浮遊魔法で整地後。
 魔力の大量消費で、立ち上がる気力もないエルダは、この後、ずうっと地面に横たわっていた。
 その間他の村民は、引っこ抜いた木々の加工に携わっていた。
 途轍もない木の量で、今ある村の構想に則って家屋を作っても、未だ大量に余ってしまうような量だった。
 だが、木のままでは使用出来ないので、使用出来るように加工する。
 エルダにそれは出来ないので、村の技術者の指揮で、村民の中でも、力仕事が出来そうな屈強な男が、木材の加工にあたった。
 その他の老人や女性、手伝いの出来ない子供は、エルダとずっと話していた。
「疑って悪かった」と謝罪する者もいれば、魔法というものについて、目を輝かせる子供もいて。
 寝たきりのエルダだったが、とても充実した時間だった。
 そこでエルダは疑問に思った。
 何故、人間と一切変わらない緑色人(かれら)が、ゴブリンと言われて蔑まれているのか。
 こうして関わっているうち、エルダには、彼らが人間にしか見えなくなっていた。
 そのうち、エルダと村民の間にあった種族間の垣根は、自然と消えていった。





 次の日。
 体力が完全回復したので、いよいよ、堀の制作に着手する。
 時間は、日が昇って約四時間ほど経った頃。
 エルダは、平らな平地を前に、深呼吸をした。
 その背後には、村民全員がいて、エルダを凝視している。
 少し緊張する中、エルダは、地面に向かって、両手を差し出した。

 冷や汗が、つーっと頬を伝って地面へと落ちた。
 村民は、固唾を飲んで見守った。


 先ずエルダは、浮遊魔法の作用点を集合させ面を作り、それを地面の中で、立方体になるように配置した。
 その立方体の大きさは、一辺が約十メートル以上で、人が一度落ちると、二度と這い上がって来れない程の大きさであった。

 その後、その立方体の、側面は、その内側に向かって力を加え、底面は、上に向かって力を加えた。
 その瞬間。

 バゴォォォォォン!!

 地面から、綺麗な立方体が繰り抜かれた。
 そしてそれが、空中に浮いている。
 村民は、その光景を見て、立ち尽くした。
 自分達が敵うわけがない、魔法という道の力の強大さを目の当たりにし、自分という存在が如何に弱いのか、再認識した。
 そしてそれを、村の敷地の内側に向かって配置した。
 これをずっと繰り返せば、深さ十メートルの村を囲む堀と、その内側に、高さ十メートルの壁を作る事が出来る。
 ちなみにそのくり抜いた立方体の材質は、土ではなく、岩である。
 その為、登る事も困難なのである。

 その後エルダは、それと同じ作業を幾度と無く繰り返した。
 どんどん。見る見るうちに、壁と堀が同時進行で形成されていく。

 そして僅か十分ほどで、堀の内の約二割程の長さが終わった。
 途轍もないスピード作業に、村民は全員、目を丸くして見守った。
 そして、休憩も合わせて約一時間後。
 堀の制作が終了した。
 エルダは再び地面に寝転がり、達成感で少しニヤけながら、燦々と輝く太陽を眺めた。


 そしてその間、村民の中での技術班が、可動橋の部品制作に着手していた。
 橋の部分。稼働部分を守る囲いの面。中のロープの取り付けた歯車。
 どれも、村の技術の遂を集めたものであった。
 そして、それを囲む枠組みなどが完成した頃。
 エルダが全回復したようで、技術班の元にやって来た。

「えーっと……? 俺の魔法で部品を設置していけば良いんでしたっけ?」
「はい。よろしくお願いします。」

 そう言って、今回の可動橋開発のリーダー、ゼルフ・ゴルムが、今回の可動橋の稼働部分の設計図を渡した。

「先ず、枠組みから作り、その途中で、歯車を設置していきます。枠板の固定は、枠板の端にある窪みと突起を組めば固定できる仕様になってますので、釘などは要りません。そしてこの設計図通りに歯車を設置できたら、枠組みを完成させます。…………まぁ、大体の流れはこんな感じです。わかりました?」
「まぁ、何となくは…………」

 少し不安も残りながらも、作業に着手した。
 枠組みの形は、所謂、四角錐台と言われる形で、その内側に、橋を持ち上げる機構を両端に二つ作り、橋の両端を引っ張り、浮かせる。


 先ずエルダは、枠板の内、側面になる板を設置した。
 設置は、下に伸びている棒を地面にぶっさす事で固定する。
 その棒の長さがまぁまぁ長いので、結構がっちりと固定される。
 そして、その枠板の内側から伸びている突起に、石製の歯車を順番に付けていく。
 そして、残りの枠板を設置した。


「まさか、こんなにも早く終わるとは…………」

 ゼルフが驚いている。
 制作開始から完成まで、かかった時間は約三十分程度。
 これが魔法なしでやると、約一日作業になる。
 抑も、歯車が石製なので何十キログラムもあるので、所定の位置まで持ち上げるので苦労し、それが全部で八つか十個位あるので、途轍もない労力となる。
 それが、浮遊魔法であれば一瞬で終わったのだ。
 そりゃぁ、ゼルフが驚愕するのも納得できる。


 その後、ゼルフと他の技術班は、本題の橋の制作に取り掛かった。
 稼働機構が完成しても、肝心の橋がなければ、只のオブジェになってしまう。
 そして、色んなものが乗る橋なので、それなりの強度が必要になる。
 要するに、完成までにまぁまぁ時間がかかるという事だ。
 そしてその間、エルダには、村の家屋建築を手伝ってもらう事になる。

 その時。エルダの中で、ある疑問が浮かんでいた………………