「クレリア村長…………」
オーザックが、村の入り口から出てきた老いている緑色人を見てそう言った。
入り口から出て来たのは、その老いた緑色人と、二十歳前後の若い緑色人が三人。
見た所その若者は、老いた緑色人を守るようにして、そこにいた。
オーザックが「クレリア村長」と言っていたので、老いた緑色人は、“クレリア”という名の、この村の村長だと推測出来る。
ならばその若者は、村長の護衛か何かだろう。
「オーザックか………………」
無表情で、クレリアがオーザックに呼びかける。
「村長。この黄色人に、村を案内したいのですが.......」
クレリアとちょくちょく視線を逸らしながら、オーザックは言った。
それを聞いたクレリア一行は、ふと前の方を向き、そこに黄色人が居たことに気付いた。
「うぅわぁぁぁぁぁ!!!」
若者の一人が、腰を抜かして倒れ、他の二人は、足を震えさせながら、懐に差してあった石で出来たナイフを取り、エルダに向かって構えた。
この反応に対しエルダは、想定内であったので、特に反応せず、オーザックの説得を待った。
「オーザック!! なんで此処に黄色人を連れて来てんだよ?! ばっかじゃねぇの!!」
ナイフを握りながら腕を震わせている若者が、オーザックに向かって言った。
「違うよ! こいつはこれまでの黄色人とは違う、緑色人を殺そうとしない人なんだよ!」
「そんな奴居るわけねぇだろ!」
若者が、汗をダラダラを流しながら叫ぶ。
クレリアはと言うと、オーザックに呼びかけただけで、それからずっと黙っている。
村長としてどうなのかが心配になるが、あまり気にしないようにした。
「オーザック! お前だって、黄色人に、母ちゃんを殺されたんだろ?」
「…………あぁ。」
「なら、黄色人の恐ろしさは十分理解している筈だが?!」
「でも、エルダは違う!! 俺たちを殺したりしない!」
「否! オーザック、お前が間違っている! 今までどれだけの人が、黄色人に殺されたことか! オーザックも知っているだろう!」
「…………そうだが…………」
「なら何故、元凶である黄色人に肩入れするんだよ?」
「エルダはヤツらとは違うからだよ!」
こんな会話が、かれこれ数分位繰り返されている。
クレリアも黙っただけだし、もう一人の若者は放心状態だし。
エルダはそのオーザックと若者の会話を聞くしか出来なかった。
これでもし悪化したら、それこそ面倒な事になる。
「そうだオーザック。お前、数年前にルリア様を殺しただろ。」
「俺は殺してねぇ! 殺したのは黄色人だって 昔から言ってるだろ!」
「さぁ、どうだったかな。」
若者が、オーザックの主張をはぐらかす。
「お前があの時、一緒に連れて行かなければ。お前がさっさと自分の力不足を知って帰って来ていれば。」
若者が、オーザックの事を笑い物にした。
「違う!」
オーザックが若者の言葉に、感情的になりながら反論した。
「いいや、何も違わない。」
「違う!!」
「違わない!」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!」
オーザックが癇癪を起こしていたその時だった。
「やめろ!!!!」
若者の醜態を見て、クレリアが怒鳴った。
それに対して若者は、ペコペコとしながら、後退した。
「オーザック。お前の事を信頼していない訳では無いが、黄色人を連れてくるのは、幾らオーザックであっても、容認出来ない。」
冷徹な声で、クレリアは言った。
「な、何で…………?」
「“何で?”それはオーザック、君が一番分かっているだろう。」
「でも、エルダは違うって何度も…………」
オーザックは、必死に説得しようとするが、オーザックのエルダへの信頼は、村民に届かなかった。
数分後。
オーザックがずっと奮闘しているが、その意見は一切聞き入れて貰えず、今や、オーザックの願いは消えようとしていた。
“何故そこまでして村を案内したいのか。”
エルダは悩んだが、答えが出なかった。
何故そこまでした、自分に執着するのか。
自分達が恨んでいる黄色人であるエルダを、何故村に入れたいのか。
村民に反発を喰らうのは目に見えているのに、何故そこまでして。
エルダがそう悩んでいた、その時だった。
「出て行け!!」
ずっと黙っていた若者が突然そう叫び、持っていた石のナイフを、エルダに向かって投げて来た。
当然エルダはそれに反応し、浮遊魔法を用いて、ナイフの動きを止め、地面に突き刺した。
「こ、此奴。魔法持ちか。」
若者の顔が青褪め、地面にへたった。
眼前を突然通り過ぎたナイフを見て、オーザックは腰を抜かし、それと同時に、エルダが魔法師であったことを悟った。
「オーザック、悪いけど俺、帰るわ。」
エルダは突然そう言い放ち、村に背を向け、トボトボと歩いて行った。
「エルダ、何で…………もうちょっと待って…………」
オーザックが、失意した顔をしながら、エルダに聞いた。
「如何やら此処の村の連中は、俺の死を願って止まないようだが、生憎、俺はまだまだこの世界を旅してみたいもので。」
そう言い、エルダはオーザックの前から姿を消した。
オーザックは、エルダを追いかけようとしたが、若者に取り押さえられ、その願いは叶わなかった。