――――――――――一週間前
「帰りが遅いと思えば。こんな辺鄙な所で寝ていたとは…………まぁ、今こうなっている事は、全部知ってたけど。」
「………………エルダ?」
その看守の顔を見て、グリリアが呟いた。
「…………何故此処に……? それにその格好……まさか………………!」
「あぁ、ご察しの通り。あまりにも帰りが遅いもんだから、信頼できる人にミロルを任せて潜入調査をしてるって話。」
「…………信頼できる人って?」
「………………終わった後に話す。」
エルダは、少し急いていた。
エルダに聞いた話によるとこうだ。
その“信頼できる人”が到着したのは、グリリアやサラナがオークション会場へ出発した直後らしい。
そして、作戦終了予定時刻を大幅に過ぎ、違和感を覚えたエルダは、その“信頼できる人”にミロルを任せ、オークション会場へ向かった。
そしてグリリア達が救出しそびれた奴隷計十人を救出し、グリリアの家で匿った。
その後エルダは、もう一度オークション会場へ向かい現場を調べていると、グリリアの持っていったウィッグが裏口前に落ちていたらしい。
そして、そこから伸びていた馬車の轍を調べると、サラナの乗ってきた物と一致した。
その轍を辿って行くと、王城へ到着した事から、エルダはグリリアの逮捕とサラナの裏切りを悟ったらしい。
その後、グリリアとサラナ救出と、サラナの夢の為、中央都市に一般販売されていた王城地図を購入し、家で救出方を探った。
そして調べ始めて数日。
エルダはある事に気付いた。
何処を見ても、王室の位置が記載されていないのだ。
それどころか、玉座の位置までも。
これでは、サラナの夢の成就が叶わなくなる。
そこでエルダは、王城潜入を思いついた。
王城潜入をしていて、判ったことがあった。
先ず、ノールは生きていた。
地下牢の最奥に、両手足を拘束された状態でいた。
あまりにも酷い環境だったらしい。
エルダでも見ていられなかったと言う。
牢の鍵は複雑でいて頑丈。
浮遊魔法を使えば助けられるかもしれないが、万が一逃げている途中に他兵に遭遇すれば、ノールの守護と兵の再起不能を同時に行わなくてはならない。
できないことは無いだろうが、万一の事を考えると、浮遊魔法を使用した逃亡は危険だった。
「…………そこまでが、今までの経緯だ。」
「成程………………!」
グリリアが、エルダの行動力に驚愕した。
先ず、その“信頼できる人”の到着がグリリア達出発の直後だとすれば、サラナの裏切りや、作戦の支障を事前に予想していたという事になる。
いや、予想では無く、確信があったのだろう。
「…………でもまぁ、ミロルの母さんが生きていて良かった。」
「それが判った時には俺も安堵したよ。」
グリリアは、深くため息を一つ吐いた。
「あっ、そういや。」
そう言いながらエルダは、サラナの方に体を向けた。
「サラナの事を密告したのは、実を言うと俺なんだ。すまん。」
その言葉に、困惑が隠せないサラナ。
当然だ。
信じていた人が、自分を王政に密告して死刑に追い込もうとしているのかもしれないのだから。
「嗚呼安心してくれ。絶対死なせたりしない。作戦があるんだ。サラナを密告したのも、その作戦の成功率を高める為だし。」
その後エルダは、自身の考えた作戦を説明した。
エルダは、死刑執行のほんの直前から、王城へと奇襲をかける。
その時の混乱に乗じてグリリアとサラナはマスターキーを奪い、ノールの救出に向かう。
その間、他兵の邪魔が入らない様に、そこの道はエルダが守る。
そして救出が完了した後、直ぐに退散。
サラナを密告したのは、サラナが居る方が見物人の人数も増え、その大勢の混乱が、エルダの襲撃対応に遅れを生じさせると考えたから。
そして若し、手錠や足枷などの拘束具が取り付けられていれば、煙幕で執行人の視界を奪って執行用の剣を浮遊魔法で盗み、それを使って拘束具を外す。
そして、
「サラナの夢を叶えたいのであれば、グリリアだけ逃げ、サラナと俺だけ残り、国王と決着をつけると言う手もある。」
それを聞いて、サラナは はっとした。
「どうする? サラナ。」
「………………やりたい。今度こそ!」
「よーし決まりだ。煙幕弾とかの準備は、こちらで何とかやっておく。」
エルダは、周りをキョロキョロ見渡して、他の看守がいない事を確認してから言った。
「ノールの入っている牢は、グリリア達が入っているこの牢の前の道を真っ直ぐ進んだ突き当たりにある階段を降りた最奥にいる。
そして、作戦開始は………………」
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「二人が手錠の付いているであろう両手を上げた瞬間からだ。」