わたし、雪街奏は今パンケーキが食べたい。あのふわふわで甘い甘いパンケーキが食べたい。食べたくて食べたくて仕方ない。

 なので食べに行くことにした。久しぶりに実家に帰っていたついでに、最近出来た近所のパンケーキ専門のカフェに寄っている。もちろん、美優羽ちゃんも一緒に。

 ここのパンケーキは色々種類がある。オーソドックスなパンケーキはもちろん、苺が乗っているものや、抹茶風味のもの。とにかく色々ある。どれにするか、結構迷ってしまう。

「どれにしようかなぁ」

 なんて呟いて、店先の看板と睨めっこしながらメニューを選ぶ。

「お姉ちゃん、もう少しかかりそう?」

 美優羽ちゃんが少し心配してそうな表情をしている。迷った時はそれ全部頼んじゃえって言う格言なるものを知っているが、そこまで頼めるほどの予算を今日は持っていない。お腹の調子的には余裕で入るけど、予算がないなら諦めるしかない。だから、どれにするかこの場で決めないといけない。

 シンプルなのにするか、チョコレートパウダーとか苺とかでデコられたものにすべきか……。迷う。迷ってしまってしょうがない。迷うのも外食の醍醐味といえばそうだけど、美優羽ちゃんと来ているのだから迷いすぎて困らせるのはいけない。今は冬で寒いんだから、早く中に入りたいしね。

 …………迷ったけど、チョコのやつにしよう。飲み物はカフェラテにしよう。苺は最近ケーキで食べたばかりだ。抹茶はもう少し暖かい季節に食べたい。そう言うことでチョコだ。わたしはそう決めた。

 店内に入りレジで注文を伝えてお会計を済ませた。番号札を持って、窓際のカウンター席の少し背の高い椅子に座る。作ってる様子も見たかったけど、とても見れそうにない。少し残念な気分だ。まあその分どんなのが来るのかを楽しみにしていよう。

「お姉ちゃん。ここの店って色んなMetuber(ミーチューバー)の人が紹介してる名店なんだって!」

 そう言って美優羽ちゃんはスマホの画面を見せてきた。本当だ。名前の聞いたことのある有名な人が何人もこの店を特集している。幾つか見たことのある動画だったけど、この店だったんだ。新しい事実を知ることができた。

「凄いねぇ。こんな店が近所にあったんだねぇ」

「だよね。地元なのに知らないこと山ほどありそうだよね」

 美優羽ちゃんの言う通りだ。地元は遊び尽くしたつもりだったけど、まだまだ全然知らない店が沢山ありそうだ。そう言う店を美優羽ちゃんと一緒に巡るのも楽しいかもしれない。次いつ地元に帰ってこれるかは分からないけど、その時はこう言う店を探してみよう。わたしはそう誓った。

「そう言えばもう時期テストだよねぇ」

「テストかあ。慣れてきたけど少し面倒だよねえ」

 わたしの呟いた言葉に、美優羽ちゃんが反応する。

「レポートの時もあるけど、引用のルール守ってないとそれだけで弾く教授がいるからねぇ」

「あー、私の大学にもそう言う教授いる。厳しいってみんな言ってる。けど、ルールって慣れればいいから難しく考えなければ点数貰いたい放題だよね?」

 美優羽ちゃんは同意を求めるように言う。私も美優羽ちゃんの言いたいことは滅茶苦茶わかるので、首を縦に振った。

「そうだよねぇ。出席足りてない授業だったのに、レポートだけで単位貰えた授業もあったからねぇ」

 私が自信満々に言うと、美優羽ちゃんはため息を吐いた。

「お姉ちゃん寝坊助さんだもんね。高校の時はちゃんと朝起きれたのに、大学生になってから起きれてないよね」

 美優羽ちゃんに痛いところを突かれてしまった。実は大学生になってから寝坊癖がついてしまったのだ。きっかけはあまり覚えていない。確か。本を読んでいてそれが面白すぎてずっと読んでて夜更かししたのが原因だったと思う。

 最初のうちは罪悪感があったけど、時が経つにつれて薄くなっていき、今では休んでも仕方ないよねって感じになっている。

 高校生の頃は皆勤賞の常連だったと言っても、大学からの友人や先輩には信じてもらえない。そのレベルだ。それでも単位が取れてるのは、サークルとかバイト先の同級生や先輩からの手助けがあるからだ。いつか治さないといけない。けど、治る気もしないのが現状だ。

「けど、そんなお寝坊さんなお姉ちゃんも、私は大好きだよ?」

 美優羽ちゃんはとびっきりの笑顔でわたしを見つめている。こんな顔を見たら、このままでもいいのかなあなんて思っちゃう。でも、さっきも考えてたけど治さないといけないよね。

「ありがとう。けど、治せるように頑張るよ。その為にも、明日は早起きする!」

「うん。その意気だよ! お姉ちゃん」

 そんなやり取りをしていると、頼んでいたパンケーキとカフェラテが運ばれてきた。

「おぉー。来たねぇ」

「美味しそうね」

 美優羽ちゃんは写真をパシャパシャと撮っている。SNSにあげるためだろう。わたしもやっているけど、あまりご飯の写真は撮らないからわたしはもう食べよう。

 わたしのパンケーキは、薄くて白い餅のようなものの上に、チョコレートパウダーのようなものが振られている。わたしはそっと、パンケーキをナイフで切った。ふわふわとした感触でゆっくりと切れていく。美味しそうだ。わたしの期待は膨らむ。

 ある程度食べやすい大きさに切れたところで、フォークを刺して一口。パクリ。

 うん、美味しい。甘いけどちょっとほろ苦さのようなものもあって上品な甘さだ。パンケーキもふわふわした食感で期待を裏切らない美味しさだ。軽くて幾らでも食べられそうな感じがする。

 一口を食べ終え、カフェラテを飲む。これも美味しい。ミルクが強めの味でとても濃厚だ。それでいて主役のパンケーキの味を邪魔していない。計算された味だ。

 こんなに美味しかったらすぐに食べ終えてしまいそうだ。わたしはどんどんとパンケーキを食べていき、気がつくと全て食べ切ってしまっていた。

「お姉ちゃんもう食べたの⁈」

 あまりの早さに美優羽ちゃんも驚いているようだった。

「美味しかったから……つい」

 わたしの言葉に美優羽ちゃんは笑っていた。

「お姉ちゃんらしいね。美味しいもの食べるとすぐ完食しちゃうの」

 美優羽ちゃんにそう言われると少し恥ずかしくなった。もう少しゆっくり食べた方がいいんだろうか? わたしがそう聞くと美優羽ちゃんは首を横に振った。

「そんなことないよ。上品な場所でとか食べ方が物凄く汚いならまだしも、そうじゃないなら別にいいんじゃない。美味しそうに食べてるし、幸せそうだから私も余計に美味しく感じちゃうなあ」

「美優羽ちゃん……」

「だから、お姉ちゃんはそのままでいいよ」

 にこりと美優羽ちゃんは微笑む。わたしはその微笑みに心ときめいていた。このままのわたしでいよう。

 それからしばらくして美優羽ちゃんが食べ終えた。帰ろうとしていた時に、お持ち帰りがあることに気づいたので、琴葉お姉ちゃんと唄お姉ちゃんの分を買って帰った。そして、家で二人とも美味しそうに食べてくれた。今度は美優羽ちゃんとだけじゃなくて、みんなで。でも、美優羽ちゃんと二人きりでもまた行きたいな。そう思ったのだった。