その後エルダとマグダは、ギルシュグリッツの王宮跡前に降り立った。
瓦礫の山と化している王宮を見て、呆然と立ち尽くした。
「……ここまで戦闘が激化していたとは…………」
マグダは、自身の目を疑った。
開戦から約二十分ほどした未だ経っていないので、そこまで被害は少ないだろうと考えていたが、王宮を破壊される程に激化していた事に驚愕した。
そして、自信がどれだけ、魔法発展国であるサルラス帝国の魔法技術を舐めていたのかを思い知らされた。
「…………アステラは………………?」
「言われてみればそうだな。兄上の姿も…………リカルの姿も見えないな。」
二人が周りを何度も見渡すが、アステラとリカルの姿が一向に見えない。
アステラの性格的に、交戦中安全な避難所では無く、この王宮付近にいた筈だ。
そしてその第一秘書であるリカルは、主人を守る為、その近くに居る筈。
なのに、王宮付近、何処を探しても見つからない。
そんな時、マグダはルーダを見つけた。
早速マグダはルーダの元へと行った。
「ルーダ。兄上とリカルは今何処に?」
突然、エルレリアに居た筈のマグダに話しかけられて驚いていたが、その質問を聞いて、肩を落とした。
「…………どうした?」
「…………いえ、何でもありません。」
そう言ってルーダは、何かを包み隠そうとする素振りを見せた。
「父さん。叔父さん居た?」
ルーダと話していた時、前の方からエルダが来た。
「丁度良かったです。二人揃ったのなら。今なら未だ国王を救えるかもしれない……………………あの、マグダ様、エルダ様、私と同行願います。一刻を争うのです。お願いします。」
そう言ってルーダは、深々と頭を下げた。
「あぁ、わかった。案内してくれ、兄上の所に。」
「父さん、俺も同行した方が良い?」
「あっ、エルダ様も同行頂けると助かります。是非、よろしくお願いいたします。」
「了解。」
そうして、ルーダを先頭に、マグダとエルダは、アステラとリカルの居る、救護所へと向かっていった。
「此処です……………………」
ルーダは、敵兵に見つからない様にか、敢えてボロい素材で作られたまぁまぁ大きな建物の前へと連れてこられた。
屋根の上には、カモフラージュの為の草が、気持程度に置かれている。
早速マグダは、その建物の入り口へと駆けて行った。
エルダもそれについていく。
そして入口から中へ入り、マグダは叫んだ。
「兄上はここにいるか?!!!!」
その声を聞いて、建物の中にいた人がほぼ全員、マグダの方を向いた。
エルレリアからの帰還の早さに驚いている者も居れば、国の最高戦力が帰ってきて希望を感じている者も居た。
だが、誰もその場を動こうとせず、一瞬マグダを見ただけで、所定の場所へと戻っていってしまった。
理由は至極簡単。
此処が救護所であったから。
入った瞬間にマグダは分かった。
明らかに薄らと、部屋に血の匂いが充満していたのだ。
それに、明らかな怪我人が何人も目に入った。
此処が救護所と分からない方が可笑しい。
此処でマグダは考えた。
マグダはルーダに、“アステラとリカルがいる場所”を聞いた。
そして救護所へと連れて行かれた。
という事は、アステラやリカルは救護所に居るという事になる。
となると、アステラもリカルも、怪我を負っているのか。
そうなると、大分と拙い。
マグダは、此処で一番人だかっていた場所へと向かい、そこに居た負傷者を見た。
それを見て、マグダは絶望した。
アステラが、腹に剣を刺して倒れていたのだ。
顔は青褪め、息はしているかしていないのかよく分からない程に微弱で、今にも事切れそうな様子であった。
ばっとマグダは目を逸らすと、その逸らした方向に、病床に寝込むリカルも居た。
左半身の皮膚が焼けて爛れ、見るも無惨な姿となっていた。
「…………っ…………………………」
マグダは、心を痛めた。
何か方法は無いか。
怪我人全員を助ける方法は。
そうやって考えている時、ある方法が思いついた。
(そうだ、昔“あの魔法”を見たじゃないか。それを使えば………………)
マグダは、部屋の中心と思われる場所に立って言った。
「救護員は一旦救護所を出てくれ。早急にだ。そしてエルダ。もし私が倒れたら、頼んだ。」
マグダのその言葉を聞いて、救護員達は直様持っていた器具を置き、救護所を出た。
そして、何をするのか一切分かっていないエルダは、何を頼まれたのかイマイチ理解していないまま、救護所の入り口から、その様子を眺めた。
救護員が全員出て行ったことを確認したマグダは、深呼吸を一回して、気合を入れた。
そして、両手をばっと広げ、手の平を外側に向けた。
もう一度深呼吸をした。
覚悟を決めた。
「範囲複製.回復」
マグダがそう呟いた瞬間、マグダを中心としてそこから全方向に向かって風がブワッと吹いた。
そして、何処からか現れた黄金色の粒が、風に乗って、負傷者の元へと舞って行った。
そしてその黄金色の粒は、負傷者の負傷部の着地した。
そして複数の黄金色の粒に負傷部が覆われた時、治癒は開始される。
覆われていて中で何が起こっているのかは分からないが、その黄金色の発光が終わった時には、怪我は跡形もなく消えているのだ。
その黄金色の粒は、アステラやリカルの元へも舞って行った。
気づけば、リカルの左半身はその黄金色の粒に覆われ黄金に輝煌し、アステラの腹部に刺さっていたままの剣は、見る見るうちに抜けて行った。
そして、カランカランと音を立てて剣が落ちる頃には、アステラの傷は癒え、静かな寝息を立てて眠っていた。
そしてリカルも、あの綺麗な白い肌が戻り、火傷など、見る影も無くなった。
左半身は服も焼けていたので、マグダは、そっと毛布をリカルにかけた。
そして全員の治癒が完成した。
救護員達は、何が起こったのか一切分かっていないまま、ソワソワしながら待っていた。
そしてエルダは、その一部始終を眺めていた。
あまりにも綺麗な魔法だった。
まるでたんぽぽの綿毛の様に舞う黄金色の粒が、神々しさを醸し出した。
治療が完了して、その黄金色の粒は消えて行った。
エルダも、それは視認できた。
全員の治癒が完了したのかと、エルダはマグダの力の凄さに呆然とした。
そしてその時。
バタッ
まるで、消えゆくその黄金色の粒に生気を吸い取られたかの様に、マグダは意識を失い、地面へと倒れた。