次ぐ日。

 アステラ、マグダ、エルダの三人は、壁の分厚い秘密の部屋に集まった。
 そこには、秘書であるリカルすら立ち入りを許されない。
 秘密裏に動く為の会合などを行う部屋だ。
 部屋の存在も、一部の者しか知らない。

「……じゃぁ、始めようか。」

 アステラが告げた。


 今回の会合の目的は、状況整理にあった。

「先ず、互いの情報整理からしよう。エルダだって、行き成りの事が多すぎて、整理しきっていないだろうから。」

 アステラが、エルダもついていけるようにと、そんな提案をした。

「はい、こちらこそ、是非お願いします。」

 エルダがお願いした。

「先ず、私、アステラは、マグダの兄で、エルダの叔父。つまり、エルダも(わたし)とは血が繋がっているんだよ。」
「ですが、マグダ()とアステラ王は、苗字が違っていた気が………………」

 それを聞くと、マグダが。

「私も元々は、マグダ・アルゾナで、兄上と苗字が同じだよ。ラーナと結婚したから、アルゾナからフレーラに、苗字が変わったんだ。普通結婚と言ったら夫の方の苗字にするのが一般的だろうが、平民だったラーナと過ごす上で、自分が王族である事は隠したかったから、苗字をフレーラにしたんだよ。」

 実際カルロスト連邦国のスラムでは、マグダが王族である事が知られていなかったし、そう言った点では、フレーラという苗字は都合が良かったのだろう。
 カルロスト連邦国は、サルラス帝国と国交を結んでいて、アルゾナ王国とはあまり仲が良くない。
 ので、敵国であるカルロスト連邦国の中で、自分がアルゾナ王国第二王子である事がバレれば、それこそラーナの身にも危険が及ぶ。
 そう言ったことを考慮すると、マグダの行動は賢明であったと考えられる。

「でも何故、カルロスト連邦国のラーナとアルゾナ王国のマグダ(父さん)が結婚できたんだ? 抑も、会うことすら難しいと思うのだが…………」

 エルダが聞いた。

「まぁ、一言で言うと、『一目惚れ』ってやつだよ。」
「……で、会ってその日に言ったの?」
「……男にはな、引けねぇ場面ってのがあるんだよ。」
「会った時がその時だ……と?」
「あぁ、そうだ。」

 いつの間にかタメ語でマグダと話していたエルダだったが、そっちの方がマグダが嬉しそうなので、そのままでいく。

「マグダ。その話はまた、エルダと二人っきりの時にでもしてくれ。」
「あぁ、すまんすまん。」

 あまり謝る気もなさそうな軽い謝罪の後、アステラは、本題に入った。

「…………マグダ。地下牢で監禁されていた時の事を、詳しく教えてくれ。」

 アステラが、真面目な声質で、マグダに聞いた。

「…………監禁? 地下牢? どういう事です?」

 突然会話がわからなくなったエルダは、反射的に話に割って入ってしまった。

「あぁ、エルダは聞いていなかったな。まぁ、順を追って説明していくから、聞いとけ。」

 そこから、マグダの話が始まった。



 ――――――――――――――――




 エルダ乳児期のあの惨事の後。
 マグダは重傷を負ったので、故郷であるアルゾナ王国へと向かった。
 生死を彷徨う中。
 目覚めると、左腕が無くなっていた。
 医者曰く、切断しないと、腐って最悪死に至る程の重症であったからだそう。
 本人の助諾も無しに勝手に手術を行った事を、医者は謝罪した。

 細かな説明を受け、何とか状況を理解した。
 マグダは、意気消沈した。
 足の損傷も激しい為、ここ十数年は寝たきりになるらしい。
 確かに、動かそうにもあまり動かない。
 マグダは、生きる気力を失った気がした。



 マグダが寝たきりになっている間、去年定年で退職したマグダの行政補佐、グルダスが、度々様子を見にきてくれたので、あまり退屈はしなかった。
 グルダスの事は信頼していたし、とてもいいやつだと、マグダは確信していた。
 なのでマグダは、エルダの教育をグルダスに頼んだ。
「お前ならできるだろう」と、信じて。

 そしてある日。

「エルダ様は今日、アルゾナ王国を発ちました。」

 グルダスの報告を聞いて、マグダは安堵した。
 エルダは、グルダスの教育過程を修了して、教養を身につけた上で、自分の意思で旅立ったのだ。
 父親として、これ以上の幸せは無かった。

「ありがとう…………」

 そうマグダが呟いたその時だった。

 ザザザザザザッ

 突然、マグダの病床の周りを、サルラス帝国兵のシンボルマークを胸につけた兵隊が囲んだ。
 全員、剣を持って、刃をマグダに向けている。

「…………グルダス。何のマネだ?」

 そう問うと。

「マグダ様、今から貴方を監禁します。大人しくしていただけると、此方としても助かる。」

 そうグルダスが言った。
 その瞬間、グルダスの顔がどんどんと若くなっていき、曲がっていた腰も伸び、別人の様になった。
 その姿を見て、マグダは言った。

「……ダールグリフ・ベルディウス…………」
「おや、私の事、知っていてくれましたか。前に会った時よりもだいぶと容姿が成長したもので、わかってくれないんじゃ無いかと心配していたのですが、余計でしたか。」

 そう言った後、兵は、マグダを取り押さえ、ギルシュグリッツ王宮の地下牢の最深部で、マグダを幽閉した。



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「……まさか………………!」
「あぁ、そうだ。グルダス・ベルディアは、サルラス帝国の人間。しかも正体は、あのザルモラ・ベルディウスの弟、ダールグリフ・ベルディウス。」

 それを聞いたアステラは、愕然とした。
 アステラも、グルダスの事は知っていた。
 信頼すらしていた。
 だがそんな人物が、サルラス帝国魔法師団団長の弟だったとは。アステラも思いもしなかった。



 場は、暗い雰囲気に包まれた。