ごおごおと炎の燃え盛る音が聞こえる筈なのに、今のオーザックには、風の音さえ聞こえない。
 もう何も聞こえない。
 聞いている余裕が無い。
 目の前の惨状が、オーザックを落胆させた。


 オーザックは、ガクッと膝を折り、地面にへたった。
 エルダもオーザックに追い付き、その惨事を目の当たりにした。
 「なんで…………………………」
 オーザックが、顔を真っ赤に照らされながら、そう呟いた。

 原因は何か。
 一軒の火事が燃え広がったのか。
 はたまた誰かが火をつけたのか。
 エルダは、辺りをキョロキョロし、周囲を確認した。
 周囲には特に何も無く、一見、只の火事のようにも見えた。

 エルダはオーザックに声をかけようとするが、何を言えばいいのかが分からず、はばかられた。
 オーザックは、目をぱっちりと開けながら、燃え上がる炎を呆然と眺めている。


 そして、暫く沈黙が続いたその時だった。

 プシャァァァァァァァ………………ドサッ

 そんな音が、後ろから聞こえた。
 それを聞いたエルダが、ゆっくりと後ろを振り返った。
 「……………………え………………?」
 そこにあったのは、地面に倒れたオーザックと、地面に溜まっている大量の血。
 よく見ると、オーザックの右首筋に、投げナイフが刺さっていて、そこから血がダラダラと流れていた。
 咄嗟にエルダはしゃがみ込み、オーザックの脈を取った。
 だがオーザックの手首は微動だにしない。
 エルダは、呆然とした。
 オーザックは、突如、何処からとも無く飛ばされた投げナイフで死んだ。
 エルダが、あまりの衝撃で涙が流れない中、オーザックの肩を揺さぶり続けた。
 だが、オーザックが起きることは無かった。


 その時。

 ガサッ

 奥の茂みから、音が聞こえた。
 バッと音の聞こえた方を見ると、そこには、黄色人の男が二人いた。
 一人は、投げナイフを握っていて、もう一人は、後ろの方で、青いフードを被っていた。よく見ると、長い髭が生えていて、太い黒縁の四角い眼鏡をかけていた。
 エルダは直ぐに理解した。
 その男が、金稼ぎの為、緑色人を殺そうと、オーザックを殺したのだ。
 緑色人と仲良くしているエルダが異例であるだけで、普通、メルデス大森林(ここ)に来る黄色人は、みんなゴブリンの死体目当てなのだから、その男達も、ゴブリン素材を売ろうとするものである可能性が高い。
 「おい、お前、何やってるんだ?」
 二人の男の内の一人が、オーザックの肩を揺するエルダに向かってそう言った。
 「退け! それは俺の獲物だ! 取るんじゃねぇ!」
 そう言いながら男は、ずけずけとエルダに歩み寄り、エルダを押し退け、オーザックから遠ざけた。
 「…………獲物……………………?」
 エルダは、そう言いながら立ち上がった。
 「俺の友人が“獲物”…………?」
 エルダは憤怒した。
 さっきまで和気藹々と話していた親友が、殺され、物扱いされる。
 これ以上の屈辱は無い。
 「あぁ、そうだ。俺が狩ったんだ。俺の物に決まってるだろ? ったく、村に火ぃつけても誰も出てこねぇし。収穫は()()だけかよ。」
 男はそう言いながら、オーザックの足を掴んだ。
 「止めろ!!!」
 エルダがそう叫び、浮遊魔法で、足を掴もうとした男の腕を折った。
 男は絶叫し、地面にのたうち回った。
 「お前! 何様のつもりだぁ?! 人の獲物を横取りしようだなんて!! そんな奴、()()()()()()!!」
 エルダは激怒した。
 「人間じゃねぇのはお前だろうがぁぁ!!!!!」
 そうエルダが叫んだ瞬間、その男は、ペシャンと潰れた。
 浮遊魔法で、男の頭と足を目一杯内側に向けて移動させたのだ。
 なので、上と下から均一にプレスされたように、ペシャンコになった。
 エルダは、怒りが十分に抜けきっていないまま、激しい息切れを見せた。
 そして、パッと前を向くと、もう一人の男は消えていた。

 エルダは、人間を殺した。
 殺した男も、オーザックを殺した。
 その男は、村に火をつけた。
 それで恐らく、数十人の村民が死んだ。
 男が悪い。いっぱい殺しているのだから。
 だがエルダも、少なからず人間を殺した。
 数はどうであれ、殺した事に変わりはない。
 エルダは、少し自分を責めそうになった。
 エルダは、自分のお人好しさが嫌になった。
 “明らかに向こうが悪い”
 素直にそう思えたら、どれだけ楽なのだろうか。

 試しにもう一度、オーザックの肩を揺すってみた。
 当然、されるがままに首をプランプランと揺り動き、目は開かず、全身の力が抜けていた。
 オーザックをゆっくりと地面に寝かせた。
 気分で、オーザックの両手を、オーザックの(へそ)の上で重ねさせ、寝かせた。
 左を見ると、未だに炎があがっている。
 熱い。
 明るい。
 暗い。
 
 月光を打ち消す程に明るいその炎は、まるで、エルダの虚無感を否定しているかのように燃え盛っていた。