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「ここだ!」
下にある村に向かって、エルダは指を指した。
「ここが…………」
「エルレリアだ。」
緑色人について、マグダがどう言った教育を受けてきたかはわかりかねたが、相当低度な文明しか持っていないと教えられたらしい。
黄色人の町にあっても可笑しく無いような巨大可動橋や、突風にも負けない強度を持っていそうなその家屋を見て、マグダは、今までの自分の常識をぶち壊されたかの様に口をぽかんと開けた。
エルレリアへと下降し、エルダは門兵に今の状況を端的に伝えて、兵の招集を促した。
その様子を見たマグダは、我が息子がどれだけ、エルレリア開村に携わり、頼られ、慕われてきたかを痛感した。
「父さん、付いて来てくれ。」
「あ、あぁ………………」
完全にエルダのペースに持って行かれていたマグダは、そんな返事しか出来なかった。
「クレリア! いるか?」
エルダはそう叫びながら、クレリアの自宅の扉をノックした。
「おぉ、エルダ。久しぶり。偉く早い再会だったな。」
「済まないね。急用が出来ちゃって。もうちょっと焦らした方が良かった?」
「いや、まぁいいさ。んで、急用って?」
どんどん進んでいくエルダとクレリアの会話に、あまりついて行けていないマグダ。
「ちょっと待ってくれ、エルダ。この男は誰だ?」
突然クレリアが、形相を変えてマグダを見つめた。
「あぁ、紹介していなかったな。俺の父さん、マグダ・フレーラだよ。」
「そうだったのですね! いや失礼失礼。申し遅れました。この村、エルレリアの村長を務めております、クレリア・カートルと申します。お見知り置きください。」
流暢に挨拶をするクレリア。
「こちらこそ、申し遅れて申し訳ない。アルゾナ王国っ…………」
マグダが自己紹介している途中に、エルダがマグダの口を塞いだ。
「(此処で第二王子だって事がバレたら、変に気を遣わせちゃうかもしれないだろ。)」
「(あぁ、そうか。)」
エルダが第二王子の息子だという事が判明すれば、クレリアに変な気を使わせてしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。
「失礼。私は紹介にあずかった通り、エルダの父の、マグダ・フレーラだ。宜しく頼む。」
そう言ってマグダとクレリアは、硬い握手を交わした。
その後エルダは、クレリアに事情を語った。
「……成る程。私の魔力発現について調べたいから、サルラス帝国が今から此処へ攻めてくるかもしれない…………と。」
独り言の様に要約し、その対処について暫く考えた後、クレリアは、近くにいた兵に言った。
「今すぐ、エルレリア全兵を、中央広場に集めろ。」
「はっ!」
クレリアの命令を聞いたその兵は、何の口答えもなく、さっさと軽やかに走っていった。
「全兵に告ぐ!!」
クレリアが、目の前に整列する兵に向かって叫んだ。
「現在、サルラス帝国兵が、このエルレリア侵略を目論んで、此処エルレリアに向かっている!! 可及的速やかに橋を上げ、余った兵は防護壁の上に弓矢を持って並ぶ事!! 橋を上げる時は、対岸に村民が居ないか、確認を怠るな!!」
「「はっ!!!」」
クレリアが端的に状況説明をし、これからの行動指示をした瞬間、全兵、もう既に誰がどう言った行動をすればいいのか話し合ったかの様に動いた。
そんな中、マグダがクレリアに、あるお願いをした。
「クレリアさん。ちょっとお願いがあるのですが…………良いですか?」
「何でしょう?」
「少しだけで良いんですけど…………………………」
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上空に浮遊していたエルダが、南東の方角から此方に向かって超高速で向かって来る帝国兵を確認した。
直様クレリアに伝え、皆に交戦準備に移る様促した。
帝国兵は恐らく、ザルモラの魔法で足を速くして貰っているのだろう。
そうじゃ無けりゃぁ、あんな速度は出ない。
土埃が巨大津波の様に舞い上がることも無い。
その土煙が、エルレリア内からでも視認できる様になり、それは、目の前まで帝国兵が迫って来ている事を意味した。
「皆!! 迎撃準備!!!」
クレリアの叫びを聞き、防護壁の上に村を囲む様に配置された弓兵が一斉に、弓を準備した。
「貴様らゴブリンは、我々サルラス帝国兵によって既に包囲されている!! 大人しく投降すれば何もしないだろう。 さぁ抵抗せずに、大人しくこっちに来い!!」
エルレリアの堀の周りを囲むサルラス帝国兵。
その中でも一番偉そうな人が、そう叫んだ。
「そんな命令、聞くわけがないだろう」と皆が腹を立てたその時。
「氷刃!!」
マグダが突然、天に手を掲げながらそう叫んだ。
その瞬間、エルレリアの上空に、無数の氷の剣が顕現した。
皆それを見て、ぽかんと口を開けた。
そしてその氷剣を、上空に浮遊しているエルダが浮かせ、エルレリアを包囲した気になっている帝国兵全員の上空に配置した。
そしてエルダは、前方に突き出していた手を一気に下へ振り下ろして叫んだ。
「合成魔法、氷浮刃!!!」