一般常識をエルダが理解し、一般教養も身に着けたのは、グルダスと出会って半年後のことであった。
 グルダスも、そろそろ終わりが見えてきたので、少し活気づいたグルダスであったが、これからが地獄であることを、グルダスは未だ知らなかった。


 今日から、グルダスはエルダに、魔法理念についての講義を始めた。
 まずは、魔法というものについての解説を、エルダにした。


 魔法というのは、前述した通り、定義付けるとすれば、「一部の()()にしか使うことの出来ない、化学的に説明できない人為的な現象の総称。」である。
 一部の者と言うのは、生まれつき魔力を保持している者の事であり、そう言った子が産まれるかは、その親が魔力を保持している人物なのかによって変わる。
 父母が共に魔力保持者ならば、その子が魔力保持者である可能性が高く、また反対に、父母両方が、非魔力保持者であれば、魔力保持者の子が産まれる可能性は極めて低い。
 そしてその魔力というのは、その者の体力に紐付けされている。
 なので、魔力を消費すればする程体力が消耗し、疲労が溜まるという訳だ。
 なので、体力が回復すれば、自ずと魔力も回復する。
 そしてその魔力量というのは、その者の体力に比例する。
 体力のない者の魔力は少ないし、体力のある者の魔力は多い。

 そして主な発現魔法としては、大きく三つ挙げられる。
 一つ目は、「炎魔法」。
 文字通り、発動者の周り半径二メートル以内であれば、何処にでも炎を発現できる魔法。
 なので、体の周りに炎の壁を作ったり、火球を幾つも作り浮遊させておく事などが可能なのだ。
 その炎の大きさは、その者の魔力量とその消費量に比例する。
 二つ目は、「水魔法」。
 これも文字通り、自分の周り半径二メートルの範囲内であれば何処にでも水を発現できる魔法である。
 炎魔法と同じく、その水の量は、その者の魔力量と消費量に比例する。
 水魔法の派生魔法で、「氷魔法」というものもある。
 これは、水魔法師でも一部の者にしか使えない魔法であり、その力は強力だが、その人数は、大陸で数十人と、とても少ない。
 三つ目は、「雷魔法」。
 この魔法の発動方法は、今までのものとは違い、魔法の発動は、“手のひら”でしか発動できない。
 なので、いきなり目の前に雷を落としたりすることは出来ず、手のひらを相手に向けてそこから雷を発生させて任意の場所に飛ばすのが、雷魔法の使い方。
 発動は前者と比べて少し不利だが、その分、威力は折り紙付きで。
 対人間の場合は、心臓に直撃すれば、高確率で心停止を狙えるし、体全体の広範囲を狙えば、全身麻痺で暫く拘束する事だって可能。頭を狙えば、記憶を消したり、気絶させたりと、対人戦での汎用性は極めて高い。

 主に発現する魔法はその三つだが、ごく稀に発現する魔法がある。
 それらは、「極魔法」と呼ばれ、それらの使用者は、大陸でも一人ずつしか存在しない。
 極魔法は四つあり、それぞれがとても強大なものであった。

 一つ目は、「創作魔法」。
 前話でも述べた通り、この魔法は、魔力の尽きぬ限り、好きな魔法を自分で創り出し、発動出来る魔法だ。
 基本三属性魔法(炎.水.雷)は勿論、本来存在しない、物質を通り抜ける「透過魔法」や、突然爆発を起こせる「爆発魔法」なども、魔力が尽きぬ限り自由に使える。
 だが、他の極魔法は、魔力の消費量が多過ぎるので使えない。
 この魔法の所有者は、サルラス帝国魔法師団総長「ザルモラ・ベルディウス」である。

 二つ目は、「複製(コピー)魔法」。
 これは、「一度見た魔法を自由に使える様になる」という魔法である。
 なので、炎魔法を見ればそれを習得出来るし、その他、雷魔法や水魔法も習得出来る。
 そして、創作魔法で創られた魔法を見ればその特定の魔法を使うことが可能なのだ。
 この魔法の所有者は、アルゾナ王国の第二王子である。

 三つ目は、「精神魔法」。
 これは、人間の精神を混乱させ判断力を鈍らせる魔法だ。
 なので、敵軍の司令官などに使えば、司令官の判断力が低下し、思考力が無くなり軍に指令が届かなくなる。
 主な使い道としては、裁判や取り調べの自白時に使用される。
 この魔法の所有者は、アルゾナ王国国王「アステラ・アルゾナ」である。
 所有者が国王である為か、戦争などで使用する事は先代より固く禁じられているそうだ。
 しかしその力が支配者たらしめているのは間違い無い。

 四つ目は、「浮遊魔法」。
 浮遊と言ってもただ物体を浮かすだけで無く、逆に下向きの力を加えて潰したり、空中を自由自在に移動させれたりする魔法である。
 この魔法は、極魔法の中でも最強レベルの魔法である。
 例えば対人戦闘時、相手の体内にある臓器を、魔法を用いてグチャグチャに潰すことも可能だし、高所に浮かせ落下させ潰したり、相手の近くにある酸素を全て別の場所に移動させて、酸欠で殺す事も出来、遠くからでも暗殺することが出来る。
 そしてその魔法を自分にかければ、空を飛び回ることも出来る。
 空も飛べて、遠くから確実に殺せて、日常生活でも役に立つ魔法である。
 この魔法の所有者は、「エルダ・フレーラ」であった。



 「魔法の概要は以上じゃ。」
 数日間かけて、やっと、エルダが魔法理念を完全に理解した。
 エルダも、頭フル回転でこれらを必死に覚えた。
 それは、自分が浮遊魔法師であるからが大きかった。
 「魔法を自由自在に操りたい。」という思いが、エルダを動かしたのだ。

 だが、知っただけでは魔法は操れない。
 グルダス曰く、「先ず大事なのは魔力量の確保である」と言っていたので、大事なのは、魔法知識とそれなりの魔力量なのだ。

 魔力量は、体力に比例する。
 なので、魔力量を増やしたいなら、体力を増やさなくてはいけない。
 ならばどうするのが最善か。

 それは....筋トレと体力トレーニングだった。