田は、由里を殺害した犯人ってどういう人だと思う?」
由里は自宅で殺害されたから、通り魔ではないことは確かだ。
「んーそうだなあ。新川のことを恨んでた人だとは思うけど。あいつは兄弟もいなかったらしいし……。あるとしたら友達じゃないかな」
やっぱり、由里の友人なのだろうか。でもあの
由里を恨む理由なんて考えられない。
「由里のことを恨んでた人、心当たりない?」
「……中学のとき、あいつ女子とトラブルがあったらしい。あと彼氏と揉めてたな」
「分かった。名前教えて」
僕は浅田にその人の名前を教えてもらった。
①川原圭介(かわはら けいすけ)
②長澤凛(ながさわ りん)
③真田ゆかり(さなだ ゆかり)
この3人が怪しい、と。
ただ、この3人には僕とも共通点がある。
“僕と幼馴染”だということだった。
名前を聞いたときにはびっくりした。
この3人とは幼稚園が一緒で、小さい頃からよく遊んでいた。
圭介と由里が恋人同士になっていたとは、僕も初耳だった。
凛もゆかりも陽気で優しい人だったから、トラブルがあったなんて驚きだ。
早速、1人1人に電話をかけることにした。
中学校は僕だけ受験したから、小学校の卒業式以来話していないことになる。少しだけ緊張してしまった。
『もしもし。健?』
「久しぶり、圭介。急にごめん」
『めっちゃ久しぶりだな。どうした?』
声や性格は相変わらず変わっていないようだ。僕は自分の心を落ち着かせ、今回の事件のことを話した。
『そうだよ。確かに俺達は付き合っていた。でも高校が離れ離れになるから俺から振ったんだ』
「そうだったのか……。じゃあ、怪しい人物とか居ない?由里のことを恨んでいそうな人」
念のため、圭介にも聞いた。由里の中学校時代のことをたくさん教えてくれた。
『俺達の幼馴染の、長澤凛。あいつと由里は親友だったんだけど、凛が俺のことを好きだったらしくて……』
なるほど。凛が圭介のことを好きだったけれど、由里が圭介と付き合ってしまったため、由里と凛の関係が壊れてしまったのか。
「分かった。色々ありがとう」
『もちろん。また遊ぼうな!』
と電話を切った。次に怪しいと思われている2人目の候補、凛に電話をかけた。
「もしもし。皆川健だけど、覚えてる?」
『え、健ちゃん? すごい久しぶりじゃん。覚えてるに決まってるよ! どうしたの?』
明るい口調は今も昔も変わっていなかった。凛にも今回の事件のことを話した。
『……由里、亡くなったの?』
声が震えていた。僕は心が痛くなりながらも、先程の圭介の話を聞いた。
『……そう、私は圭介のことが昔から好きだった。ずっと隣にいたのは私なのに……羨ましかったの、由里のことが』
どうやら、その話は本当のようだった。僕は更に探りを入れた。
「あと、怪しい人とかいないかな。由里のことを恨んでる人」
『……ゆかり覚えてる?由里ね、クラスで超人気者だったの。それに嫉妬してゆかりが陰口言ってた』
確かにゆかりは、目立ちたがりだった。
自分が1番じゃないと気が済まない、という感じ。だから納得はできた。
「ありがとう、凛」
『ううん。由里のお墓行って、私謝らないとだね。もう遅いけど……』
声を押し殺して泣いているようだった。僕は胸が苦しくなった。
そして3番目の候補、真田ゆかりに電話をかけた。
「もしもし、ゆかり?急にごめん」
『え、健ちゃんじゃん! 元気だった? てか急にどうしたの?』
ゆかりも、明るくて陽気な口調は変わっていなかった。
早速僕は今回の事件のことと、凛が言っていた話をゆかりに伝えた。
『ニュース見たよ、由里亡くなったんだね。そうだよ、私は由里のことを悪く言ってた。誰からも愛される由里が羨ましかったから』
そうだよな、と僕は思った。
ゆかりのご両親は離婚していて、お父さんの方に着いていったらしい。
でも中学生の頃からずっとお父さんは酒まみれで話すら聞いてくれない状態だと言っていた。
とても辛かったんだろうな……。
「ありがとう。じゃあ他に怪しい人はいない?」
『いるいる、圭介だと思う。圭介と由里は恋人だったんだけど、由里が別れたくないって泣きながら必死に止めようとしたのに、圭介はそれを押し切って別れたんだよ。冷たいなって思った』
……結局3人とも、お互いが怪しいって言ってるじゃないか。
誰なんだろう。この中に犯人はいるのか?
「……ゆかりは24日の夜何してた?」
『その日は圭介と凛と久々に会って、寿司屋に行ってたよ。19時くらいに圭介が、20時くらいに凛が帰った。私はその後家に直行したかな』
じゃあ、3人とも殺害することは可能だ。
でも、何故だ?よりによって由里が殺害された日に3人集まっている。
そんなことあり得るのか?
犯人が殺害計画を企んで、アリバイを作るために3人を集めたのかもしれない。
「……色々ありがとう」
と言って電話を切った。
①川原圭介
24日19時に帰宅。
中学のとき由里と恋人関係だった。
②長澤凛
24日20時に帰宅。
中学のとき由里とトラブルがあった。
③真田ゆかり
24日20時過ぎに帰宅。
中学のとき由里の陰口を言っていた。
こんな感じだろうか。
情報を整理しながら僕は由里のお墓へ足を運んだ。
「由里。クリスマス過ぎちゃったね。
そっちの世界では元気にしてる?」
心の中で問いかけた。
僕は由里が好きだった白い百合の花を仏壇へ置いた。
「……皆川」
僕が立ち去ろうとした瞬間、浅田が来た。
「なんで浅田がここに?」
「……ああ、クラスの代表で花束を持っていくことになってさ。俺がここに来たってわけ」
浅田も驚きながら花束を由里の仏壇へそっと置いた。
「……スノードロップ?」
「そう、スノードロップって“希望”とか“慰め”って意味があるらしいし。新川が向こうで幸せに暮らせてればいいなって思ってさ」
ニコッと浅田は笑った。その笑顔には何かの感情を隠している気がした。
由里が亡くなって1週間。結局、事件は明らかになっていないままだった。警察も毎日事件が起こって忙しく、由里の事件ばかり捜査するのは難しいそうだ。
「あれ、健ちゃん!」
「本当だ、健ちゃん」
「お前元気にしてた?」
たまたま町を歩いていたら、圭介、凛、ゆかりの三人に会った。
「みんな久しぶり。この前電話したけどね」
「まあね!」
「ところで三人は何をしてるの?」
と僕は聞いた。電話をしたとはいえ、小学校ぶりに直接話すので少し緊張していた。
「ほら、お前から電話あっただろ? 新川のこと。それで俺ら考えたんだ。新川を殺害した犯人を見つけようって」
「そうそう、健ちゃんも捜査してるんだよね?」
「私達にも協力させて」
……三人とも、やっぱり犯人に思えない。こんなにも優しい心を持っている人なのだから。
「由里、几帳面なところあったよね」
「そうそう、身内のこととか何も話してくれなかったもん」
「誰にも、本当の気持ちを打ち明けてなかったんだろうな」
その三人の言葉に、何か引っ掛かった。
几帳面、身内のことを誰にも話していない……?
「それ、本当? 身内のことを誰にも話していないって」
「え? ああ、うん、多分ね」
「昔、家族と色々あったらしいよ。でもお兄さんとは仲が良かったって」
「彼氏の俺にも打ち明けてくれなかったんだよ。今はごめん、話したくないって。だから誰にも言ってねえと思う」
……じゃあ、あの人はなぜ、由里に兄弟が居ないことを知っていたんだ?
どうして、彼氏の圭介にも教えていないことを知っていたんだ?
「……みんな、もしかしたらなんだけど」
そして翌日。僕は、いや僕たちは、“あの人”の家へ足を運んだ。
「……あれ、皆川じゃん。それに三人も。どうしたの?」
「……浅田、聞きたいことがあるんだけど」
僕は息をゆっくり吸って、こう言った。
「由里を殺害したのは、君だよね?」
「……なんで、俺なんだよ」
浅田の声は震えていた。
「確かに、俺は新川と友達だった。でも特別な関係なんてない」
「それだよ、その特別な関係ってやつ。俺と由里が付き合っていたこと、こいつら以外に話してないんだけど」
「……俺が新川を殺害したって証拠は? あるのかよ」
浅田は動揺していた。これは間違いないと思う。
「じゃあ24日、俺達三人を寿司屋に集めたのは誰?」
そう。あの由里が殺害された24日、圭介、凛、ゆかりを呼び出したのは浅田だった。圭介は凛が、凛はゆかりが、ゆかりは圭介が三人を呼び出したのだと思っていたらしい。けれど本当は、浅田が三人を集めたのだった。
「……ち、違う。俺は本当に……」
「由里と義理の兄妹だったんでしょ?」
「……っ」
色々と調べたら、5月に由里のお父さんと浅田のお母さんが再婚したらしい。そして二人は何かがあったのだろう……。きっとその何かが、由里を殺害した動機なのだと考察した。
「違う? 浅田、正直に答えて」
浅田は俯いた。
「……そうだよ、俺が新川を殺した」
「なんで……!」
「俺は……っ、俺は再婚なんて反対だったんだ。しかも中学と高校の同級生だった女の親父と。でも、新川は反対しなかったんだ……っ」
「なあ、俺のお母さんと新川の親父が結婚なんて反対なんだけど。新川も反対だろ?」
「え、私は賛成だよ。私はお父さんが幸せならそれでいいんだ」
浅田は、その当時のことを俺達に話してくれた。何も嘘をつかずに、真実を。
「それだけならまだ良かった。けど、5月に結婚して、10月になったある日。新川の親父が浮気したんだ」
「お前の親父、浮気してたんだけど。本当に新川はそれでいいの?」
「うーん。最低だと思うけど、お父さんが幸せならいいかな。浅田くんのお母さん、あんまり優しくないんだもの……」
それを聞いて、浅田は怒りが湧いてきたらしい。女手一つで育ててくれたお母さんを悪く言った、由里に。
「あの女は、母さんを馬鹿にし、俺の人生を全て狂わした。それにあいつの親父もだ。もう我慢の限界だったんだ」
それで12月24日の夜、三人を集め、犯人にされるよう仕向けたのか……。
「……皆川も見たろ?俺がスノードロップをあいつの墓に置いたところ。スノードロップって、“貴方の死を望みます”って意味もあるらしいぜ。あいつ、あっちの世界でも苦しんでると良いな、ははっ」
浅田は狂ったように豪快に笑った。僕は、怒りがみなぎってきた。
「……浅田」
「おい、健、大丈夫か?」
「け、健ちゃん? 落ち着いて」
みんな僕のことを止めた。けれど僕は、勢いが止まらなかった。
「お前、それでも人間かよ……人一人殺して、のうのうと生きていて。お前にはこの気持ちが分かるか? 大切な恋人が殺されて、本当に寂しくて、寂しくて……っ。なんなんだよ、お前が生きていて由里が生きていないの、おかしいだろ!! なんでこの世界はこんなに醜いんだよ……っ」
はあ、はあ、はあ……と、僕は息が上がっていた。辛い、悲しい、寂しい、今すぐにでもこいつを殺してやりたい。でも、それだときっと由里が悲しむから。この世界はどうして、こんなに醜いのだろう……?
「……浅田、警察呼んだから、そろそろ来るよ。お前、自主しな」
「そうだよ、お前逃げたんだから。その分の罪償いな」
「健ちゃんだけじゃないよ。私達も許さないからね」
三人とも、そう言ってくれた。僕は更に涙を流してしまった。
「みんな、ありがとう……」
それから数分後に警察が来て、僕達は事情聴取を受けることになった。そして浅田は自主し、罪を償うことになった。
「……由里」
僕は由里のお墓へ足を運んだ。
「由里、犯人を捕まえられたよ。復讐ができた。まあ、友達に支えられたんだけどね。由里、会いたい……。僕が守ってあげられていたら、こんなことにはなっていなかったよね……」
静かに息を吐き、手を合わせた。
「由里がそっちの世界で、幸せに暮らせていますように。また来るね」
僕はその場から立ち去った。
この世界はどうしてこんなに残酷なのだろう。誰にでも幸せになる権利は、あるはずなのに。僕はそう考えながら、この残酷な世界の真っ青な空を見上げていた。