アステラが目覚めたのは、エルダの乱入した会見の二日後未明。
アステラの寝ていた小屋の近くを偶々通りかかったエルダが、アステラの回復を確認した。
大量のお札も、その時エルダが発見し、アステラに報告したのだ。
小屋の中でエルダは、一昨日の会見の話をした。
直前にアステラは倒れたので、そこからの記憶が一切無かった。
エルダは、アステラを安心させられる様、「その場にいるほぼ全員に、アステラの潔白を証明出来た。」と伝えた。
二日間も寝ていた為、その話を聞いた後アステラは、水分不足と極度の空腹でベッドに寝転んだ。
それを見てエルダは南無三、直様外へ出て、リカルを呼びに行き、朝食の支度をお願いした。
街の復旧をたった二週間で済ませたアルゾナ王国の手際の良さは流石で、そのご飯の準備も、エルダがリカルに伝えてから僅か五分ほどで完了した。
アステラの小屋に飯を持って帰っている途中マグダにも会ったので、エルダは、マグダと同行しながら、アステラの小屋へ向かった。
一応アステラは未だ回復段階なので、飯の内容も、お粥やスープなどの、体に優しい物だらけだった。
お盆を浮かせながら小屋まで向かったが、その時に鼻へと流れてくる料理の匂いが、エルダやマグダの空腹を煽った。
アステラの小屋へと着き、マグダがアステラに飯を食わせることとなった。
なのでエルダは、小屋の隅で、その様子を眺めていた。
よく考えれば、アステラとマグダは、十数年ぶりの再会だったのだ。
その上、再開の瞬間も、戦中だった為ゆっくり話をすることが出来なかった。
なので今この時間が、再開して初めての、兄弟の団欒の時間だった。
ある程度ご飯も食べ終わり、アステラが元気になっていっている時。
エルダは、ある事を言う為、ばっと立ち上がり、アステラとマグダの前に立った。
「父さん、叔父さん。俺、決めました。」
それを聞いて、はて?と首を傾げる二人。
それに続けてエルダは言った。
「俺、一度カルロスト連邦国に帰ろうと思います。」
それを聞いて、思わず音を立ててマグダが立ち上がった。
「なんで?」
あんなに治安の悪い所にわざわざ行かなくても……と思っているのだろう。
十何年も会っていなくとも、マグダはエルダの父。
息子の身を案じての質問だった。
「俺は、この大陸を、色々な国を旅したいと思って、故郷を発ちました。そして今、エルレリアとアルゾナ王国を周りました。次に行く国…………と考えると、今の所、カルロスト連邦国しか無いんですよ。サルラス帝国は怖いし、オームル王国は未知数だし。それに、カルロスト連邦国と云う国をしっかり知りたいのです。」
「…………そうだな。色んな国を知っておく事は大切かもしれんな。」
アステラが、エルダの話を聞いて、そう返事をしながら上体を起こした。
「兄上…………」
「マグダ。別に、エルダの事は心配せんでもいいだろう。カルロスト連邦国だろ? 早々に死にゃぁせん。だってめちゃくちゃ強いから。恐らく、今のマグダよりも。」
「そうですな…………そんな心配は無用だったか。よしエルダ! 行ってこい!!」
アステラの言葉を聞いて、マグダの様子がガラッと変わった。
まるで盲点を突かれた様な顔をしながら、エルダに優しく微笑みかけた。
「ありがとう!」
そう言ってエルダは、故郷への帰国の準備をした。
「一般的な親だったら『我が息子も成長したなぁ』とか思うのだろうけれど、その考えは、その成長過程をずっと見ていたからこそ言える事であって。私も言いたかったな。なんて。」
エルダが去った後、独り言の様にマグダが言った。
「まぁ、一般的な同年代の人と比べたら、大分しっかりした人間だと、私は思うがな。」
「そう言ってくれると嬉しいなぁ…………」
いつの間にか二人は、タメ語で話す様になっていた。
「あっ、ごめんなさい。ついタメ語で………………」
「良いんだマグダ。タメ語の方が此方としても落ち着く。どんな国王だって、タメ語で話せる仲の人間が、一人ぐらいは欲しいだろうから。」
「ありがとう。」
そう言って二人は、互いに笑みを浮かべあった。
「まさか、こんなにも子供の成長が速いとは。エルダの幼い頃も、一緒に居たかったな………………」
そう言いながらマグダは、エルダの去った小屋の入り口に視線を移しながら、扉のもっと遠くの方を眺めていた。
昼。
アステラは、マグダの回復系複製魔法で完全回復し、エルダも、出発の用意が完了した。
空を飛べるのでわざわざ門から出国する必要がない。
なのでエルダの見送りは、王宮跡前で行われた。
王国軍とは思えない程に無造作に並んだ兵の先頭には、ルーダやリカル、もっと先頭に、アステラやマグダが並んだ。
「じゃぁ。カルロスト連邦国でも、無事で居ろよ?」
そう言いながらアステラが、エルダの肩を二回叩いた。
「はい、勿論。」
エルダは一回、軽く頷いた。
「またアルゾナ王国に帰ったら、カルロスト連邦国での話でも聞かせてくれや。」
「あぁ。」
マグダはそう言いながら、純白の歯を見せつけて笑んだ。
「それじゃぁ、行ってきます!!」
エルダはそう叫びながら、此処で貰った食糧と野宿用の色々な道具を入れた鞄を背負い、宙に浮いた。
大きく手を振り、優しく笑んだ。
「飛翔。」
エルダはそう呟き、アルゾナ王国を後にした。