「あの子の名前も、早希乃だった……」
過去の記憶が流れ終わる。確かに、名前は同じだったのだが、雰囲気と性格は似ても似つかない正反対のものだ。
だが、太樹には、早希乃とあの時の子が重なって見える。何度も目をこすって、何度も目を薄めたり、見る角度を変えてみたりしても二人の早希乃は重なって見えた。
「思い出した。早希乃さんがきっかけで、いじめられてたんだ」
太樹は、力なく立ち尽くしていた。
早希乃と太樹の出会いは幼稚園だった。早希乃は当時九州から引っ越してきた、転校生だった。内気で人見知りが激しかったために、あまり幼稚園に馴染めずひとりぼっちだった。
さらに、太樹の住んでいるのは九州とは縁遠い関東。視野の狭い幼稚園児には、変な奴にしか映らない。内気で大人しめで喋る言葉が違う。それが原因でいじめっ子達の格好の餌食になった。
いじめられる早希乃を見る度に太樹の心は痛んだ。太樹は内気で人見知りな人の気持ちも、同じ日本でも住んでいるところで言葉が違う人がいるということも知っていたからだ。
そしてある日、太樹は見て見ぬ振りに耐えきれず、勇気を出していじめっ子達に一人で立ち向かった。これが二人の繋がるきっかけになったのだった。その後、二人は少しずつ仲良くなって行くのだが、一年後の夏に早希乃は両親の仕事の関係で引っ越すことになり、太樹はひとりぼっちになった。
変な奴だった早希乃を守ったことで、太樹もいじめの対象になった。いじめは小学生になっても続いたが、教師に言い出せず、さらに太樹を担当した教師全員があまり熱心な先生ではなかったため、そういったいじめが表沙汰にならず、いじめはずっと放置され続いた。
いじめっ子達は幼い頃からそういったことをしてきたため、いじめてるという罪の意識はなく、なぜいじめ出したかという理由も薄れていき、それが日常へと変化してしまった。
「あの時、早希乃さんを助けなければ、僕の苦しみは家だけで済んでたのか……。不幸は一つだけで済んでいた。早希乃さんを助けなければ、僕がこんなにも苦しむ必要はなかったじゃないか」
行き場のない怒りに、わなわなと太樹の手が震え出す。再び視界に早希乃が入る。
「早希乃さんがいなければ、早希乃さんがいなければ、早希乃が……」
憎悪の感情が太樹の心を埋め尽くそうとする。そんなものを抱いたところで無駄だというのはわかっている。だが、抑えようとしても、抑えきれない。
(やばい、どうすりゃいいんだ。どうすりゃこれが収まるんだ。どうすりゃ)
その時だった。
「「太樹くん」」
耳の中、二人の早希乃の声が聞こえた。
「早希乃……」
目を凝らして早希乃を見ると、不思議なことに、さっきまで心を支配しようとしていた負の感情がすぅっと引き始め、むしろ甘い感情が湧き上がり、頬が紅潮し始めた。
「そうか、だから助けたのか」
太樹は思い出した。早希乃を助けたようとしたのは、ただ単にひとめぼれをした早希乃のを助けたかったということを。そして今、その気持ちが再び湧いてきたことに。
「なるほどね。わかったよ。あの時のままだったんだな」
太樹は軽く自分の頬を両手で叩くと、納得した表情でうんうんと頷いた。
「伝えなきゃな。僕の気持ちを」
過去の記憶が流れ終わる。確かに、名前は同じだったのだが、雰囲気と性格は似ても似つかない正反対のものだ。
だが、太樹には、早希乃とあの時の子が重なって見える。何度も目をこすって、何度も目を薄めたり、見る角度を変えてみたりしても二人の早希乃は重なって見えた。
「思い出した。早希乃さんがきっかけで、いじめられてたんだ」
太樹は、力なく立ち尽くしていた。
早希乃と太樹の出会いは幼稚園だった。早希乃は当時九州から引っ越してきた、転校生だった。内気で人見知りが激しかったために、あまり幼稚園に馴染めずひとりぼっちだった。
さらに、太樹の住んでいるのは九州とは縁遠い関東。視野の狭い幼稚園児には、変な奴にしか映らない。内気で大人しめで喋る言葉が違う。それが原因でいじめっ子達の格好の餌食になった。
いじめられる早希乃を見る度に太樹の心は痛んだ。太樹は内気で人見知りな人の気持ちも、同じ日本でも住んでいるところで言葉が違う人がいるということも知っていたからだ。
そしてある日、太樹は見て見ぬ振りに耐えきれず、勇気を出していじめっ子達に一人で立ち向かった。これが二人の繋がるきっかけになったのだった。その後、二人は少しずつ仲良くなって行くのだが、一年後の夏に早希乃は両親の仕事の関係で引っ越すことになり、太樹はひとりぼっちになった。
変な奴だった早希乃を守ったことで、太樹もいじめの対象になった。いじめは小学生になっても続いたが、教師に言い出せず、さらに太樹を担当した教師全員があまり熱心な先生ではなかったため、そういったいじめが表沙汰にならず、いじめはずっと放置され続いた。
いじめっ子達は幼い頃からそういったことをしてきたため、いじめてるという罪の意識はなく、なぜいじめ出したかという理由も薄れていき、それが日常へと変化してしまった。
「あの時、早希乃さんを助けなければ、僕の苦しみは家だけで済んでたのか……。不幸は一つだけで済んでいた。早希乃さんを助けなければ、僕がこんなにも苦しむ必要はなかったじゃないか」
行き場のない怒りに、わなわなと太樹の手が震え出す。再び視界に早希乃が入る。
「早希乃さんがいなければ、早希乃さんがいなければ、早希乃が……」
憎悪の感情が太樹の心を埋め尽くそうとする。そんなものを抱いたところで無駄だというのはわかっている。だが、抑えようとしても、抑えきれない。
(やばい、どうすりゃいいんだ。どうすりゃこれが収まるんだ。どうすりゃ)
その時だった。
「「太樹くん」」
耳の中、二人の早希乃の声が聞こえた。
「早希乃……」
目を凝らして早希乃を見ると、不思議なことに、さっきまで心を支配しようとしていた負の感情がすぅっと引き始め、むしろ甘い感情が湧き上がり、頬が紅潮し始めた。
「そうか、だから助けたのか」
太樹は思い出した。早希乃を助けたようとしたのは、ただ単にひとめぼれをした早希乃のを助けたかったということを。そして今、その気持ちが再び湧いてきたことに。
「なるほどね。わかったよ。あの時のままだったんだな」
太樹は軽く自分の頬を両手で叩くと、納得した表情でうんうんと頷いた。
「伝えなきゃな。僕の気持ちを」