アステラの家は、とても大きかった。
 焼いた自分の家を百個集めても、この建物には敵わない。
 まるで、伽話に出てくるようなお城のよう。
 ニルミ、いや、リカルは、そう思った。

 そしてその家の中に入った時、その家には、沢山の人がいた。
 家族にしては多すぎる。
 顔も似ていない。
 じゃぁここにいる沢山の人は、一体誰なのか。

 アステラは道中、色んな人と話をしていた。
 話を盗み聞きした限り、恐らく、アステラの仕事の話だろう。
 じゃぁ此処にいる沢山の人達は、全員アステラの仕事の人。
 そうすれば此処は、アステラの家では無くて、アステラの仕事場なんだ。
 リカルはそう解釈した。

 リカルが連れて行かれたのは、湯気の立ち込める広い部屋。
 そこでリカルは、アステラに置き去りにされた。
 扉を閉められ、リカルは閉じ込められた。
 と思ったら次の瞬間、柱の影や棚の隙間から、白と黒を基調とした長いスカートを履いた女性が十数人現れ、リカルの服を脱がせ始めた。
 何が何だかわからず抵抗するリカルだったが、その女性達は力が強く、未だ十歳のリカルは、到底敵わなかった。
 遂には裸にされ、アステラの去った扉とは反対側の扉に入れられた。
 そこは、大浴場だった。


 その後リカルは、その女性達に体の隅々まで、隈無く洗われた。
 胸や背中、お腹や頭は勿論、爪の隙間までもが洗い尽くされた。
 そして洗い終わった後、リカルは湯船に入れられて、至福の時を過ごした。
 周りでまあまあな数の女性が見ている中一人だけ風呂に浸かるのは少し抵抗があるが、それでも、このお湯の気持ち良さには抗えない。

 嗚呼。
 こんなにもゆっくりとお風呂に入ったのはいつぶりだろうか。
 気持ち良い。


 そしてその後、リカルの体は拭きに拭かれ、マッサージもされて、ピチピチの状態で、動き易い服を着させられた。
 そして髪の毛も着られ、何かクリームのようなものを顔に塗られた。
 そして、大浴場の更衣所を後にした。
 全身ホカホカで、体から少し湯気が上がっている。
 そしてその女性達に案内されて、ある部屋の前に来た。
 そしてある女性が、その部屋の扉をノックし、言った。

「アステラ王子。失礼します。」

 王子?
 そんな………………まさか…………

 そう思ったのも束の間、その扉が開き、その部屋の奥には案の定、アステラがいた。

「おぉ、綺麗になったじゃないか。」

 そう言いながらアステラは、リカルに歩み寄った。
 さっきの女性曰く、髪の毛を整えると、リカルは別嬪だったそう。
 リカルにその価値観はわからなかったが、アステラが「かわいいな。」と言いながら頭を撫でてもらえたから、それだけで十分。



 その後アステラは、部屋からその女性達を出させて、リカルと二人きりになった。

「そういや、言ってなかったね。私の事」

 そう言いながらアステラは、さっきまで座っていた、背もたれが高すぎて少々座りにくそうな木の椅子に座った。

「あぁ、リカルも座って良いよ。遠慮なんか、しなくても良いから。」

 そう言いながらアステラは、リカルの近くにあった椅子を指差し、優しい笑みを浮かべた。



 リカルがちょこんと椅子に座った後、アステラは、自分のことを話し始めた。

「私はね。王子様なんだよ。」

 アステラは、とてもすごい秘密でも暴露するかのように、キメながらそう言った。
 だが、前にアステラが“王子”と呼ばれていた事から、リカルは、大体察していたのだ。

「……あれ? なんか反応薄いなぁ…………」
「ま、まぁ、さっき思いっきり、『アステラ王子』と呼ばれておりましたので。」
「そ、そうか………………」

 とても格好悪いアステラだったが、リカルは特に、気にかけなかった。

「なんか。王宮(ここ)に来る道中よりも口数が増えたな。」
「…………減らした方がよろしかったのでしょうか?」
「いやいやいや! 多い方が絶対良い!」
「そうでしょうか………………」

 リカルは少し、肩を落とした。

「前の家じゃぁ、私が喋る度に全て無視されたので。言葉を発するという行為自体が、あまりよく思われておりませんでしたので。」
「そ、そうだったのか………………」

 アステラは、フォローしようとしたのか少し言葉を詰まらせたが、結局、淡白な返事しか出来ず仕舞いだった。

「…………話変わってますよ。」
「あぁ、すまんすまん。」

 リカルは、アステラの事が頼りなく感じた。

「んで私は、この国の王子様なんだよ。」
「それはさっき聞きました。」
「あ、あぁ、そうだっけか。」

 リカルは初めて、呆れを覚えた。
 本当にこの人について行っても良いのだろうかと、不安になった。

「まぁ。王子って事で分かるとは思うが、私の父は国王だ。名前は、リーゲル・アルゾナ。あっちなみに、リカルが国王の名を呼ぶときは、『国王陛下』か、『リーゲル王』って呼ばないと、怒られちゃうから、気を付けてね。私のことは、好きに呼んでくれて構わないからさ。」
「それなら………………アスちゃん。」
「…………っ?」

 リカルのその言葉に、アステラは硬直した。

「あっ、テラちゃんの方がお好みでしたか? でなければ、アッちゃんかテッちゃん、テスっち……アスリン………………」
「も、もういいもういい。前言撤回。『アステラ王子』でよろしく。」
「は、はぁ………………」

 リカルは少し肩を落とした。

「でもまぁ、リカルの可愛いところが見えて良かったよ。」
「どういう事ですか?」

 全く分かっていないリカルは、ただただクスっと笑うアステラを、首を傾げて眺めていた。