その後オーザックは、クレリアの自宅に連れられ、何がったのかを告白した。
その間オーザックは、周りの者から常に軽蔑の視線を送られ、気が滅入りそうになりながらも、逃げられるような雰囲気ではなかったので、仕方がなく、事の一切を語った。
村を抜け出していた事。
そこでエルダと会ったこと。
エルダが良い黄色人であった事。
エルダを村に誘った事。
道中色んな話をした事。
それらを聞いた場の人々は、黄色人と仲良く接していたオーザックの正気を疑い、到頭目線すらも合わせなくなった。
ヒソヒソと隣の者とオーザックについて愚痴る者や、遂には、この部屋から出ていく者。完全に別人種だと捉え関わろうとしなくなった者。
一人の善良な黄色人と関わる事がこれ程の信頼を失う程、これまでに黄色人が行って来た愚行というのは、酷かった。
それらが、“黄色人=悪人”という考えを皆に定着させ、エルダの様なものが現れても、その先入観で、突き放してしまう。
だがオーザックは、黄色人と言った“全”を見ずに、其々を“個”として捉えた。
だからエルダとも和解でき、此処まで仲良くなれた。
だがその考え方は、緑色人からしたら異端であり、差別の対象となった。
村で生きる足枷となった。
話を全て聞き終わったクレリアは、オーザックにある質問をした。
「オーザック。君は何故、黄色人であるエルダに、そこまで執着するのか。村で反発を喰らい軽蔑されることは、目に見えていたと言うのに。」
その問いに対してオーザックは、少し考えた後、答えた。
「それは。俺にとってエルダという人間が――――」
――――――――――――――
「取り敢えず今日は帰ってくれ。そのエルダとやらに対してのこの村での対応を考える。」
クレリアは、オーザックの話を一通り聞いた後、そう言ってオーザックの退室を願った。
『対応を考える』というクレリアの言葉を聞いたオーザックは、エルダを村に呼べる可能性が上がったことに歓喜しながら、部屋を出た。
次日。
オーザックは、昨日自分が去った後如何なったのかを、クレリアに聞きに行った。
期待に胸を膨らませながら、クレリア宅の扉を、優しく二回ノックした。
朝早かったので、オーザックは寝癖がついたままだったが、扉から出て来たクレリアは、寝癖もなく、早朝を思わせない程にシャキッとしていた。
村長としての仕事があったからなのか、早起き出来るしっかりとした人間だからなのか。
「…………昨日の事を聞きに来たんだな?」
クレリアが、早朝に来たオーザックを見て言った。
「はい。」
オーザックが、真剣な表情で言った。
「…………入って。」
クレリアがそう言い、家の中へと手招きをした。
「お邪魔します。」
期待と不安が心の中を縦横無尽に行き来する中、クレリア宅に足を踏み入れた。
前日と同じ広間に呼ばれて、そこにあった椅子に座った。
クレリアは、その向かいの椅子に座る。
昨日は色んな意味で賑わっていた場所だが、今は誰も無いので、しーんと静寂が立ち込める。
「オーザック。」
クレリアが、机に手を乗せながら、いつも通りの冷徹な声で言った。
「すまない!」
そう言って、オーザックに向かって頭を下げた。
「私は賛成の方向で話を進めたのだが、他の者がそれを良しとしなかったんだ。」
「……何故………………」
「恐らく、彼が、“魔法師”であった事が、一番の要因だろう。今までの黄色人は、皆、非能力保持者であったが、エルダは能力保持者であり、その脅威は、今の我々には計り知れない。」
オーザックは落胆し、魂が抜けたように一点を見つめ続けた。
そして数十秒後、オーザックが言った。
「エルダはそんな事しない。」
その目は真実を言う者の目であり、クレリアは、その眼力に圧倒された。
「………………そこで…………だ。」
クレリアが、少し口角を上げて言った。
「私は出来るだけ、オーザックの意見を尊重したいし、エルダとやらの事も信頼したい。だからオーザック。一度エルダ殿を、こっそりと村へ呼び、私と合わせてくれないだろうか。そこで、私が直々にエルダ殿の人間性を探るので、村の者への発言の説得力も増すというもの。どうだ?オーザック。」
クレリアが、目を少し輝かせながら言った。
「成程………………それなら……………………」
オーザックはあまり興味が無さそうな陰気な返事をしたが、内心はとても喜んでいた。
「よし! 決まりだな!そうと決まればオーザック。エルダ殿を探しに行け! 私は、村の門の近くで待っている。」
それを聞いたオーザックは、笑みを浮かべながら、部屋を飛び出したが、入り口で止まり、クレリアに言った。
「ルリアの件…………悪かった………………」
クレリアは、少し俯いたあと、
「あぁ、過ぎた事はもういい。オーザックも、あの子を守ろうとしてくれたんだろ?それだけでもう、あの子は幸せだろうよ。」
それを聞きオーザックは、少し安堵の表情を浮かべてから、クレリアの家を飛び出した。