マグダが倒れたのを見て、エルダは真っ先にマグダの元へと向かった。

「父さん! 父さん!!」

 そう叫びながら、マグダの両肩を握り振った。
 だが、起きる気配は無かった。
 一旦自分の気を落ち着かせ、エルダは、マグダの脈を取った。
 健康的な、一般的な速さで心臓が鼓動している。
 呼吸もちゃんと出来ている。
 気を失っているだけだと悟ったエルダは、少し安堵した。

「救護員の誰か。父さんを、何処か安全な場所で寝かせてきてくれ。」

 そう言ってエルダは、救護室に入ってきた救護員にマグダを渡し、「頼んだ」と、その救護員に言い、見送った。



 そして、マグダの姿が見えなくなった頃、病床の方からガサゴソと音がした。
 ばっとエルダが振り向くと、そこには、上体を起こしたアステラが居た。
 周りをキョロキョロと見渡して、此処が何処か、イマイチ分かっていない様子だった。

「…………叔父さん…………………………」

 エルダがゆっくりと後ろから近付き、アステラに言った。

「エルダ………………」

 アステラが、エルダを見て、何とも言えない表情をした。
 いつもより少し目は開き気味で、口は少し開いている。
 そして、はっと気付いたように、さっきまで剣が刺さっていた場所を摩った。
 マグダの回復魔法のおかげで、怪我は完治している。
 その後アステラは、地面に目を向けた。
 そこには、アステラの血が付着した、刺さっていた剣があった。

「エルダ……………………一体何が……………………?」

 何が何だか理解出来ていないアステラは、目を大きく開いて聞いた。

「えーっと……………何ていうか…………何にせよ途中からしか知らないので、それまでに何があったのかはさっぱり…………」

 エルダがそう言っている時、後ろから誰かが近付いてきて言った。

「ならば、私が説明します。」

 近付いてきたのは、ルーダだった。
 ルーダであれば、大体の時間アステラの側にいたので、アステラが刺されてからの事も知っているだろう。

「じゃぁルーダさん。お願いします。」
「はい。そちらこそ、是非お父上の元へ。きっと寂しがっておりますよ。」

 そう言ってルーダはエルダに一礼した後、アステラのいる病床へと向かって行った。




 その後アステラと、会話中にひっそりと起き上がっていたリカルは、ルーダから今まで会ったことと、現在の状況を聞き、エルダは、王宮近くにある寮の一階にある部屋のベッドに寝かされているマグダの側の居た。
 その寮は、王宮に勤めているが自宅から王宮まで来るのに時間がかかる者の為のもので、王宮の背後にあった為、王宮全壊の原因となった超巨大炎弾(バルモ)の影響も受けなかった。
 そしてその一階に、救護室があるので、そこのベッドに、マグダが寝かせてある。
 そのベッドの隣に、エルダが座っていた。



 現在の状況としては、マグダがアルゾナ王国内へと侵入したサルラス帝国兵を、電気で麻痺させ、行動不能にさせたので、その兵の回収を行なっている。
「出来るだけ人は殺さない」という、アステラのポリシーの下、麻痺させた帝国兵は全員、サルラス帝国の国境付近に置いておく。
 どうせ誰かがその兵を見つけてくれるだろうと言う、確実性のない確信があった。
 その行動は、アステラの指示があった訳では無かったので個々の兵の独断によるものであったが、後にその行動が高く評価されアステラから賞されることを、未だ誰も知らない。




 約七時間後

 マグダは既に目を覚まし、アステラとエルダとマグダの三人で少し話をした後。
 マグダの魔法により完全回復したリカルは、戦後処理の総指揮へと回り、ルーダも、帝国兵対処班の指揮をとっている。
 アルゾナ王国軍救護師団師団長であるガラブは、避難した国民への、戦争の結果と現在の状況を説明しに、ギルシュグリッツを離れている。
 そして今、ある程度の戦後処理が終了し、皆が休息を取っていた頃だった。


 エルダは、その王宮寮の屋上で、一人柵に(もた)れて夕日を眺めていた。

「こんな所に居たのか。」

 アステラが、屋上へとやって来た。

「叔父さん…………どうして此処に?」
「なに。少しエルダと話がしたくて。迷惑だったかな?」
「いえいえ、そんな事は一切………………」

 アステラも、エルダの隣に凭れた。

「エルダ。エルレリアで人を殺したか?」

 突然アステラが、エルダに向かって聞いた。

「………………はい。大勢の帝国兵を殺しました。」
「そうか……………………」

 エルダが、夕日から視線を逸らし、俯いた。

「私は、人を殺した事が無い。」

 アステラは、俯くエルダに向かって言った。

「…………嫌味ですか?」

 エルダが、そういうアステラに対し、少し苛立ちを覚えた。

「いやいや、そういう事じゃない。いや…………何だ。私にも、『人を殺す勇気』があったらなぁ…………って。」

 アステラが、夕日の、もっと遠くを見ている様な目をして言った。

「私にその勇気が有れば。前に帝国に攻められた時も、父上(リーゲル)やシュリが救えたのかな………って。」
「……シュリとは誰なんですか………………?」
「あぁ、エルダは知らないのか。シュリは…………まぁ話すと長くなりそうだから、この戦後処理が完全に終了した時に話すよ。」
「はい……………………」



「それでは私はそろそろ。」

 そう言ってエルダは、屋上を去った。

「はぁ……………………」

 アステラは、深くため息をついた。

「『人を殺す勇気』、か。私は未だ甘いんだろうな………………」

 そう言いながら、アステラは少し口角を上げた。

 あの時。
 リーゲルが暁光蝶(ギア・ライル)を放った時。
 あの場には、アルゾナ王国の国民の遺体が数えきれない程あった。
 それを暁光蝶(ギア・ライル)は、全て焼き払い、この世から消し去った。
 一国の王としての、リーゲルのその決断は、どれ程のものだったのか。

 今回の第二次帝国侵攻は、国民での死亡者や負傷者は一切出さずに終結したので、王としての最善は尽くせた。
 只、マグダやエルダが居なければ、アルゾナ王国は滅亡していたかもしれない。

 アステラは、国民を守り切った安堵感と、自身の無力感を強く感じながら、沈み行く落陽を、遠い目で眺めていた。