その日から、ノール救出に向けた作戦を練った。
 作戦を立てたのは、主にグリリアとサラナの二人。
 その間エルダは、ミロルの相手をしていた。
 サラナが相手をするのが一番良いのだろうが、作戦を立てるのにはサラナが不可欠だった為、エルダが担当する事になった。
 幸い、ミロルも直ぐにエルダを気に入り、いつの間にか仲良くなっていた。
 ギニルのトラウマが、男性全員への恐怖へと繋がっていなかったことに、安堵した。




「さて、どうするか………………」

 グリリアが唸った。

「サラナ…………さん?」
「呼び捨てで結構です。」
「あっ、はい。サラナ……の案はいいと思うが、あのホールまでの道のり、路傍に監視塔が沢山あった気がするのだが…………」

 ジズグレイスの周辺地図を指差しながら、グリリアは言った。

「はい。なので、その為の荷台付き馬車と変装用具は用意しております。」

 サラナがそう言った。

「……………………ん?」
「なので、監視塔対策は既にしています。」

 グリリアが、阿呆みたいに口を開けたまま動きを止めた。
 サラナの仕事の速さに驚愕しているのだ。

「簡単な話、借りて来た馬車の荷台に貴方(グリリア)を乗せ、私が馬車を先導します。そして、適当ば理由を言って検問を潜ります。そして浸入した後、グリリアさん一人で、中に入って救出して下さい。私は外で見張っておきます。」

 サラサラとサラナが言う。
 もう既に、サラナの中で作戦が完成していたのだ。
 こんな会議など、する必要が無かった。

 グリリアは、今の話をゆっくりと理解していった。
 「そんな一人だけで勝手に決めた作戦で行くなんて……」と言いたいところだが、実際、これ以上の作戦は思いつきそうにない。

「……で、聞いてて思ったんだけど…………。本当に私一人で乗り込むの?」
「それしか無いでしょう。」

 サラナの様子を見るに、この作戦を変えるつもりがない様。
 グリリアは少し憂いた。
 だが昔から、運動神経には自信があった。
 ビルクダリオを助けたいと思ったのも、自身の運動能力を自負していたから。
 仕方無い。
 いざとなったらサラナが助けてくれるだろう。

 グリリアはそう考え、サラナの作戦を呑んだ。



「エルダ。」

 グリリアが、エルダの元へと戻ってきた。

「会議は終わったのか。」
「あぁ…………」

 少し疲れた様子のグリリアに、エルダは質問した。

「……何があったんだ?」
「………………(かくかくしかじか)…………」

 グリリアが、サラナに聞こえない程の声量で、エルダに報告した。

「成程な………………まぁ、頑張れや。」

 そう言ってエルダは、グリリアの肩を2回叩いた。

「…………んで、その間エルダは何をするの?」

 グリリアが、エルダに訊いた。

「あぁ、聞いてないの? ミロルの護衛だよ。流石に家に一人にするのも駄目だし、だからって連れて行くのも危ないし。こうするしかないだろう。」
「まぁ、そうだな……………………」

 グリリアが少し、意気消沈した。




 その日からグリリアは、看守拘束を完遂する為、サラナから特訓を受けた。
 幾ら腐った国の看守と言っても、一応は訓練を積んでいる一兵隊。
 素人が不意打ちを掛けようにも、去なされる可能性がある。
 なので、出来るだけその可能性を減らす為、サラナが教えている。
 大分とハードな様で、帰ってくる時にはいつも、死にそうな顔をしている。

 その間エルダはと云うと、ミロルと関わり、親密度を上げていた。
 救出作戦中、ミロルとエルダはグリリア宅(ここ)で待機だが、ミロルとエルダの信頼関係が築けていなければ、最悪ミロルが逃亡するかもしれない。
 そうなると拙いので、今の内に、ミロルと良い関係を持っておく。
 作戦の為でもあり、エルダが幼児を可愛がってほんわかする為でもあるこの工程。
 グリリアが次第にエルダの事を睨む様になったが、エルダは毎回、それを無視し続けた。



 そんなこんなで、作戦決行前夜。
 グリリアとミロルもいつの間にか仲良くなった様で、今頃一緒に寝ているだろう。
 エルダは、サラナと共に、星空を眺めながら座っていた。
 店(薬屋)の前にあるベンチに座りながら、エルダは、ある事を考えていた。


 前々から気になっていた事。
 気掛かりであった事。

 サラナについてだった。

 前。初めて会った頃。
 サラナは、自分の事を話してくれた。
 自身が、スラム出身のビルクダリオである事。
 愛していた母がいた事。
 自身の居ない間に、母は貴族に連れて行かれた事。
 そして、貴族に母は殺された事。

 ここで一つ気になる事がある。

 サラナは、「水汲みに行っている間に、母は攫われた」と言っていた。
 ならば何故、“母を連れ去った人物が貴族である”と断言出来るのか。
 それに、母が連れ去られたまま帰って来ず向こうで亡くなったのならば、その事を、サラナは何故知っているのか。
 貴族がサラナに報告した可能性もあるが、この国の貴族が、わざわざそんな面倒臭い事をするとは考え難い。

 前に一度訊こうとしたが、訊けなかった。
 今なら。
 二人きりの今なら。


「なぁ、サラナ。」
「なんでしょう。」

 ベンチの上で、ぱちっと目が合った。
 エルダはサッと目を逸らした。
 少し訊くのに躊躇ったからだ。
 幾ら不可解な事であるからと言って、肉親が死んだ話を掘り返すのは、気が引けた。
 だが、これから一緒に王政を打倒する身。
 パートナーの事は、知っておきたいと思った。

「サラナは何故、母親が亡くなった事を知っているんだ? しかも、“貴族が”殺したって。」

 それを訊いたサラナは、少し俯いた。

「それは……………………」

 言葉に躊躇い、サラナは目をすっと閉じた。
 そしてゆっくりと開け、エルダの目をまっすぐ見て、言った。




































 






「……母は…………………………」























 












 















「私が殺したんです」