エルダは、平らな平地を前に、深呼吸をした。
その背後には、村民全員がいて、エルダを凝視している。
少し緊張する中、エルダは、地面に向かって、両手を差し出した。
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一昨日の夜。村の再建構想会議。
一応エルダも参加していたものの、その発言力は無に等しく、傍観者も同然だった。
そんな中、会議は進んでいった。
これを機に、村の防衛システム強化と、村の拡大、文明発達と、各重要施設の建設が、目的とされて設置された。
防衛システムの強化。
今までの村は、防衛能力が無に等しく、誰でも外から侵入出来るようになっていた。
なので、黄色人の往来も激しく、奇襲も受け易かった。
そこで考えられたのが、村を囲む堀と、開閉式の橋。
それが、今の技術力で出来る最高の防衛システムだった。
発案はクレリア。
それを聞いた議員は、頭を悩ませた。
第一、そんな大層なものを作る上で、時間がかかる。
堀を掘る時間、可動橋の構想と建設にかかる時間。
とても、気の遠くなるような時間だった。
「村長。確かに、それが実現出来れば、村の安全性は抜群に上がります。ですが、そこにかける時間と労力に関しては、どうお考えで?」
ある議員が、クレリアに聞いた。
それに対しクレリアは、こう答えた。
「確かに、今の私たちだけの力ではなし得ないだろう。だが、彼の力を借りれば、それらが短時間で可能になる。」
そう言ってクレリアは、突然、エルダを指差した。
「彼の持つ浮遊魔法なら、地盤を抜いて彫りを作ることも可能であり、可動橋を建てるのも容易に出来る。しかも、堀を作るのに抜いた岩を、堀の内側に建てて、侵入を拒む壁を建てることも出来るだろう。」
エルダは、その事を事前に少し聞いていて、出来るだろうと言っていたので、悠然と前に出て、クレリアの隣に立った。
場は騒めいた。
先ず、エルダは黄色人だった。
黄色人は、緑色人から嫌われている。
なので当然、エルダを良く思わない。
それに、魔法という未知の力をあまり信用してなく、その力を本当に所持しているのかさえ疑っていた。
痛い視線が、エルダとクレリアを刺す。
「すいません村長。幾ら村長の紹介と言えど、私共はどうも、その黄色人を信頼出来ません。何か信頼に足るものを提示して貰わない事にはどうにも………………」
議員の一人が、クレリアに対して言った。
「抑も私が緑色人素材商人だった場合、何故今こうして会議に参加しているのですか? 只素材が欲しいだけなら、さっさと殺して帰っている筈です。」
「じゃぁ、貴方がこの、村の再建情報を、何処かの国へと持っていく可能性は?」
「それは先ずありません。私の出身はカルロスト連邦国の北東部にある小さなスラムなので。そこから此処に来たので、何処かの国に加担したりとかは考えられませんよ。」
「……本当なのか?」
「あぁ、私が保証する。」
クレリアが、エルダをフォローした。
「皆。オーザックが、村に炎を放った黄色人に殺された。」
突然クレリアが、オーザックの話を仕出した。
場に再び、騒めきが起こる。
「その時に、その黄色人を殺し、オーザックを埋葬したのは、紛れも無い。此処にいる、エルダだ。」
それを聞き、議員の心が揺らいだ。
この男は、緑色人のうちの一人の仇を取る為、同じ黄色人を殺した。
「なんなら、その黄色人の死体が、今も村跡に残っている。見たいなら後で見に行くがいい。明らかに、浮遊魔法でしかなし得ない殺し方だ。」
クレリアの眼光は、反論を許さない姿勢を大いに表現していた。
なので議員も、反論せざるを得なかった。
「エルダ殿。本当に、ほんっっとうに、堀を作ることが可能なのですね?」
「あぁ、勿論。」
「……その言葉に二言は?」
「ありません。」
エルダは、堂々とした態度で、そう言った。
此処で逆にヘコヘコして出来なかった時の責任を逃そうとしても、それは結局、自分への信頼を失うだけで、堂々としていた方が、成功した時に絶大な信頼を得る事ができる。
その後会議では、可動橋の構想を練り、日が昇りかけていた頃、やっと完成した。
日が完全に昇った頃、会議は終了した。
一夜ぶっ通しの会議だったが、議員は皆、期待に満ち溢れた表情をしていた。
これならいける。
皆、そう確信していた。
本格的な制作は、今日から行う。
村の再建へと繋がる、始めの日であった。