「………………出ろ」

 監禁されてから約二週間後。
 いつもとは違う看守が、牢を解錠しながらそう言った。
 サラナとグリリアは、その意味を直様理解した。
 釈放…………の訳がない。


 死刑執行の時間だ。












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「…………それじゃぁ父さん。ミロルと元女性奴隷達を、宜しく。」
「…………おうよ。任せろ。」






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 グリリアとサラナは、手錠と足枷をかけられた。
 歩ける程度の重量をした鉄球。
 古典的ではあるが、逃亡を阻止するにはもってこいである。
 ならば、逃亡防止と経費削減の両方のメリットがある足枷をかける。

 そんな事、サラナとグリリアは当然理解していた。




 歩き始め、階段を登り。
 次第に、死刑会場の騒めきが聞こえて来る。
 階段を上がれば、目の前が死刑会場となる王城のエントランスである。
 その中心で、死刑が執行される。
 そして見物人は、その罪人を円状に囲む。
 一般的な見物人の人数は、十人から三十人程度。
 筋骨隆々の男の処刑ならば人数は少なく、それが可憐な女性であれば見物人も増える。
 実に単純であった。
 だが今回の処刑は、絶世の美女であり国王第一秘書であるサラナが受ける。
 なので、どれ程の人数が来ているか、想像出来ない。
 グリリアを見に来る者は少ないとして、サラナが処刑されるという情報が出回っている以上、恐らく数百人は来ているだろう。
 大勢の見ている前で殺されるのか。


 いいや。より大勢の方が都合が良い。



 階段を登り終え、見物人の量を確認した。
 ざっと見た感じ、凡そ二百人は居るだろう。

「ほら。さっさと歩け。」

 そう言って看守が、サラナの臀部を蹴り飛ばした。
 それを見たグリリアが看守の事を睨んだが、当然看守は、そんな事に気付かない。
 仕方無くグリリアとサラナは、死刑場(エントランス)へと歩き始めた。



 ドサッ

 グリリアとサラナは、床に跪いた。
 そして、死刑執行人に言われるがまま、首を下に向け、頸を天に向けた。

 そして、執行人が、ゆっくりと懐に携えていた剣を抜刀した。
 場がしんと静まりかえる。
 美女の首が飛ぶ。
 国王秘書の首が飛ぶ。
 早く見たい。
 早く斬れ。
 見物人は皆、そう思った。
 ここに居る全員が、サラナとグリリアの死を期待した。
 早く。
 早く。
 早くしてくれ。


 二人の執行人が、同時に剣を天高く掲げた。

「これより、罪人グリリア・スクリ、及び罪人サラナ・モルドの死刑を執行する! 貴様ら見物人は、自分達国王の秘書の首が飛ぶ、歴史的瞬間を目にするのだ! あの絶世の美女と謳われてきたサラナ・モルドの首が飛ぶのだ!
 篤と見るがいい!
 カルロスト連邦国史に刻まれんとする瞬間を!」

 執行人のその言葉に、歓声が起こった。

 そして執行人は、掲げていた剣を両手で握った。

「恨むなら、自身の行いを恨むがいい!
 いざ!」

 場が沈黙に包まれる中、その執行人の叫びが場に響き、再び沈黙がやったきた。



 死ぬ。



 皆がそう思った瞬間。




 バッ!

 グリリアとサラナは、手錠の付いた両手を、天高く掲げた。

「…………何を?」

 執行人がそう呟いたのも束の間。
 天井から何かが落ちてきて、その場が煙幕に包まれた。
 皆が困惑する中。

「あれっ?」

 突然、執行人の握っていた剣が手から離れた。

「…………何が………………?!」

 剣が手から離れ手から十秒後。
 煙幕が晴れ、視界が戻ってきた。
 すると。


「…………………………っっ!!」

 執行人の目に前に、サラナとグリリアの姿は無く、いつの間にか、自身の腰に欠けていた地下牢のマスターキーも無くなっていた。

「糞っ! 彼奴等!」

 よく見ると、執行人の足元には、鎖の切れた足枷(鉄球)が落ちていた。
 それを見て執行人は察した。
 恐らく、さっきまで握っていた剣を奪われ、それで足枷と手錠を切った後、鍵を奪って逃亡したのだと。
 だが、あんなに手錠を付けられていて、剣を奪えるはずが無い。
 しかも、もし奪えたとて、足枷を切り離すのは不可能な筈。
 考えられるのは、協力者の存在。

 だが今は、そんな事を考えている暇は無かった。
 サラナとグリリア(奴等)が奪ったのは、()()()のマスターキー。
 ならば当然、逃亡して向かった先は地下牢。
 何故わざわざ逃げた地下牢へ戻って行くのかは不思議だが、その理由を考える余裕は無かった。

「おい! 彼奴等は地下牢へ逃げた筈だ! 追うぞ!」

 一人の執行人がそう叫び、先導をきって走った。
 もう一人の執行人も、それに続いて走った。

 だがその時。

「おやおや。逃げられたら困るね。」

 突然空から、執行人の行手を阻む様に、誰かが降りてきた。

「誰だっ!!!」

 執行人の内の一人が、携帯していたナイフを取り出し、構えた。

「俺の顔を知らないのか。そうか。散々お前たちは俺を殺そうとしてきたのに。」

 空から降りてきた男は、そう言いながら、執行人とに距離をジリジリと詰めた。
 執行人はそれに怯えた。
 男は、少し進んだ所で足を止めて言った。

 
「どうも初めまして。大陸で四人しかいないの極魔法使いの内の一人であり、大陸で唯一の浮遊魔法使いでもある、旧ギャリグローバ共和国地区外東部区域出身、エルダ・フレーラと申します。どうぞ、お見知り置きを。」