「一緒に、ビルクダリオを助けよう!!」
そう言って、固い握手を交わしたのは、一体、何年前の話だっけ。
グリリアとギニルは、共にサルラス帝国出身の、無駄に威勢の良いことで有名な餓鬼だった。
そしてよく、面倒ごとに巻き込まれていた。
大して喧嘩に強く無いのに、妙な正義感で、突っ走った。
そしてもっと面倒なのが、グリリアとギニル、二人とも、その謎の正義感を抱いていた。
そんな二人だからだろう。
“ビルクダリオ”と云う人種を知った瞬間、その正義感に駆られて、助けに行くことを決意したのだ。
浅はかな考えだった。
そう二人を悟らせるには、暫くの時間が必要であった。
奴隷を売るカルロスト連邦国と、それを秘密裏に買うサルラス帝国。
“ビルクダリオを助ける”だけでは、駄目なんだ。
そう悟った時にはもう、遅かった。
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「ギニルさんとグリリアは、一体どの様なご関係でいらっしゃるのでしょうか?」
どう答えるべきだ?
ギニルは悩んだ。
今正直に、「グリリアの友達です」と答えると、何故か此処にいる、連邦国の中枢を握る者の一人であるサラナに、“王政の意向への叛逆行動”と見做されかねない。
だからと言ってグリリアを突き放しても、わざわざ自分が、敵対者の家に自分の意思で来た事となり、更なる不信感を与える。
多少無茶しても、グリリアに話せばある程度は許して貰えるだろう。
それを踏まえた上での最善手は………………
ギニルはこっそりと、懐にあったナイフを出し、コートに隠しながら、グリリアへとそれを突きつけた。
丁度、エルダには見えず、サラナからはそのナイフを確認出来る位置で。
「ただの友人ですよ。」
そう、エルダの問いに答えた。
「ねっ? グリリア。」
そう言ってギニルは、グリリアの方に視線を向けた。
グリリアは、チラッとグリリアの懐を覗き、ある程度状況を把握した。
「あ、あぁ、そうだ、エルダ。」
少し動揺している様な話し方で、グリリアは返答した。
これにより、エルダにとっては、「グリリアとギニルは友人なのか」と思わせ、サラナには、「ちゃんとビルクダリオと敵対している」と思わせられる。
結果サラナは、グリリアとギニルは、親友関係でないと解釈し、エルダは、二人が、同郷の協力者であると理解したのだ。
そう解釈したサラナは、少し残念に思った。
自分と同じ様に思い、同じ野望を抱く同胞だと良いな。そう思っていたからだ。
だが現実は、期待したギニルは、此処らの貴族と同じだった。
サラナは少し、勝手な期待をし、勝手に失意する自分に、嫌気が刺した。
自分へ少し、失墜した。
そんな話をしていた頃だった。
ギシギシギシ
少女の寝ていたベッドが、軋む音が聞こえた。
エルダ以外皆、ずっと冷や汗を掻いて頭をフル稼働させている時だったので、皆、その音が聞こえた瞬間、ビクッと肩の力を入れた。
そしてゆっくりと、そのベッドに視線を向けた。
「ん…………………………ーーーーん」
そう声を出しながら、少女は上体を起こした。
そして運が悪い事に、少女と先に目があったのは、ギニルだった。
少女は顔を青褪め、その後顔を赤くして怒った。
ギニルは、その少女と目を合わせようとせずに、ずっとそっぽを向いている。
少女は手を彼方此方に振り回した。まるで、何かを探している様に。
そして少女は、ある物を握った。
ただ、それを握った事を認識したときはもう、遅かった。
短刀。
少女は、ギニルよりも自身の近くにいたグリリアには目を向けず、一目散にギニルに切り掛かった。
一寸の所でギニルが、切り掛かってくるその腕を握り、血は流さずに済んだが、他の皆がそれを認識したのは、ギニルが何とか死なずに済んだ、その瞬間であった。
「くそっ! 殺す! 何があっても。お前…………! よくも母さんを…………!!!!!」
その小さな体では受け止めきれない程の憎悪を、彼女は皆に感じさせた。
「…………くっ………………!」
火事場の馬鹿力ってやつなのか。
四歳ほどの少女は、身長が二倍以上ある大人を、死の直前まで追い詰め、ずっとギニルを、三途の川の淵で歩かせている。
少しでも気を抜けば直ぐに、その川へと落ちて行く。
サラナやグリリアが止めようとしたが、その小さな少女の莫大な怨念の前では、体を動かす事さえ、出来なかった。
だがその瞬間、少女はパタっと床に倒れた。
「未だテロスウイルス感染が治った訳では無いのだろう。あんなに暴れた後だ。暫くは起きない。」
そう言いながらグリリアは、少女を再び、ベッドに寝かせた。
「何故あの少女は、ギニルにあそこまで………………」
「さぁ、今考えてもしょうがないでしょう。また今度、あの子が起きた時にでも訊きましょう。」
「あぁ、そうだな、サラナ。」
そう言ってエルダとサラナは、少女に目を向けた。
先まで暴れていたのが嘘の様に、ぐっすりと眠っている。
「ささっ、そろそろ陽も落ちてきたし、寝るとするか。お二人さんは、此処に泊まっていくかい?」
「あぁ、グリリア、そうさせて貰うよ。サラナはどうする?」
「そうですね、私もよろしくお願いします。」
「私はいい。そろそろ帰らなければ。」
そう言ってギニルは、荷の準備を始めた。
そんなギニルに、サラナは近付き、小さな声で言った。
「皆んなが寝静まった夜。この家の前で。」
ギニルは静かにコクリと頷き、荷支度を再開した。
深夜。
「……で、こんな真夜中に呼び出して何ですか? ってまぁ、大体話の内容は分かってるんですけど。秘書さん。」
「あぁ、理解してくれているのなら、此方としても助かる。」
三日月が頭上で煌めく中。
二人は、密談を始めた。