「逃げなさい……………………!!!!!!!!」
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「早く!!!!!!!!」
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「逃げて!!!!!!!!!!」
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「ミロル!!!!」
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「はっ!」
少女は目を覚ました。
一筋の涙が、右目からつーっと流れ落ちる。
何故今、昔の事を思い出したのか。
少女は解らなかった。
「…………んぉ。やっと起きたか。」
グリリアが、目を覚ました少女に、そう言った。
「……私は………………一体何を…………此処は?」
少女は、周りをキョロキョロ見渡しながら、キョトンとしていた。
「まぁ、それについてはゆっくり話そう。今言っても、混乱するだろうから。兎に角、先ずはご飯を食べないと。」
そう言ってグリリアは、キッチンへと向かった。
「あっ! 何か嫌いな食べ物があったら言ってね!」
それを聞いて少女は、恐る恐る答えた。
「…………椎茸が………………嫌いです。」
少女は、少し俯いた。
「そうか! 判った。ちなみに、私も、椎茸はあまり好みでは無い。一緒だな。」
そう言ってグリリアは、キッチンへと消えていった。
少女は、少し心が暖かくなっていくのを、ひしひしと感じた。
「…………これは?」
少女は、目の前に並べられた食べ物に、困惑する。
「さっきまで君、病気で寝ていたんだよ。二日ほど。」
「二日も?!」
少女が、あまり出ない声で、小さく叫んだ。
「あぁ。お陰で君の病は治った。でも、二日間寝込んでいた人に、行き成り肉を食わせても、ただ苦しくなるだけだ。
そこで、これ。簡単な料理だが、回復段階の患者には、これが一番良い。」
そう言ってグリリアは、目の前に並べた料理を、一つずつ指を指しながら説明した。
「先ずこれが、鰹出汁のかき卵スープ。ちなみに、私もこのスープは大好きだ。体がぽかぽかする。ちなみに中には、少し野菜も入っている。
そしてこれが、お粥。シンプルだが、病人食には最適だ。
………………まぁ、それだけだ。生憎、私は料理があまり得意で無くてね。元々料理は妻の………………いや、何でもない。
兎に角、しっかり食べて、しっかり寝て、先ずは元気になってくれ。話はそれからだ。」
そう言ってグリリアは、コップに水を入れた。
此処が何処なのか。
目の前の人は誰なのか。
何故自分は此処にいるのか。
病とは何か。
少女の頭の中には、聞きたいことが山ほどあった。
だが、それらを整理し、訊けるほど、少女は未だ、回復していなかった。
兎に角今は、目の前の食べ物に食らいつくしか無い。
この食べ物に毒があったとて、今死ぬか貴族に殺されるかのどちらか。
少女は、どっちでも良かった。
少女は、目の前に置かれた、金属製の棒を持ち上げた。
「あぁ、それが何か判るかな?」
少女を見て、グリリアは訊いた。
それに対して少女は、その棒に反射する自分を目を合わせながら、少しだけ首を横に振った。
「それはスプーンと言って、こうやって、食べ物を食べる道具なんだよ。」
そう言ってグリリアは、少女の持っていたそのスプーンを取り、スープを掬って見せ、また少女にスプーンを返した。
少女は、見様見真似で、グリリアのやっていたように、スプーンの、横に膨らんだ先端部分をスープに沈め、窪んでいる方を上にしながら、スープを掬った。
窓から差し込む太陽の光がスプーンの上に溜まるスープに当たり、スープの表面を、金色に染める。
そして少女は、そのまま固まった。
此処からどうして良いのかが解らなかったのだ。
それを見たグリリアは、スプーンを持っている体で手を動かし、スプーンで持ち上げた物を食べるまでのジェスチャーを、スープを抱えたまま困惑している少女に見せた。
それを見ながら少女は、スープを口の中へ運び、スープを、スプーンの中から自身の舌の上へと移した。
その瞬間、少女は、ある感覚に襲われた。
途轍もない幸福感と、満足感に包まれたが、少女は、その反応を何て言うのか、判らなかった。
「美味しい?」
少女の幸福そうな顔を見て、グリリアは訊いた。
「『美味しい』って何ですか?」
「えっ?」
「…………何故か嬉しい。暖かい。それを、『美味しい』って言うのですか?」
「そうかもな………………私にも解らない。」
そう言ってグリリアは、このスープよりも暖かい笑みを、少女に向けた。
少女は、もう一口スープを口に入れた。
「……………………『美味しい』」
そう、少女は口にした。