「優衣! 優衣!」

 摩耶の声に反応して目が覚める。目を開くとカーテンの隙間から陽の光が差し込んでいる。どうやら朝のようだ。

「あ、目覚ました?」

「う、うん。おはよう摩耶」
 
 起きたばかりということもあり、弱弱しい声で返事をした。

「おはよう優衣。昨日はごめんな。色々めーわくかけた上にこうやって泊めてくれて。ほんとに申し訳ない」
 
 摩耶はベッドの上で土下座をして謝りだした。私は驚きのあまり、寝起きにも関わらず俊敏な動きで布団から飛び出だした。

「そ、そんなの気にしなくていいのよ! 困った時はお互い様だし、そんなこと気にしなくて。私だって摩耶……摩耶を抱き枕にして寝ちゃったし、私は摩耶の恋人なんだからこれくらい気にしなくて大丈夫よ」

 私は少し顔を赤くしながらフォローした。ただ、フォローしている最中に昨晩の狂人染みた自分の言葉を思い出して口に出しかけそうになってしまったが、何とか誤魔化せた。

「ありがとう優衣。でも、このままなんもしないのはあたし的に申し訳ないから、何かさせて欲しい。なんかこうお姫様抱っこしてくれとか、一日だけ私の命令に従えとかそんなんでもいいから」
 
 摩耶が提案してくる。正直に言うと別にそういう事はしてもらわなくてもいいんだけど、こういう時の摩耶は絶対に引かない。言う事を聞いてくれるまで引き下がらない。

「摩耶がそう言うのなら何かやってもらおうかしら」

 私は何をしてもらおうかを考え始めた。一日だけなんでも命令を聞いてもらえるのはいいかもしれない。そうすれば普段の摩耶ならしないような恰好とかもしてくれそうだし。

 でも、なんかピンとこない。こう無理矢理感があるのは今一つ好きになれない。

 他にも色々と考えてみたが名案が思い付かない。仕方がないので、命令を聞いてくれるにしようかな、と思った時だった。私は昨日の保健室での夢のことを思い出した。

「摩耶、そういえば今週の日曜日は十四日だよね?」

「うん、そーだよ」

 私は閃いた。それならばあの夢のシチュエーションを正夢にしてしまえばいいんだと。

「じゃあ摩耶、今週の日曜日に二人でお出かけしない? 摩耶の誕生日も兼ねて」

「え? そんなんでいいの? なんか高いの買ってくれとかそんなんじゃなくて」

「うん。それでいいの。私がいいって言ってるんだから」

「じゃあわかった。このお礼は日曜日に二人でお出かけするってことでいい?」

「ええ。いいわよ」

 こうして今週の日曜日は二人で出かけることになった。これであの夢を現実にできそうだ。そう思うとワクワクせずにはいられなかった。





 そして迎えた日曜日はびっくりしてしまうくらい、あの夢と同じ流れだった。摩耶が寝坊して電車で遅刻してきたし、そのお礼に抱きしめてくれもくれた。さらに恋人つなぎまでやってくれた。

 服屋の前でウィンドウショッピングしている時も同じことを言われた。昼ご飯の時にサンドイッチをあげた代わりに、アイスをスプーンで食べさせてくれた。

 そして、摩耶は私のミスで摩耶が電車に危うく乗り遅れそうになった。本当にあの夢を再現しているようだった。
 
 それで今は摩耶が眠って、車両には誰もいないというこの状況である。そういえば夢ではキスする寸前で起きちゃったんだっけ。

 そうすると、これももしかしたら夢なのかもしれない。私は念のため頬をつねってみる。

「痛っ……」

 力を入れ過ぎたせいで声を出してしまった。でも、痛かったということは夢ではないということだ。よし、あとは実践するだけ。私は顔を近づけ、キスをする態勢に入った。そして私は――