「まっさか、お前みたいな黄色人が居るなんてな。」
オーザックが、頭の後ろに両手を組みながらエルダに言った。
「そんなにも、その黄色人は酷いのか?」
「あぁ、とっても。」
オーザックは、両手をストンと下ろして、少し真剣な表情でそう言った。
「………………そうか………………」
エルダも、オーザックのその様子を見て、少し憂鬱になった。
「黄色人にとって俺らって、ただの商売道具にしか違いねぇんだ。俺達の素材は高く売れる。特に内臓系は。」
「…………何故そう言えるんだ?」
「幼い時から、目の前で村の奴らが黄色人に殺されて、内臓を引っ張りだされて、もぬけの殻になった死体を投げ捨てられる様を、何度も何度も目の当たりにしてたからな。そんだけ内臓もがれれば、内臓が高く売れる事なんて、容易に想像つく。」
エルダは、黙り込んだ。
「まっ、エルダはそんな奴じゃ無いだろうから、俺は信頼しているが。」
そう言ってオーザックは、また再び、両手を頭の後ろで組んだ。
「それは光栄だな。」
エルダは、少し口角を上げながら、そう言った。
「そういや、あいつも、エルダに似ていたっけな。」
オーザックが、そっと呟いた。
だが、その小さな声は、エルダの耳に届かなかった。
「なぁ、エルダは、これから急ぎの用事でもある?」
「いや、急ぎって訳じゃないけど。一応。」
「じゃぁさ、一度俺の村に来てくれよ!」
オーザックが、満面の笑みで、エルダに言った。
「でも…………俺は黄色人だろ? その村の村民は、俺を良いように思わないと思うのだが…………」
「そ、それは………………」
オーザックが、笑みを消し、その事が盲点であった事に失意した。
「お、俺が村の連中を説得するからさ。これでも俺、村では信頼されているだろうからさ。」
オーザックが、あたふたしながら少し早口にそう言った。
何かを隠しているだろうと予想出来る仕草であったが、エルダは特に深堀しなかった。
隠すのであれば、それなりの理由がある訳だし、わざわざそれらを言わせるのもなんだか違うから、何も聞かないのが一番だと、エルダは考えたのだ。
「オーザックがそう言うなら………………」
エルダが渋々許可を出すと、
「やったぁーー!!!!」
と大声で叫び、再び、満面の笑みをうかべた。
だが、その時の笑みは、何か心残りの有りそうな、完全に喜びきっていない笑みだった。
オーザックの村は、現在地(アルゾナ王国国境南端付近)から、丁度西南西の方角に丸一日程歩いた場所にあるらしい。
その村の面積は、まぁまぁの広さであり、その技術力は村と呼ぶに相応しいものであった。
家屋は全て木造であり、当然、基礎がちゃんとした家ではなく、雨漏りは勿論、床の隙間から風が吹き続ける。
当然村では、魔法は普及していない。
そんな村である。
次の日から二人は、オーザックの村に向かって、歩いた。
丸々一日歩き続けるのは流石にしんどいので、ニ日間に分けて移動する。
予定としては、二日目の朝時に到着であった。
行きしな。エルダとオーザックは、和気藹々と喋り続けた。
オーザックはあまり自分から話をしなかったが、エルダは、スラムでの事やアルゾナ王国での事など、過去の話題が尽きなかった。
それらをオーザックは、終始満面の笑みで、刻々と頷きながら聞いた。
エルダもそれが楽しく、その会話は、この森の静寂を打ち消すように陽気であった。
次日の朝方。
昨日と同じ様に、オーザックと話しながら進んでいると、オーザックのものではない話し声が薄っすらと聞こえた。
「この声はなんだ?」
その声を聞いたエルダは、話を中断し、オーザックに聞いた。
「多分、村の奴らの声だよ。もうそろそろ到着かな?」
オーザックは、そう言いながら少し俯いた。
何か、村に行くのが乗り気でないような雰囲気であった。
村に行くのが嫌なのか。
抑オーザックは何故、村から位置に以上歩かないと行けないような場所にいたのか。
村からお出かけに行くにも、距離が遠すぎるし。
村に行きたくないのか。
エルダにはわかり兼ねたが、オーザックは、そんな事を悟られているとは知らず、エルダを村に呼んだことを少し後悔しながら、村へと歩き続けた。
樹々の隙間から、建物らしき物が見えた。
「あれが村か?」
エルダが、その建物を指差しながらオーザックに聞いた。
「あぁ、そうだな。」
オーザックが、歩く足をゆっくりと止めながら言った。
「どうした?」
足を止めたオーザックに困惑するエルダ。取り敢えずエルダも、オーザックの隣で足を止めた。
「あのー…………さ…………………………」
オーザックが、掠れた声でエルダに話しかけた。
「ん?」
「実はさ………………俺さ…………………………」
オーザックが、言葉に詰まりながら、何か言おうとしている。
エルダは困惑したが、この場の雰囲気的に何か言い出せる筈もなく。ただただ次のオーザックの一言を待った。
「俺さ………………村の奴に、信頼されてないんだよね。だからさ、エルダが村への入村許可の交渉も、出来ないかも知れないんだ………………」
エルダは呆れた。
前に俺は"信頼されてる"とか大口を叩いておいて、結局は全部嘘だったのだ。
あの時に何か隠していたのは、こういう事だったのだろう。
でも何故隠したのか。
エルダに村に来て欲しかった。
恐らくその目的である可能性が非常に高い。
だが、その為に嘘を吐くのは、幾ら怒りにくいエルダであっても、容認出来なかった。
「そうか…………そうか……………………」
エルダが、呆れながらも返事をする。
「すまない…………今まで隠していて………………嘘をついて…………………………」
オーザックは、エルダに対して必死に頭を下げる。
エルダは、そんな物には目もくれず、さっさと村から離れようとした。
「ちょっとまって…………………………」
今にも消えてしまいそうな声で、離れていくエルダを、オーザックは、追いかけていた。
とその時。
「誰だ?!」
村に中から突然、馬鹿デカイ声が聞こえた。
エルダたちが見つかったのだ。
「オーザックだ。」
村の者に対して、少しやる気にない声で質問に答えた。
取り敢えずエルダとオーザックは、村の入口前にて、待たされた。
そして十分後。
村の奥から、如何にも行政者であるような立ち振舞をする者がいた。
その者を見て、オーザックは言った。
「クレリア村長………………」