「再建………………?」
クレリアが、エルダの言葉に首を傾げた。
「そりゃぁ、今の状態で此処にいる全員に厳しい生活を強いても、結局、飢餓や、冬だと最悪凍死。熱中症。流行病。脱水症。明らかに生活環境が劣悪です。こんな中で生活しろと言われても、無理な話ですよ。」
それを聞いて、クレリアを含む村民全員が、頭を悩ませた。
村の再建は必須。それは皆分かっていた。だが、気が回らない。しかも、黄色人指導だなんて癪だ。
そう考えているのが、エルダには丸わかりだった。
だが、誰に何を言われようとも、その事実は変わらない。
「……そうだな。」
クレリアが、少し俯きながら、そう言った。
「よーし皆んな!! あの黄色人に潰された村を元に戻すぞ!!!」
クレリアが突然、村民に向かってそう叫んだ。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
それに対して、緑色人の男共が、暑苦しい雄叫びをあげた。
「……全く。俺の言うことは聞かずとも、村長の言うことであれば聞く……か。」
エルダが自分の立場を再認識し、それと同時に、クレリアの頼もしさを痛感した。
クレリアのお陰で皆の士気が上がり、場が少し和んできた。
笑顔もちらほら見える。希望が見えたからだろう。
既に夜遅かったので、木陰ですやすやと眠る者も、チラホラと出てきた。
「エルダ…………殿。」
突然、クレリアが話しかけてきた。
「呼び捨てで良いですよ。」
「分かりました。エルダ……こそ、敬語なんか使わなくても良いですよ。」
「そちらこそ、敬語なんか使わなくても大丈夫。」
「わ、分かった。」
これで互いの距離が近付いたように感じたが、この話し方に慣れるには、時間がかかりそうだ。
「んでクレリア。なんで話しかけてきたんだ?」
「あ、そうそう。一度、今の村の状態を見ておきたくて。何にしろ無我夢中で逃げてきたもので、何処が村なのかが一切分からん。」
「成る程。オーザックの亡骸もそこにあるから、一緒に運ぼう。」
「……わかった。よろしく頼む。」
エルダは、木に立てかけてあった鞄を持ち上げ、中から地図と方位磁針を取り出した。
「えーっと。地図によれば、此処から丁度東微南にまっすぐ行けば着けそうだな。距離も然程離れてないし。これなら数分で着ける。」
「分かった、ありがとう。」
エルダは、地図と方位磁針を鞄に仕舞い、クレリアと共に、今は亡き村へと向かった。
灰の匂いが場に立ち込め、赤い焔光が顔を照らすようになった。
互いの顔が赤く光りながら、クレリアの額には冷や汗が見えた。
クレリアも、今の村の状態を察したのか、足取りが覚束無い。
自分の村を見るのが怖いのか、クレリアの頬にも、冷や汗がつーっと流れた。
でもクレリアは、引き返す事なく、同じ歩速で歩き続けた。
自分の目でちゃんと確認しておきたいのだろう。
別に確認せずとも、別の場所に村を再建しても良い訳で。
わざわざ確認するのも、村の最後を見届けるのも、村長としての責務なのだろう。
目の前が炎に包まれた。
いや、炎が大き過ぎて、そう錯覚しただけか。
エルダが左を見ると、クレリアが膝を折って地面にへたっている。
そりゃそうだ。
さっきまであった自分の治めていた村が、突然火の海と化したのだから。
悲しいと言うよりかは、虚無感、喪失感の方が大きいだろう。
エルダは、そんなクレリアを憐れむ事しか出来なかった。
そんな自分に、呆れた。
「……クレリア。」
エルダが、暫くの沈黙の後、話しかけた。
「……?」
「頑張って、村を作り直そう。俺も手伝うからさ。」
「……………………あぁ。」
元気の出そうな事を言ってみたが、心ここに在らずな状態のクレリアからしたら、ただの邪魔にしかなっていなかった。
それから何分経っただろうか。
瓦礫の崩れる音の絶えない中、クレリアは呆然とし、エルダは、そんなクレリアをじっと見つめた。
あまりにも残酷であった。
益々クレリアが可哀想に感じる。
「早く消えてくれよ……………………」
クレリアが、小さな声でそう呟いたその時。村上空に、一滴の水が発生した。
当然小さいので、エルダが気付く筈もなかったが、一定時間後、その水滴は突然、村を覆うように大きくなった。
突然上空の光の進み方が変わる訳だから、当然エルダやクレリアもその水に気付き、只々困惑し、慌てた。
そして次の瞬間。
その宙に浮いた水全てが、炎の燃え盛る村へと降り注いだ。
どぉぉぉん、と、水が地面に叩きつけられ、森の中に轟音が響いた。
それで鎮火されない訳は無かった。
空には、熱で蒸発した水蒸気や、鎮火された煙で、白い煙が雲のようになっていた。
これにより、村を含む周辺敷地内全てが水浸しになった。
当然、エルダやクレリアも、その範囲内にいた人物なので、びしょびしょに濡れているのは言うまでも無い。
エルダは只々困惑した。
突然上空に水が発生して、それが自分に降り注ぐのだから。
何だ。
誰の仕業か。
それらが一切分からない。
だが、炎が消えたのであれば、良かったのでは無いか。
エルダはそう考える事にした。
炎が消えた村の風景は、実に酷かった。
建物と言える建物がひとつもなく、焦げ臭った木材が地面に重ねられ、地面を黒くし。
その様子は、とても村とは呼べなかった。
「一体、何だったんだ……………………?」
エルダは、村だった場所でそう呟くが、誰も答えはしなかった。