「えーっと…………ダールグリフって、誰ですか?」
この雰囲気を真正面から打ち壊すように、エルダが聞いた。
エルダも少し発言を躊躇ったが、話についていけないと困らせると思い、渋々聞いた。
「あぁ、エルダは知らなかったっけ。
ダールグリフ・ベルディウス。サルラス帝国魔法師団団長、ザルモラ・ベルディウスの弟だよ。ザルモラは知っているね? あの、創作魔法の使い手だよ。ダールグリフ自身が、何か魔法を持っている訳では無いのだけれど、兄が魔法師団団長なだけあって、サルラス帝国内での発言力も高くて、その上剣術が優れていて。厄介な奴だよ。」
「それが、グルダスの正体…………ですか?」
「あぁ。」
アステラのその説明と表情で、それが事実である事を、エルダは悟った。
エルダも、何ヶ月も一緒に過ごした、所謂“先生”だったので、その現実に目を背けたくなった。
だが会合は進む。
「……で、マグダはどうやって地下牢から出たんだ? それに、あの炎の壁はお前か?」
少し問い詰めるようにアステラは、マグダに聞いた。
「簡単な話だ。炎で格子を溶かして出た。そして、サルラス帝国進軍を耳にして、確認する為に水魔法で王宮上空に飛んで、そこでサルラス帝国兵を見つけたので、帝国兵がアルゾナ王国に来れないように、炎で壁を作った。」
「…………全く。炎魔法と水魔法の同時発動なんて。複製魔法を持ったお前だから出来る技だな。」
アステラが、マグダの魔法能力に呆れたのか、少し笑みを浮かべた。
複製魔法は、誰かの魔法を見ただけで、それに似たような魔法を使用できるという極魔法だ。
マグダは、少なくとも水魔法と炎魔法の使用している瞬間を見ているから、その魔法が使えたのだ。
「それに、あの炎の壁は…………」
アステラが小さな声で呟いた。
「あぁ、あの時の壁だよ。確か、炎獄牢って言うんだっけ? まぁ昔、発動しているところを目の前で見たからね。でも、あまり使いたくは無かったけどさ。」
「私もびっくりしたよ。あの狂気の魔法が再び使われるとは。」
そのアステラの言葉を聞いたマグダは、突然立ち上がって言った。
「お前! 狂気とは何だよ?! 命を賭して国を守った大魔法だぞ!」
「だが、あの魔法で、多くの人が死んだ! 国民たちの家も全て! 幾ら敵国の兵であったとしても、あそこまでしなくても、他の方法があったんじゃ無いか?」
「じゃぁ兄上。その“他の方法”を教えてくださいよ。」
「………………それは……………………」
「じゃぁあの魔法は正しかったんだ! 現に今、こうしてアルゾナ王国はあるじゃないか。」
「お前なぁ。どれだけ苦労してここまで立て直したと思っているんだ? お前が抜け駆けなんかしなければ、もっと手際良く進められたのに。」
「あれは抜け駆けじゃねぇ!」
そんな罵声が絶えなくなり、エルダは、苛立ちを覚えた。
「五月蝿いですよ。」
苛立ちを隠しながら、二人に向かってエルダは言った。
「あ、あぁ、すまない。」
アステラは、我を取り戻したかのように、謝罪した。
「…………で結局、何の話だったんですか?」
アステラとマグダの会話の内容が分からなかったエルダは、場が静かな今、聞いた。
「…………………………また今度話す。」
その問いに対して、俯き、まるで思い出したくも無い事を思い出しやかのような素振りを見せた。
その雰囲気の中話しを深掘りする程、エルダには勇気が無かった。
「そういや、一つ疑問があるのですが………………」
エルダは、ある質問をした。
「グルダスがサルラス帝国の人間なのであれば、何故エルダに教育を施したのでしょうか。浮遊魔法なんて、サルラス帝国の脅威となりうるには十分な能力なのに………。その浮遊魔法師の卵を教育すれば、サルラス帝国の敗率が上がります。わざわざすることでは無いと思うのですが…………」
その質問に対して、アステラとマグダは、頭を抱えた。
「言われてみればそうだな………………」
今までそれに気づいておらず、理由もさっぱり分からない様子だった。
「それと…………エルダ。一つ気になっていることがあるのだが…………」
暫く経った時、アステラが言った。
「あの大量の木材だが。エルダが売ったのだろう?」
「……何故それを知って………………?」
「木材を買った時に、店主に聞いたんだよ。エルダがこの国に居るのが判明したのも、そのおかげだ。」
「その店主って、ボル・グリフさんですか?」
「あぁ、よく知っているな。彼奴は昔、マグダ、つまり第二王子の近衛騎士でな。私とも仲が良かったんだよ。歳をとって引退してから暫く経つが、ギルシュグリッツで商人をしていたとは。正直驚いたよ。」
「そんなに凄い人だっただなんて…………」
エルダが、口をポカンとさせた。
「(あっ、だからあの時ボルさんは、マグダに“様”をつけていたのか。)」
そうエルダは考察した。
「…………で、あの木材はどうやって…………?」
アステラがもう一度聞き直した。
此処でエルレリアの緑色人の事を言ってもいいのか、エルダは少し悩んだ。
彼等にとって黄色人は、加害者以外の何者でも無い。
今言ってしまって、万一誰かが彼等の命を奪う結果となってしまったら。
だが今いるのは、音漏れなど一切ない、厳重な隠し部屋。
しかも、サルラス帝国の国民が緑色人を狙う訳であって、アルゾナ王国国民が狙ったという話は一切聞かない。
それにアステラとマグダは、信頼出来る。
話してもいいだろう。
「実は、アルゾナ王国に来る前に……………………」