約三ヶ月後。

「「完成だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」

 村の完成に、どっと歓声があがった。
 あの日、見知らぬ黄色人に焼かれ亡き物となったあの村が、生まれ変わって、今ここにある。
 それに、前の村と比べて、いろんな箇所がパワーアップした。

 先ず、村全体を囲む深さ十メートルの堀とその内側に聳える十メートルの石の壁と、村と対岸を行き来する可動橋。
 これにより、村の防衛機能というのは、格段にレベルアップした。
 エルダの浮遊魔法の功績が大きいが、ゼルフや、他の技術班の功労の賜物でもあるその可動橋は、村の発展を示すのは文句の無い出来だ。
 橋を上げるのに必要な人数は、左右合わせて約二十人程。
 なので、敵襲があった時も、瞬時に橋を上げ、敵の侵入を拒むことが出来る。
 ちなみに、村を囲む壁の上には登ることができ、そこから弓矢で攻撃する事も可能で、万が一的に村を包囲されれば、エルダの鍛えたクレリアの氷魔法で一網打尽にする事も可能。

 そして村の家屋は、エルダがここら一体の木を一気に引っこ抜いた時のその木を使用して造られている。
 元々の資材の量がえげつなかったので、次手に、村に中に木の道を引くことも出来た。
 それでも未だに、まぁまぁな量の木材が残っている。



皆が騒ぎ立てる中、クレリアは前にあった台に乗り、言った。
 
「えー……静粛に。」

 破茶滅茶に叫ぶ村民を、(はしゃ)ぎたいけれどもそれをしてしまうと村民に面目が立たなくなるであろう人物。つまりクレリアが、そう言って村民を黙らせた。

「ここで一つ問題がある。何だか解るか?」

 クレリアが、何やら重要事項でも話す様な口調で、そう呼びかけた。

「そう。この村の名前だ!」

 凄く真面目な表情でそう言ったが、そこまで重要そうに聞こえなかったエルダは、ため息をついた。

「今まで、私たちの村は、『村』としか呼ばれていなかった。だが、そのままだと呼びにくい。何か、格好いい名前を、この村に付けたい。何か案はあるか?」

 クレリアは、まぁまぁ大きな声で、村民全員に呼びかけた。

 その後この場は、村民達の話し合いの場となった。
 それぞれが各々付けたい名前を言い合って、それについて皆が考察する。

 そして、村の名付けをクレリアが命じてから約三十分が経った頃。
 未だ、名前が決まっていなかった。
 エルダも聞き耳を立てて聞いていたが、村民のネーミングセンスの無さに、呆れ返っていた。
 そんな中、その話し合いの中に突然、ラルノアが割り込んできた。

「そんなに悩むんだったら、村開発に一番助力してくれたクレリア(父さん)とエルダの名前を文字って、『エルレリア』とかで良いんじゃないですか?」

 ラルノアは、サラッとそう言って、腕を組んだ。
 皆は、そのラルノアの一言に呆然とした。

「成る程なぁ……………………」
「それもありだな………………」
「そうだな…………………………」

 村民の心が、“エルレリア”に揺れ動いていた。

「エルレリアで良いと思う者は挙手!!!」

 クレリアがそう叫ぶと、村民の内のほぼ全員が手を上げた。

「じゃぁこれから、この村の名前は『エルレリア』とし、今日の事は、『エルレリア開村記念日』とする!」

 そのクレリアの言葉に、再び大きな歓声がどっとあがった。

「私の案。まぁまぁ良かったんじゃないですか?」

 ラルノアがエルダに向かって歩み寄り、そう言った。

「まぁ良いとは思うが…………自分の名前が使われていると思うと、ちょっと恥ずかしいな。」
「良いじゃないですか。それくらい、“エルレリア開村”に貢献したって事ですよ。」
「そうなのかなぁ…………」

 そう言って二人は、高らかに笑い合った。






 次の日。

「今日でお別れか。」

 クレリアが、可動橋の前で、エルダにそう言った。

「俺がここに来たのも、旅の途中にオーザックに会ったからだしな。その旅を再開させるだけだよ。」
「そうだな。」

 そう言った後クレリアは、エルダの横に置いてある大量の木材に視線を移した。

「そんな木材。本当に金になるのか?」

 クレリアが、エルダに聞いた。

「まぁ、こんなに量があれば、相当な金にはなるだろうよ。ってか其方こそ、こんな貴重な物資、分けて貰って良かったの?」
「いやいや。エルダにして貰った事に比べたら、これくらい、安いものよ。」

 そう言ってクレリアは、優しい笑みを浮かべた。

「…………そうか。エルダと会って、もう八ヶ月も経つのか。」
「早かったな。」
「そうだな…………」

 クレリアが、少し涙ぐむ。

「オーザックは、エルダのことを、『友達』と言っていたよ。」


 ――――――――――――――

 「オーザック。君は何故、黄色人であるエルダ()に、そこまで執着するのか。村で反発を喰らい軽蔑されることは、目に見えていたと言うのに。」
「それは――――――俺にとってエルダという人間が――――初めての友達だから。」

 ――――――――――――――

「そうか………………」

 エルダが、口角を緩めた。
 



「それじゃぁ、そろそろ行くわ。」

 そう言ってエルダは、浮遊魔法で、大量の木材を浮かせた。

「あぁ、元気でな。」

 そう言ってクレリアは、エルダの手をがっちりと掴んだ。
 すると、村の奥の方から、沢山の人が一斉に走ってきた。
 そして、エルダの前で輪になって止まった。

「「エルダ様! エルレリア開村への御助力、本当にありがとうございました!!」」

 そう言って彼らは、深く頭を下げた。
 そしてその人混みの中から、ラルノアが一人、走ってきた。

「エルダが村を出るって言ったら、エルレリア民全員『見送りたい!』って言って聞かなかったんですよ。」
「そうだったのか。」

 するとラルノアは、クレリアの握っていたエルダの手を奪い取って握り、言った。

「どうか、お元気で。何か嫌な事でもあった時や、気が向いた時は、是非、私たちの村(エルレリア)にきてくださいね。村民一同、大歓迎しますから。」

 そう言いながらラルノアは、大粒の涙をポロポロと流した。

「あぁ、是非、そうさせて貰うよ。」

 そう言いながらエルダは、ラルノアの握っていた手を解き、ラルノアの頭をポンポンと二回触った。

「やめて下さいよ。私だってもう大人なんですから。貴方が色々話ししてくれた時見たいに泣き崩れませんから。」

 そう言って、ラルノアは、今までで一番の笑みを、エルダに向かって浮かべた。





「それじゃぁ! 行ってくる!!」

 そう言ってエルダは、村で貰った食糧や旅グッツの入った鞄を背負い、浮遊魔法で大量の木材を運びながら、エルレリアを去った。








「行ってしまったな。」
「行ってしまいましたね。」

 木々の間からエルダが見えなくなった頃、クレリアとラルノアは、そう呟き合った。


「それじゃぁ今日も、村長、頑張りましょうか!!!」
「えぇ、そうですね。」

 大きな声で言うクレリアを他所に、ラルノアは、少し冷徹な声で言った。

 だが、ラルノアは、その冷徹な口調までも明るさに変えてしまう程の笑みを、少し遠慮気味に、浮かべていた。