ストーカー事件からしばらく経ち、4月になった。春の陽気は暖かく、春眠暁を覚えずとはまさにこういう気持ちなのだろう。そんな気分にさせてくれる。
当然ながら、私は高校2年生になった。2年生になっても特に変わったことはないだろう。そう思っていた。
だが、運命は私の都合の良いように悪戯をしてくれた。
なんと、奏お姉ちゃんと同じクラスになったのだ。私たちの高校の場合、2年生からは成績がいい生徒を集めたクラスが一クラス設けられる。そのクラスに私と奏お姉ちゃんは入ることになったのだ。
さらに私と奏お姉ちゃんは同じ文系で、日本史専攻である。なので、どの授業も同じ教室で受けられる。その上、苗字も一緒だから席も至近距離だ。
これからは毎日奏お姉ちゃんを拝みながら勉強できる。なんと素晴らしい環境を与えてもらったのだろうか。私は学校のシステムとこの運命に大きな感謝をした。
あと、楓も同じクラスだ。これも嬉しいことである。仲良くなれた子と一緒になれるというのは嬉しいものだ。
そんなわけで、私の高校2年生のスタートは上場の滑り出しなのだ。そして嬉しいことが珍しく続いているのだ。
なんと、今週の日曜日に奏お姉ちゃんと二人きりで、遊びに出かけることになったのだ。普段は誰かが必ず付いてくるので、二人きりというのは随分久しぶりな話なのだ。
これほどまでに嬉しい出来事が続いていいのか心配になったが、これはしっかり堪能しなさいという神様の啓示なのだろう。そう受け止めておこう。
そんなわけで、私はオシャレをしなくちゃいけない。奏お姉ちゃんと一緒に出かけるのだから、恥ずかしい格好はできない。それに、もしかしたら奏お姉ちゃんの気を少しでも引けるかもしれない。
そんな淡い期待をしながら、私は着ていく服の準備をしていく。まだ月曜日だというのにも関わらず。
準備をしているのだが、どの服を着ていこうか全然決まらない。2、3時間も悩んでいるのに、全く決まらないのだ。
まだ時間はあるからいいのだが、こうも決まらないとなると、一生決まらないんじゃないかとも感じてしまう。
ここは、第三者の視点を入れてみよう。そしたら、すんなりと決まるかもしれない。
琴姉は…………、ないな。琴姉にファッションのことを聞いても絶対にいいことがない。唄姉も微妙だ。服のセンスは琴姉より明らかにいいが、私の好みと合わない。あと、真剣に選んでくれなさそう。
遊びに行くんだろ? そんなもんテキトーでいいだよ。こんなことを平気で言いかねない。まあ、私の事情を知らないわけだから仕方ないんだけどね。
というわけで、家族内には相談が出来ない。となれば友人にあたるしかない。
私はスマートフォンを取り出し、候補を探し出した。
加奈子は、こういうのにセンスがありそうだ。優菜もそういうのには精通してそうだ。美沙も悪くはないかも。
なるほど。意外と候補はいる。しかし、みんな真剣に見てくれるかがやはりネックになる。遊びに行く、しかもボーイフレンドとかではなく、奏お姉ちゃんだから、そこまで真剣に選んでくれなさそうだ。
真剣に選んでくれる……。いた。一人いた。とても真面目で、こういう条件でも絶対に真剣に見てくれそうな子が。
雷に打たれたかのように閃いた私は、早速スマートフォンから、その子に電話を掛けた。
夜の8時頃。私が勉強机に座って明日の予習をしているそのその時に、その電話は突然かかってきました。
「あのね、楓。お願いがあるんだけど」
電話の主は美優羽さんです。声のトーンを聞く限り、何か悩んでいるようです。電話がかかってくること自体はそう珍しいことではありませんが、悩んでいるのは相当珍しいです。一体どんな要件なのでしょうか。
「どうしたのでしょうか?」
私は美優羽さんに尋ねます。もしかすると、何か大変なことに巻き込まれてしまっているとか。多分そんなことではないでしょうが、一応心配します。
「今度の日曜日、お姉ちゃんと出かけることになって……。それで、着ていく服を悩んでいてね。だから、その……私の服をどれがいいかって教えてくれない?」
美優羽さんはとても真剣な声でそう言います。なんだ、奏さんとのお出かけのことですか。変なことに巻き込まれていなくてよかったです。変なことは、私がすることだけで十分ですから。私は一安心します。
「選ぶ、ですか。けど、私はそんなに洋服のセンスには優れていませんよ? 見てもらうのなら、優菜さんなど、そういう方面に明るい人がいいのではないでしょうか?」
私はそう聞き返します。私の言うように、服のセンスに明るい人は他にいます。それを差し置いてなぜ私なのか。それが気になります。
「ちょっと、真剣に選んで欲しくてね……。いやっ、お姉ちゃんとはそういう関係とかそういうのじゃないのよっ。そうじゃないんだけど、お姉ちゃんが喜びそうな服を真剣に選んでくれそうなのが、楓くらいしか思い浮かばなくて。だから、楓に頼んでるのっ」
美優羽さんは少し声が上擦っています。なるほど。私が真面目そうだから、真剣に選んでくれると思っているらしいですね。普段から真面目にしておいた甲斐があったようです。ありがとう、普段の私。私は普段の自分に感謝します。
ただ、美優羽さんが奏さんのことが好きなんて周知の事実ですから、優菜さんに言っても真剣に選んでくれそうですけどね。まあ、今は黙っておきましょう。本人も、周りには秘密にしていそうですし。
それに、私を信頼してくれてるのは嬉しいですし。私はこの事を黙っておくことにしました。
「それで、どのようにして選べばいいのでしょうか?」
「私が何通りか写真を送るから、その中から選んで欲しいな」
美優羽さんはそう言います。ただ、私はそれよりももっといい方法を思いつきました。
「写真で選ぶですか……。それよりも、実際に見た方がいいような気がします。写真の印象と実際に見た印象は変わりますし。それに、他の服も見た方がいいって場合もありますし」
ありのまま、思ったことを美優羽さんに伝えます。
「言われてみればその通りだわ。じゃあ、明日の放課後、家に来てくれない?」
美優羽さんもそれに賛同してくれます。
「あっ、わかりました。明日は当番もないのでそのまま帰るついでに行きますね」
「分かったわ。それじゃあ、明日よろしくね。じゃあまた明日」
美優羽さんがそう言うと電話が切れました。と言うわけで、明日は美優羽さんの家に行くことになり、家に行く?
なんと言うことでしょうか! 美優羽さんの家に行くことが決まってしまいました! 今になって急に興奮してきました。やばいです。あの美優羽さんの家に行けるのです。興奮するなという方が無理があります。
卓上ミラーに映る私の顔は真っ赤になっています。とてもじゃないですが、落ち着くことができません。
決して下心を持って提案したわけではないのです。ただ思ったことを素直に言っただけです。それが功を奏したのかもしれません。
あの日に言ってから、これまで叶わなかった美優羽さんの家を訪れるという夢が、叶ってしまいました。まるで夢のようです。
しかも、美優羽さんの姿を間近で見られるわけです。これはご褒美です。ご褒美に違いありません。神様からの嬉しいプレゼントでしょう。
こうなっては、私も全力で美優羽さんに応えなければなりません。
これがもしかすると、奏さんとの仲を進展させるかもしれません。しかし、そんなのは知りません。折角頂いたプレゼントですので、いいお返しをしなくては美優羽さんに申し訳ないです。
私は、スマートフォンで『オシャレ』『女子高校生』というワードで検索をかけます。少しでもオシャレについて勉強して、美優羽さんの役に立たなくてはなりません。
付け焼き刃でも、出来る限りの知識を身につけましょう。
こうして、私は人生で初めてオシャレについて学んでいくのでした。
当然ながら、私は高校2年生になった。2年生になっても特に変わったことはないだろう。そう思っていた。
だが、運命は私の都合の良いように悪戯をしてくれた。
なんと、奏お姉ちゃんと同じクラスになったのだ。私たちの高校の場合、2年生からは成績がいい生徒を集めたクラスが一クラス設けられる。そのクラスに私と奏お姉ちゃんは入ることになったのだ。
さらに私と奏お姉ちゃんは同じ文系で、日本史専攻である。なので、どの授業も同じ教室で受けられる。その上、苗字も一緒だから席も至近距離だ。
これからは毎日奏お姉ちゃんを拝みながら勉強できる。なんと素晴らしい環境を与えてもらったのだろうか。私は学校のシステムとこの運命に大きな感謝をした。
あと、楓も同じクラスだ。これも嬉しいことである。仲良くなれた子と一緒になれるというのは嬉しいものだ。
そんなわけで、私の高校2年生のスタートは上場の滑り出しなのだ。そして嬉しいことが珍しく続いているのだ。
なんと、今週の日曜日に奏お姉ちゃんと二人きりで、遊びに出かけることになったのだ。普段は誰かが必ず付いてくるので、二人きりというのは随分久しぶりな話なのだ。
これほどまでに嬉しい出来事が続いていいのか心配になったが、これはしっかり堪能しなさいという神様の啓示なのだろう。そう受け止めておこう。
そんなわけで、私はオシャレをしなくちゃいけない。奏お姉ちゃんと一緒に出かけるのだから、恥ずかしい格好はできない。それに、もしかしたら奏お姉ちゃんの気を少しでも引けるかもしれない。
そんな淡い期待をしながら、私は着ていく服の準備をしていく。まだ月曜日だというのにも関わらず。
準備をしているのだが、どの服を着ていこうか全然決まらない。2、3時間も悩んでいるのに、全く決まらないのだ。
まだ時間はあるからいいのだが、こうも決まらないとなると、一生決まらないんじゃないかとも感じてしまう。
ここは、第三者の視点を入れてみよう。そしたら、すんなりと決まるかもしれない。
琴姉は…………、ないな。琴姉にファッションのことを聞いても絶対にいいことがない。唄姉も微妙だ。服のセンスは琴姉より明らかにいいが、私の好みと合わない。あと、真剣に選んでくれなさそう。
遊びに行くんだろ? そんなもんテキトーでいいだよ。こんなことを平気で言いかねない。まあ、私の事情を知らないわけだから仕方ないんだけどね。
というわけで、家族内には相談が出来ない。となれば友人にあたるしかない。
私はスマートフォンを取り出し、候補を探し出した。
加奈子は、こういうのにセンスがありそうだ。優菜もそういうのには精通してそうだ。美沙も悪くはないかも。
なるほど。意外と候補はいる。しかし、みんな真剣に見てくれるかがやはりネックになる。遊びに行く、しかもボーイフレンドとかではなく、奏お姉ちゃんだから、そこまで真剣に選んでくれなさそうだ。
真剣に選んでくれる……。いた。一人いた。とても真面目で、こういう条件でも絶対に真剣に見てくれそうな子が。
雷に打たれたかのように閃いた私は、早速スマートフォンから、その子に電話を掛けた。
夜の8時頃。私が勉強机に座って明日の予習をしているそのその時に、その電話は突然かかってきました。
「あのね、楓。お願いがあるんだけど」
電話の主は美優羽さんです。声のトーンを聞く限り、何か悩んでいるようです。電話がかかってくること自体はそう珍しいことではありませんが、悩んでいるのは相当珍しいです。一体どんな要件なのでしょうか。
「どうしたのでしょうか?」
私は美優羽さんに尋ねます。もしかすると、何か大変なことに巻き込まれてしまっているとか。多分そんなことではないでしょうが、一応心配します。
「今度の日曜日、お姉ちゃんと出かけることになって……。それで、着ていく服を悩んでいてね。だから、その……私の服をどれがいいかって教えてくれない?」
美優羽さんはとても真剣な声でそう言います。なんだ、奏さんとのお出かけのことですか。変なことに巻き込まれていなくてよかったです。変なことは、私がすることだけで十分ですから。私は一安心します。
「選ぶ、ですか。けど、私はそんなに洋服のセンスには優れていませんよ? 見てもらうのなら、優菜さんなど、そういう方面に明るい人がいいのではないでしょうか?」
私はそう聞き返します。私の言うように、服のセンスに明るい人は他にいます。それを差し置いてなぜ私なのか。それが気になります。
「ちょっと、真剣に選んで欲しくてね……。いやっ、お姉ちゃんとはそういう関係とかそういうのじゃないのよっ。そうじゃないんだけど、お姉ちゃんが喜びそうな服を真剣に選んでくれそうなのが、楓くらいしか思い浮かばなくて。だから、楓に頼んでるのっ」
美優羽さんは少し声が上擦っています。なるほど。私が真面目そうだから、真剣に選んでくれると思っているらしいですね。普段から真面目にしておいた甲斐があったようです。ありがとう、普段の私。私は普段の自分に感謝します。
ただ、美優羽さんが奏さんのことが好きなんて周知の事実ですから、優菜さんに言っても真剣に選んでくれそうですけどね。まあ、今は黙っておきましょう。本人も、周りには秘密にしていそうですし。
それに、私を信頼してくれてるのは嬉しいですし。私はこの事を黙っておくことにしました。
「それで、どのようにして選べばいいのでしょうか?」
「私が何通りか写真を送るから、その中から選んで欲しいな」
美優羽さんはそう言います。ただ、私はそれよりももっといい方法を思いつきました。
「写真で選ぶですか……。それよりも、実際に見た方がいいような気がします。写真の印象と実際に見た印象は変わりますし。それに、他の服も見た方がいいって場合もありますし」
ありのまま、思ったことを美優羽さんに伝えます。
「言われてみればその通りだわ。じゃあ、明日の放課後、家に来てくれない?」
美優羽さんもそれに賛同してくれます。
「あっ、わかりました。明日は当番もないのでそのまま帰るついでに行きますね」
「分かったわ。それじゃあ、明日よろしくね。じゃあまた明日」
美優羽さんがそう言うと電話が切れました。と言うわけで、明日は美優羽さんの家に行くことになり、家に行く?
なんと言うことでしょうか! 美優羽さんの家に行くことが決まってしまいました! 今になって急に興奮してきました。やばいです。あの美優羽さんの家に行けるのです。興奮するなという方が無理があります。
卓上ミラーに映る私の顔は真っ赤になっています。とてもじゃないですが、落ち着くことができません。
決して下心を持って提案したわけではないのです。ただ思ったことを素直に言っただけです。それが功を奏したのかもしれません。
あの日に言ってから、これまで叶わなかった美優羽さんの家を訪れるという夢が、叶ってしまいました。まるで夢のようです。
しかも、美優羽さんの姿を間近で見られるわけです。これはご褒美です。ご褒美に違いありません。神様からの嬉しいプレゼントでしょう。
こうなっては、私も全力で美優羽さんに応えなければなりません。
これがもしかすると、奏さんとの仲を進展させるかもしれません。しかし、そんなのは知りません。折角頂いたプレゼントですので、いいお返しをしなくては美優羽さんに申し訳ないです。
私は、スマートフォンで『オシャレ』『女子高校生』というワードで検索をかけます。少しでもオシャレについて勉強して、美優羽さんの役に立たなくてはなりません。
付け焼き刃でも、出来る限りの知識を身につけましょう。
こうして、私は人生で初めてオシャレについて学んでいくのでした。