ところどころ詰まりながらも、早希乃と会話をしながら家へと向かっていると、牧瀬川に架かる小さなコンクリート造りの桁橋の前に来た。牧瀬川は市内を流れる一級河川の綾戸川の支川だ。大きな川でないが、水質はよく流れも緩やかだ。
「この川、すごくきれい」
早希乃は何か面白いおもちゃを見つけた小さな子供のように、目を輝かせていた。
「ま、牧瀬川ね。水、綺麗だから、このへんの小学生は、よく水遊びしている」
いつもは、少し話せば落ち着いて言葉に詰まることは無くなるのだが、何故かまだ言葉に詰まっていた。
「だよね。私のいたところ川が汚くかったりして、川遊び出来なかったんだよね」
「けど、小学生三年生の頃までは誰も、ここで、水遊びしてなかった」
「え、なんで?」
早希乃は意外そうな顔をしていた。
「水は、綺麗だったけど、いろんな草が生えすぎていて、近寄れなかった」
「そういうことだったのね」
早希乃は太樹の答えを聞いて納得した。
太樹の言うように、昔の牧瀬川は、タンポポくらいの大きさのものから、大人の腰付近までのものなど、様々な大きさ草が隙間なく生えていた。
そのため、子供はおろか大人までも入ろうとしなかった。その状態を解消しようと、市が除草作業を始めたのが八年前の冬で、翌年の夏から、小学生達が川遊びの場として使い始めたのだ。
「だから私が気づかなかったのか」
早希乃は小声で呟いた。
「さ、早希乃さん? 何か、言いました?」
「いや、なんでもないよ。それより、先に進もう」
「あ、はい。この川が流れているってことは、もうそろそろ家につくはずで……――っ⁈」
また、鋭い頭痛とともに脳内に小さい頃の思い出が流れてきた。
少し陽が沈み始めた頃だった。
「ない………」
普段人の入ることのない牧瀬川の繁みから出て堤防の階段に座り、女の子は涙声言った。探しているのは持ち歩くほど気に入っている、ピンク色の小さなキーホルダーだった。
「みつからんかったら、どげんしよう」
見つからない不安で胸がいっぱいになり、女の子はとうとう泣き出してしまった。
「あ、さいきん引っこししてきた子だ。どうしたんだろう」
たまたま近くを通っていた太樹は、何をしているのか気になり、その子は元へ走っていった。
その子の近くに寄ると、太樹はその子が泣いていることに気づいた。
「えっと、さいきん引っこしてきた子だよね?こんなところでないてどうしたの?」
「みつからん……」
「なにが?」
「キーホルダー。小学生のおにいちゃんたちから投げられて、のうなった。ママからかってもろうたのに。みつからんかったら……」
その子は大声で泣き出し始めた。
「わかった。じゃあ、ぼくもいっしょにさがすよ」
「えっ、でも」
「たいせつなんでしょ? だったらみつけようよ!」
「うん!」
「じゃあ、そのキーホルダーの大きさとかいろとかおしえて」
太樹はその子と一緒に、キーホルダーを探し始めた。
「みつからないね」
太樹は額の汗を拭った
太樹とその子が探し始めてから大分時間がたった。空は夕暮れ色に変わり、太陽は地平線の向こうへと沈みかけていた。
「もう、いいよ」
その子は俯きながら言った。
「え、まだみつかってないよ。どうして?」
「これだけさがしてもみつからんけんからむりばい。これいじょうたいきくんに迷惑かけられけん。うちがおこられればそいで」
「よくないよ」
太樹は大声で怒鳴った。
「ちゃんとみつけなきゃ。なにもわるいことしてないのにおこられるなんてダメだよ。だから、さがさなきゃ」
その子は太樹を止めようと肩に手を掛けたが、その手を振り払い進んだ。
「それに、あきらめなかったら……こうやってみつかるかもしれないし」
太樹はキーホルダーを手に取ると、にこっと笑顔を見せ、その子にそっと投げた。
「あ、ありがとう」
恥ずかしそうに、太樹にお礼をした。
「どういたしまして。こまったらまた、てつだうよ」
太樹はグッドサインを見せた。
「太樹くーん。大丈夫?」
頭を抱えて動かない太樹の肩を、早希乃はポンポンと叩いていた。
「う、うん。大丈夫大丈夫」
太樹は頭を起こし、深呼吸をした。
「太樹くん片頭痛かなんか?」
「いや。最近、寝不足気味だったから、多分それ……?!」
太樹は早希乃のバッグを見て驚いた。左側につけられているキーホルダーが、思い出に出てきたキーホルダーと瓜二つだったからだ。
「早希乃さんの、バッグについてる、ピンクのキーホルダー。かなり古そうだけど、いつ買ったの?」
「えっと五歳くらいの頃かな。ママに買ってもらったんだよね。気に入ってるから今も使っているんだ」
「それくらい、気に入ってるんだ」
(あれ?もしかして……まさかね)
太樹はその子と早希乃が同一人物ではないかと考えたが、すぐさま否定した。
(あの子は早希乃さんと違って大人しめの子だったし)
「じゃあ、行きましょうか」
太樹達は再び自宅へ向けて歩きだした。
「この川、すごくきれい」
早希乃は何か面白いおもちゃを見つけた小さな子供のように、目を輝かせていた。
「ま、牧瀬川ね。水、綺麗だから、このへんの小学生は、よく水遊びしている」
いつもは、少し話せば落ち着いて言葉に詰まることは無くなるのだが、何故かまだ言葉に詰まっていた。
「だよね。私のいたところ川が汚くかったりして、川遊び出来なかったんだよね」
「けど、小学生三年生の頃までは誰も、ここで、水遊びしてなかった」
「え、なんで?」
早希乃は意外そうな顔をしていた。
「水は、綺麗だったけど、いろんな草が生えすぎていて、近寄れなかった」
「そういうことだったのね」
早希乃は太樹の答えを聞いて納得した。
太樹の言うように、昔の牧瀬川は、タンポポくらいの大きさのものから、大人の腰付近までのものなど、様々な大きさ草が隙間なく生えていた。
そのため、子供はおろか大人までも入ろうとしなかった。その状態を解消しようと、市が除草作業を始めたのが八年前の冬で、翌年の夏から、小学生達が川遊びの場として使い始めたのだ。
「だから私が気づかなかったのか」
早希乃は小声で呟いた。
「さ、早希乃さん? 何か、言いました?」
「いや、なんでもないよ。それより、先に進もう」
「あ、はい。この川が流れているってことは、もうそろそろ家につくはずで……――っ⁈」
また、鋭い頭痛とともに脳内に小さい頃の思い出が流れてきた。
少し陽が沈み始めた頃だった。
「ない………」
普段人の入ることのない牧瀬川の繁みから出て堤防の階段に座り、女の子は涙声言った。探しているのは持ち歩くほど気に入っている、ピンク色の小さなキーホルダーだった。
「みつからんかったら、どげんしよう」
見つからない不安で胸がいっぱいになり、女の子はとうとう泣き出してしまった。
「あ、さいきん引っこししてきた子だ。どうしたんだろう」
たまたま近くを通っていた太樹は、何をしているのか気になり、その子は元へ走っていった。
その子の近くに寄ると、太樹はその子が泣いていることに気づいた。
「えっと、さいきん引っこしてきた子だよね?こんなところでないてどうしたの?」
「みつからん……」
「なにが?」
「キーホルダー。小学生のおにいちゃんたちから投げられて、のうなった。ママからかってもろうたのに。みつからんかったら……」
その子は大声で泣き出し始めた。
「わかった。じゃあ、ぼくもいっしょにさがすよ」
「えっ、でも」
「たいせつなんでしょ? だったらみつけようよ!」
「うん!」
「じゃあ、そのキーホルダーの大きさとかいろとかおしえて」
太樹はその子と一緒に、キーホルダーを探し始めた。
「みつからないね」
太樹は額の汗を拭った
太樹とその子が探し始めてから大分時間がたった。空は夕暮れ色に変わり、太陽は地平線の向こうへと沈みかけていた。
「もう、いいよ」
その子は俯きながら言った。
「え、まだみつかってないよ。どうして?」
「これだけさがしてもみつからんけんからむりばい。これいじょうたいきくんに迷惑かけられけん。うちがおこられればそいで」
「よくないよ」
太樹は大声で怒鳴った。
「ちゃんとみつけなきゃ。なにもわるいことしてないのにおこられるなんてダメだよ。だから、さがさなきゃ」
その子は太樹を止めようと肩に手を掛けたが、その手を振り払い進んだ。
「それに、あきらめなかったら……こうやってみつかるかもしれないし」
太樹はキーホルダーを手に取ると、にこっと笑顔を見せ、その子にそっと投げた。
「あ、ありがとう」
恥ずかしそうに、太樹にお礼をした。
「どういたしまして。こまったらまた、てつだうよ」
太樹はグッドサインを見せた。
「太樹くーん。大丈夫?」
頭を抱えて動かない太樹の肩を、早希乃はポンポンと叩いていた。
「う、うん。大丈夫大丈夫」
太樹は頭を起こし、深呼吸をした。
「太樹くん片頭痛かなんか?」
「いや。最近、寝不足気味だったから、多分それ……?!」
太樹は早希乃のバッグを見て驚いた。左側につけられているキーホルダーが、思い出に出てきたキーホルダーと瓜二つだったからだ。
「早希乃さんの、バッグについてる、ピンクのキーホルダー。かなり古そうだけど、いつ買ったの?」
「えっと五歳くらいの頃かな。ママに買ってもらったんだよね。気に入ってるから今も使っているんだ」
「それくらい、気に入ってるんだ」
(あれ?もしかして……まさかね)
太樹はその子と早希乃が同一人物ではないかと考えたが、すぐさま否定した。
(あの子は早希乃さんと違って大人しめの子だったし)
「じゃあ、行きましょうか」
太樹達は再び自宅へ向けて歩きだした。