先ずは、これから作る村の範囲を決める。
今いる全員が住めるのは勿論、これから何十年と生き、人口が増えても対応できるくらいの広さが必要だった。
そして、それを決めない事には、堀も作れない。
理由は簡単な話。一度堀を作って仕舞えば、もうその位置を変える事が出来なくなり、これからの人口増加に耐えれなくなるから。
その為、先ず初めは、村の敷地設定から行う。
朝。
昨日の夜にまとめた、現在の生き残り人口とその中の世帯数、それに必要な家屋の数とその総面積を見ながら、クレリア含む緑色人三人で、その新しい村の敷地面積を設定していた。
ちなみに、その敷地内に生えている木はどうするのかというと、エルダの浮遊魔法で根っこごと引っこ抜きそれを可動橋やら家屋やらに使用するので、あまり木々に関しては考えなくても良い。
暫く経ち、エルダにクレリアから伝達が来た。
敷地範囲が決まったのだ。
クレリア曰く、敷地は、前の村の約二倍程にするらしい。
人口は前より減ってはいるが、今後人口が年々増加していっても許容出来る様にと言った、クレリアの措置であった。
早速、その範囲の木々を引っこ抜く。
クレリアの判断で、怪我がないようにと、村民を予め敷地外に待機させておいてから、木の除去を行う。
村民やクレリアにとっては、初めて見る魔法だったので、皆、目を輝かせながらエルダを眺めた。
エルダも少し緊張を覚えながらも、除去が始まった。
エルダが目を瞑り、集中した。
その瞬間、激しい地響きが起きた。
緑色人は腰を抜かし、子供は泣き出した。
時々来る地震よりもその揺れは激しく、立っているのがやっとと言った程度の地響きであった。
そしてその地響きは、突然ふっと消えた。
その後、ガタン! と、地面が再び揺れた。
そしてその時、緑色人は、あり得ない光景を目の当たりにした。
設定した敷地内にある全ての木が、一斉に空へと浮き上がっているのだ。
本数で言えば、五百本は優に超えているだろう。
そしてそれらは、敷地設定区域の少し外にある開けた場所に置かれた。
その後エルダは、木を抜いて凹凸の激しくなった地面を均す為、長い線状に伸ばした浮遊魔法の作用点を、端から端へと地面に沿わせて動かして、地面を均した。
木の浮遊に腰を抜かした緑色人は、一瞬で綺麗になる地面にも驚きを隠せなかった。
クレリアは、何食わぬ顔で平然としていたが、内心はとても驚いていた。
「こんな感じで良かったですよね?」
あまりの魔力消費(体力消費)に息切れが激しい中、エルダは、構想会議議員に聞いた。
「あ、あぁ。」
その議員もそのエルダの浮遊魔法に驚愕していて、ほぼ放心状態の様なものだった。
エルダがクレリアの元に行こうとすると、さっきまで自分を無視していた村民が、エルダに駆け寄り、魔法についての質問を、大量の歓声のように浴びせた。
手のひらを返したような態度に少し驚いたが、本人には、そんな気は一切ないのだろう。
信頼を得る事ができたと考えれば、今回の協力は、悪く無かったと言える。
そう考えると、安いものだ。
そう考えながら遠くの方に視線をやると、奥の方にラルノアが一人、木にもたれかかってぼーっとしていた。
エルダは、人混みを掻き分け、ラルノアの元へと行った。
「どうしたんだ? ずっと一人で。」
エルダが、ラルノアの隣に行き、聞いた。
「簡単な話、貴方が嫌いなんですよ。」
「それは、俺が黄色人だからか? それとも…………」
「別に、貴方は知る必要のない事です。要件はそれだけですか?」
「ま、まぁ………………」
「それならもう話す必要も無いですね。さようなら。」
そう言い捨て、ラリノアはこの場を去った。
するとエルダの後ろから、クレリアがやってきて。
「すまんな、娘が。エルダとあってからずっとあの調子なんだよ。なんなんだろうな…………」
「クレリアも理由は分からないのか?」
「あぁ、さっぱり。」
そう言って二人は、早足で去るラルノアの背中を見て、小さなため息をついた。