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エルレリア開村一週間前。
アルゾナ王国。
この日、国中で、ある号外が配られた。
その表紙には、今まで見た事ないような大きな文字で、こう書かれてあった。
『サルラス帝国、アルゾナ王国へ宣戦布告』
突然の事だった。
この事を受けて王国政府は、即座に、宣戦の詳細を確認した。
議会に出された書類には、こう記されてあった。
・開戦は約一ヶ月後の昼
会場は騒めいた。
宣戦の理由は、皆とうに理解していた。
サルラス帝国が、領土拡大を目論んだからである。
昔からサルラス帝国は、オームル王国の領土を、武力をもってして奪い続けていた。
そしてアルゾナ王国政府も、「いつかはアルゾナ王国にも侵攻してくるだろう」と予想していた。
だが、いざ宣戦布告されると、慌てふためき、議論どころでは無くなってしまう。
「静粛に!」
アルゾナ王国国王、アステラがそう叫ぶと、場は一瞬でしんとした。
「それでは今から、サルラス帝国宣戦布告に対する措置について話していく。
先ず第一に問題なのが、戦争の場所である。万が一我が国で行われた場合、国民にも被害が出かねん。
そして第二に、帝国軍と我が軍の戦力差。皆周知の通り、我が国の軍事力は、帝国軍に劣っている。ので、現時点での我が国の敗戦は免れん。
兎に角重要なのは、この二箇条である。」
アステラがそう言い終えると、各々が近くの議員と話し始めた。
「王国南部に住む国民を、首都『ギルシュグリッツ』へ避難させるのは如何でしょう。此処なら、様々な物資が届きますので、安定した衣食の供給が出来ると思うのですが………………」
「まぁ、それしかないよな。」
ある議員の「ギルシュグリッツ避難案」を聞いたアステラが、既にその案を考えていたような口振りで返答した。
ギルシュグリッツと言うのは、この国アルゾナ王国の首都であり、王国の北部に位置している。
今いるこの王宮も、ギルシュグリッツの中央部に位置している。
首都なので当然、王国内でも最も栄えていて、その避難案を出した議員も言ったように、生活必需物資が有り余っている。
なので、避難してきた避難民を、そこで生活させることも、不可能では無いのだ。
「だがその案だと、その避難民の住居が無いのではないでしょうか。その点、どうお考えで?」
また別の議員が、そう質問した。
「まぁ実際、ギルシュグリッツへの避難案以外に道は無いだろう。分かった。避難民の住居については、こちらで対処しよう。リカル。この事について、財務課と建設課に報告しておけ。」
それを聞いた、アステラ王第一秘書、リカル・アルファは、そっと一礼し、この場を去った。
「そして、戦争への軍事問題だが。私の案として、国民へ、国民兵の募集をかけようと思う。」
アステラのその案に、会場が騒めいた。
「では国王。国王は、守るべき民をも戦場に繰り出すと言うのですか?」
「言ったであろう? あくまでも“募集”であると。ので、国民兵への加入は、“義務”ではなく“任意”なのだ。」
「それでは、もし志願者が集まらない可能性についてはどうお考えで?」
ある議員の質問攻めに、少々腹を立てるアステラは、それを悟らせない冷静さで答えた。
「少し話はそれるが。
宣戦布告後となれば、帝国と王国間を移動する商人も少なくなり、今まで行ってきた交易だってストップするだろう。なのでこの先、王国内での物資不足は加速していくと思われる。すると当然、国内の材料を買わざるを得なくなる。帝国製の素材の方が安いため、高い国内材料を使用した事で、様々な物の物価が上昇するだろう。それに加えて、もし、南部に住む国民の供給も負担となれば、物価上昇に加えて、物資不足は免れない。
それに政府も、今ある税金の大半を軍事費に費やすので、国民の賃金は高くならない。もしかすると、税の引き上げなんて事にもなるかもしれない。
そうなった場合、国民の生活は窮困するだろう。
そこでこの国民兵志願だ。
ここで志願してくれた者へは、その家族を含めて、国から、色々な救済措置をとる。例えば、報酬金であったりとか、食料品の供給であったりなど、その者や、その者の周りの者の生活が窮困から脱せるように。
そうすれば、少しばかりは志願者が増えるだろう。」
それを聞くと、また再び、会場に騒めきが生じた。
アステラの案。少し悪く言えば、国民を金で釣る案。
この方法が、果たして国民のためになっているのか。
皆、些か不安に陥った。
この日は、これ以上進展が無いまま終了した。
開戦まで、残り二十九日。