早速次の日から、グルダスの教育は始まった。
先ず一日目は、エルダの無知さをグルダスが痛感したところで終わり、二日目は、エルダの育ったと言うスラムの周りの国々の話。
三日目や四日目も同じ様なことの話で終わり、グルダスは、もう既に呆れ返り、心が折れかかっていた。
だが、教えをやめないのには、理由があった。
話をすると、そのたびに、エルダが笑顔で激しく相槌を打ちながら聞いてくれるのだ。
こんな反応をされては、止めようにもやめれまい。
グルダスは、その持ち前の根性で、エルダに、一般常識を教え込んだ。
今居るこの大陸は、一つの森林を中心に、計四つの国で構成されている。
大陸中央部に位置する、「メルデス大森林」。
大陸西部に位置する、「カルロスト連邦国」。
大陸北東部に位置する、「アルゾナ王国」。
大陸最東部に位置する、「オームル王国」。
大陸南東部に位置する、「サルラス帝国」。
大陸中央部に位置する秘境「メルデス大森林」。
大陸の半分程度の広さがあり、その中は、方向が分からなくなる程に大量の木々が、大森林一面に生えている。
エルダがスラムを出て横断した森林も、このメルデス大森林である。
この大森林には、馬や猪などの動物や、ゴブリンと呼ばれている知的生物も住んでいる。
ゴブリンは、人間と同じ知性のある生き物で、森の中に村を作って生きているらしい。
だが、そのゴブリンの皮膚や肉が高く売れるからと、サルラス帝国からゴブリン狩りに出掛ける人間も居るらしい。
幾ら人間では無いと言え、人間と同等の頭脳を持つ彼らを殺しても何も思わないかと、グルダスは、つくづく疑問に思った。
そしてそのメルデス大森林の西部に位置する国が、「カルロスト連邦国」。
エルダが生まれ育ったスラムがあるのも、この国だ。
この国は、大陸にある国の内特に治安が悪く、四つの国の内、唯一奴隷制度を認めている国である。
国の面積は四つの中で一番広いが、人口は一番少ない。
スラムが多数存在する国である。
カルロスト連邦国の王は、ジャーナ・カルロストと言う。
酒と女に呑まれた、国の統治も碌にしない王である。
そして、メルデス大森林の北東部に位置するのが、今エルダやグルダスの居る、「アルゾナ王国」。
大陸随一の発展国であり、見ての通り、その技術力も、大陸随一であった。
立憲君主制の国であり、民主主義化が進められ、今では、大陸一の民主主義国として名をあげている。
身分は国民(平民)と貴族の二つのみ。
貴族と言っても、血の繋がりや家系などでは無く、平民の中で優れた者が昇格して成るものなので、元は皆平民なのである。
身分があると言っても特にその格差は無く。
貴族だから特別、平民だから貴族に従うなど、そんなことは一切無い。
貴族と平民の夫妻などはよく聞く話であって。
“貴族”や“平民”という名前があるだけで、中身の人間は、何ら変わりはないのだ。
そんな平和な発展国であるが、その軍事力はイマイチであった。
魔法師というものが未だ世に出ていなかった時代は、大陸最強の国として名を挙げていたのだが、今やどの国も優秀な魔法師団を作っていて、剣一本で戦うアルゾナ王国の軍事力は廃れていった。
アルゾナ王国にも魔法師が居れば良いのだが、数が少数であった。
なので未だに、馬にまたがり鉄の鎧を纏って、真剣を掲げて戦うというのがセオリーだったのだ。
剣は近接武器なので、魔法師の使う炎魔法などの遠距離攻撃には弱かった。
ましてや、雷魔法でも喰らおうものなら、鎧で感電して、即死だと言うもの。
アルゾナ王国の王は、「アステラ・アルゾナ」。
未だ若い男であるが、民からの忠誠は厚かった。
そして、メルデス大森林の最東部に位置するのが、「オームル王国」。
この国は、ここ数十年間他国との干渉を一切禁じていて、アルゾナ王国にいるグルダスにも、今のオームル王国がどうなっているのかは分からない。
文字通り、誰も中を知らない謎の国である。
元々はカルロスト連邦国の次に大きい国だったのだが、年々サルラス帝国に領土を奪われていき、今や大陸内で最小の国となってしまった。
そしてオームル王国は、大陸内で唯一、大陸外の島を領土として持つ国である。
その島の名は、「ガルム諸島」。
一番面積の広い本島を含む、約五十の島で構成されていて、実際人が住んでいるのは、本島のみであった。
最近、オームル王国の大陸部の国境に、高い壁が建てられた。
サルラス帝国の侵攻を止める為の措置や、他国との干渉を最小限にする為の措置など、様々な考察がされているが、未だその答えは決していない。その真意を知るのは、国王のみである。
そんな謎の国の王は、「ダイナス・オームル」。
他国との干渉を一切禁じさせた張本人である。
そして最後。大陸南東部に位置する、「サルラス帝国」。
数十年前。ふと現れたその国は、瞬く間にオームル王国の領土を武力を持って奪い取り、今や、大陸で二番目に大きな国土を持つ国となった。
その軍事力は強大で、その多くが、大量の魔法師のお陰である。
その中でも特にヤバい魔法師が、魔法師団総長、「ザルモラ・ベルディウス」。
その男は、大陸で唯一の“創作魔法”の使い手であった。
創作魔法とは、魔力が尽きぬ限り、自分で魔法を構築して発動できる魔法である。
なので、「炎魔法」を使おうとすれば炎が出るし、「水魔法」と言えば水が出る。
風を吹かせようとすれば突風が吹くし、身体の強化もお手のもの。と言った、この世にある四つの”極魔法“の一つであった。
絶対王政のサルラス帝国は、常日頃から帝国主義を唱えており、オームル王国の完全侵略や、アルゾナ王国への進軍を考えているという噂も立っている程、軍事に力を入れている国である。
「カルロスト連邦国の奴隷を密かに買っている」という噂もあるが、不確かであった。
サルラス帝国皇帝の名は、「ロゼ・サルラス」。
素性が不確かな人物であり、民の忠誠があるのかどうか、その素顔さえも、あまり知られていない、謎の皇帝であった。
これらの情報をエルダが完全に理解したのは、グルダスの教育を受けてから約二か月後の話であった。
先は長いが何とか頑張ろうと、折れかけている心を何とか折れない様に自分を激励し、グルダスは、何とか持ち堪えたのであった。