目隠しをされて、馬車に揺られ、連行されてからおよそ三十分程経った。
初めの五分程度は馬車に揺られ、降りたと思えば、今どこなのか、一切情報が無いまま進み、暫く階段を下った後。
目隠しを外すとそこは、地下牢の中だった。
理由は至極当然。
オークション会場から奴隷を解放しようとしたから。
言い換えれば、国王所有の奴隷を“盗難”しようとしたとして監禁された。
一般的思考では善行に思えるその行動も、この腐った王政下では、ただの悪行。犯罪行為になる。
あまりにも可笑しいが、それが常識として、この国の固定理念として定着している時点で、如何しようもないのだ。
この牢へと連行されている間、耳栓はされていなかったので、周りの会話は大方聞こえていた。
なので、自身の監禁理由が判る。
罪名としては、“国有財産盗難未遂”と云った所か。
又は、“国政における財務資金調達妨害罪”などか。
この国にとって奴隷と言うのは、国の資金調達には欠かせない存在である。
なので奴隷は、国有財産であり、調達妨害にも成りうる。
普通じゃ到底受け入れられない考え方である。
その上、この二つの罪は、連邦国の刑事罰でも、重さで言うと大分上位の方に当たる。
国家転覆罪や、貴族殺人罪、貴族殺人未遂罪と同等である。
主な処罰は、到底払うことが出来ないような罰金、又は死刑。
この二つであった。
罰金額は、約十五億ゼール。(100ゼール=約10ギール)
当然、借金制度などある筈も無いこの国で、それ程の大金、払えるはずも無い。
とすると、死刑しか道は無くなる。
それに、この国の死刑執行方法が、また残酷なのだ。
王城エントランスの中央に、手を縛られ目隠しをした状態で座らされ、周りには大量のギャラリーが居る中、死刑執行人が、剣で腹の皮膚だけを切り剥がす。
そうして長時間悶絶した後、絶命に至る。
その間、遊びで目をくり抜けれたり、指を切られたり、爪を剥がされたり、足を切られたりなどされる。
当然その死刑執行方法が、誰かから非難される事などない。
どうせ、非難した人を、無理矢理 国家転覆罪と見做して殺したのだろう。
当然、避難する人も少なくなっていく。
そんな頭の狂った刑法を、誰も咎めない。
そんな死刑が待っているのだと悟ったグリリアは、ため息を一つ吐いた。
当然、実感など湧かない。
自分では正しい行いをしたつもりである。
どうしても納得がいかない。
この国の狂気じみた風習が、気に食わない。
どうにかしたいが、どうも出来ないのが現状であった。
そんな事よりも、サラナは。
自分と共犯だとバレて居ないだろうか。
自分を国王に密告する事で、「奴隷を盗難しようとする者が居るとの情報が入ったので此処で待っていた」という、オークション会場裏口に居た言い訳が出来る。恐らくサラナはそうしたのだろう。
だが、もし荷台に入っていた、ウィッグなどの変装グッズが見つかれば。
それこそ言い逃れが出来なくなるのではないか。
サラナが無事で居るのならば、それで良い。
裏切られたとはいえ、そうする他無かった事を考えると、仕方の無い事であったのだ。
仕方ない。
そんな事を考えながら、約一時間が経った。
当然暇すぎて、懐に忍ばせていた潜望鏡で遊ぶしかする事が無かった。
そんな時。
カツン
カツン
ただただ静寂しか無かったこの地下牢に、二つの足音は響いた。
誰か来た。
自分に会いに来たのか。
或いは。
どんどん足音が近くなる。
やはり、二人が此方へ向かって来ている。
何用なのか。
少し緊張しながら、ただ牢の隅で待った。
「ここだ。入れ。」
少し低めの声が聞こえた後、牢が解錠された。
誰が入って来るのか。
カツン
カツン
その人物を見て、グリリアはため息を吐いた。
その男は、彼女が入った瞬間に牢を施錠し、足早にその場を去った。
「………………共犯がバレたのか？」
グリリアがそう訊くが、答えてくれない。
暫く沈黙が続いた。
「……………………ごめんなさい。黙っていて。私のせいで。私が、私がこう云った場合を想定出来ていなくて……………………。
ごめんなさい…………………………
ごめんなさい…………………………」
そう言って、グリリアと顔を合わせようとしなかった。
「………………………………っ。」
どう声をかけて良いのかが解らず、ただ途方に暮れた。
「……………………サラナ…………」
静かに名を呼んでみたが、そこから何を言えば良いのか。
言葉に詰まった。
数分間沈黙が続いた。
グリリアは何を言えばいいのか悩み、サラナはただただ蹲っていた。
「…………………………辛かったんだな…………」
何百と云った単語が脳裏を過ぎる中、グリリアの口から出た言葉はそれだった。
「………………辛かったんだよな…………ずっと……」
そう言ってグリリアは静かに歩み寄り、サラナの頭を二、三回撫でた。
サラナは、より深く蹲りながら、声を殺して泣いた。
