商店街の建物に囲まれる路地裏。太陽の眩い光が照らす蒸し暑い商店街の大通りと比べ、建物の影でかなり暗いが、快適と言えるほど涼しい。そこには、太樹を路地裏へと引き摺り込んだかわいい系の顔をした背の高い――太樹よりも数段高い――緑髪の少女と正面に対峙して話していた。
「ごめーん。いきなり引っ張っちゃってー」
少女は悪びれた様子を見せながらも、肩口まで伸びた髪を右手で整え、馴れ馴れしい態度と笑顔で謝った。一方の太樹は、いきなり引っ張られたためこけてしまい、擦りむいた肘から出血している。
「い、いや。それはいいんだけど、なんで僕を引きずった?」
初対面ではあるが聞き覚えのある声に疑問を感じていたが、それを聞いたら変人扱いされるかもしれないと思い、引っ張った理由の方を聞いてみた。
「運命の人だったから」
「う、運命の人ぉ?!」
あまりにもぶっ飛んだ答えに、思わず太樹は聞き返す。出会ったことがないような人に、初対面で言われればそうなるのは当然のことだ。
「そう、運命の人。私とあなたは結ばれる。そういう気がしたの。なんとなくだけど」
「な、なんとなくって……君ねえ…」
当たり前だが、思いつきのような理由に、太樹が納得するはずがない。納得するどころか、逆に謎が深まった。
「と、とにかく。あなたは運命の人なの! だから、今日は私に付き合ってもらうの!!」
「う、うん」
訳がわからないが、特別予定があったわけではなく、このまま家に帰っても暇であり、そして、こう答えないと拉致をされる気がしたのでとりあえず、少女の提案のようなものに賛同することにした。
「あ、名前を名乗ってなかったわ。私は那珂早希乃。よろしくね」
「早希乃さんね。よろしく。あ、僕は――」
「知ってる。三宅太樹くん、でしょ?」
自分の名前を言い当てられ、太樹は恐怖のようなものを感じた。
「なんで、僕の名前を?」
「私の頭に急に出てきた名前を言っただけなんだけど?」
早希乃のいったことが俄かには信じがたいが、現に当たっているため、そういうことだと信じることにした。
「でさあ、早速だけど二人きりで遊びたいから、太樹くんの家に連れてってくれる?」
早希乃は、足下に置いていた大型の黄色いバックからペットボトルを取り出して、ゴクゴクと清涼飲料水を飲みだした。
「今なんって?」
太樹は思わず聞き返す。
「だから、二人きりで遊びたいから太樹くんの家に連れていって言ったんだけど」
飲み終えた早希乃は、笑みを浮かべて言った。
一方で、太樹は動揺を隠せない。それもそのはず。太樹は生まれてこの方人と遊んだことや他人を自分の家に入れたことが無かった。それだけでも重大なことなのに、その相手が女の子だ。異性と二人きりというシュチュエーションは、太樹でなくてもドキドキするものだ。
「う、うん。きてゅぇ、き、来てもいいんだけど、うちは何もないよ」
案の定、台詞を噛んだ。太樹は恥ずかしさのあまり、顔をトマトのように真っ赤に染め下を向いた。そんな太樹を見て、早希乃はクスッと笑い出した。
「いいのよ、モノなんて。そんなことより」
早希乃は、太樹の両手をそっと優しく包み込み、少し屈んで、下を向いた太樹の顔を上目遣いで覗く。
「太樹くんと、二人きりで居られれば、それでいいの」
太樹は見つめられてさらにドギマギし、体温が高温サウナのように熱くなる。
「わ、わかった。い、行こう。僕の家に」
「ありがとう! 太樹くん。大好きだよ!」
早希乃がとびっきりの笑顔を見せた刹那、顔をゆがめてしまうような頭痛とともに、幼少期の記憶が太樹の脳内を駆け巡りだした。
「だいじょうぶ?」
幼い頃の太樹は、蹲って泣いている女の子に、優しく声をかけた。女の子はまだ泣いていて、答えられそうにない。
「もうあいつらどっか行ったから、大じょうぶだよ。なかなくていいんだよ」
身体中にできた青痣と切り傷の痛みに耐えながら、太樹は背中を優しくさすってあげると、少し落ち着いたのか、女の子は立ち上がって、太樹の方を向いて答えた。
「だって、たいきくんがずっとなぐられよるのがいややった………」
言葉に詰まり、女の子はまた泣き出した。それを見かねた太樹は、グッと女の子を引き寄せた。
「だいじょうぶだから。ぼくはなぐられてもへいきだから」
「ほんとなと?」
「うん。だいじょうぶ」
元気いっぱいに答える太樹を見て、女の子もようやく落ち着いて泣き止んだ。
「よかったー。けど、たいきくん。うちのなまえばおぼえとらんやろ?」
その子の言ったことは当たっていた。今まで友達がいなかったため、人の名前を覚えなくてもよかった。だから、生まれて初めてできた友達である女の子の名前を覚えることがなかなかできなかった。
「やっぱり………」
女の子が不機嫌そうに顔を膨らませた。太樹はそれを見て、ショボンとした。
「ごめん…。ちゃんとおぼえる」
「わかった。もういっかいゆうけど、うちのなまえは――」
(なんで、今になってこの記憶が?あの女の子と早希乃さんになんの繋がりが?)
「太樹くーん?」
早希乃が心配そうな表情を浮かべながら、太樹の名前を呼ぶ。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたら……」
「考え事?」
「えーっと、冷蔵庫の残り。冷蔵庫に何があったかなって」
太樹は考えてた事をぼかして言った。
(まあ、繋がりがあるかどうかは後でまた考え直そう。あと、会ったことないはずなのに、会ったことある気がする。それにいつも以上に胸がどぎまぎする。どうしてなんだ)
太樹は不思議な感覚に襲われているようだった。
「ごめーん。いきなり引っ張っちゃってー」
少女は悪びれた様子を見せながらも、肩口まで伸びた髪を右手で整え、馴れ馴れしい態度と笑顔で謝った。一方の太樹は、いきなり引っ張られたためこけてしまい、擦りむいた肘から出血している。
「い、いや。それはいいんだけど、なんで僕を引きずった?」
初対面ではあるが聞き覚えのある声に疑問を感じていたが、それを聞いたら変人扱いされるかもしれないと思い、引っ張った理由の方を聞いてみた。
「運命の人だったから」
「う、運命の人ぉ?!」
あまりにもぶっ飛んだ答えに、思わず太樹は聞き返す。出会ったことがないような人に、初対面で言われればそうなるのは当然のことだ。
「そう、運命の人。私とあなたは結ばれる。そういう気がしたの。なんとなくだけど」
「な、なんとなくって……君ねえ…」
当たり前だが、思いつきのような理由に、太樹が納得するはずがない。納得するどころか、逆に謎が深まった。
「と、とにかく。あなたは運命の人なの! だから、今日は私に付き合ってもらうの!!」
「う、うん」
訳がわからないが、特別予定があったわけではなく、このまま家に帰っても暇であり、そして、こう答えないと拉致をされる気がしたのでとりあえず、少女の提案のようなものに賛同することにした。
「あ、名前を名乗ってなかったわ。私は那珂早希乃。よろしくね」
「早希乃さんね。よろしく。あ、僕は――」
「知ってる。三宅太樹くん、でしょ?」
自分の名前を言い当てられ、太樹は恐怖のようなものを感じた。
「なんで、僕の名前を?」
「私の頭に急に出てきた名前を言っただけなんだけど?」
早希乃のいったことが俄かには信じがたいが、現に当たっているため、そういうことだと信じることにした。
「でさあ、早速だけど二人きりで遊びたいから、太樹くんの家に連れてってくれる?」
早希乃は、足下に置いていた大型の黄色いバックからペットボトルを取り出して、ゴクゴクと清涼飲料水を飲みだした。
「今なんって?」
太樹は思わず聞き返す。
「だから、二人きりで遊びたいから太樹くんの家に連れていって言ったんだけど」
飲み終えた早希乃は、笑みを浮かべて言った。
一方で、太樹は動揺を隠せない。それもそのはず。太樹は生まれてこの方人と遊んだことや他人を自分の家に入れたことが無かった。それだけでも重大なことなのに、その相手が女の子だ。異性と二人きりというシュチュエーションは、太樹でなくてもドキドキするものだ。
「う、うん。きてゅぇ、き、来てもいいんだけど、うちは何もないよ」
案の定、台詞を噛んだ。太樹は恥ずかしさのあまり、顔をトマトのように真っ赤に染め下を向いた。そんな太樹を見て、早希乃はクスッと笑い出した。
「いいのよ、モノなんて。そんなことより」
早希乃は、太樹の両手をそっと優しく包み込み、少し屈んで、下を向いた太樹の顔を上目遣いで覗く。
「太樹くんと、二人きりで居られれば、それでいいの」
太樹は見つめられてさらにドギマギし、体温が高温サウナのように熱くなる。
「わ、わかった。い、行こう。僕の家に」
「ありがとう! 太樹くん。大好きだよ!」
早希乃がとびっきりの笑顔を見せた刹那、顔をゆがめてしまうような頭痛とともに、幼少期の記憶が太樹の脳内を駆け巡りだした。
「だいじょうぶ?」
幼い頃の太樹は、蹲って泣いている女の子に、優しく声をかけた。女の子はまだ泣いていて、答えられそうにない。
「もうあいつらどっか行ったから、大じょうぶだよ。なかなくていいんだよ」
身体中にできた青痣と切り傷の痛みに耐えながら、太樹は背中を優しくさすってあげると、少し落ち着いたのか、女の子は立ち上がって、太樹の方を向いて答えた。
「だって、たいきくんがずっとなぐられよるのがいややった………」
言葉に詰まり、女の子はまた泣き出した。それを見かねた太樹は、グッと女の子を引き寄せた。
「だいじょうぶだから。ぼくはなぐられてもへいきだから」
「ほんとなと?」
「うん。だいじょうぶ」
元気いっぱいに答える太樹を見て、女の子もようやく落ち着いて泣き止んだ。
「よかったー。けど、たいきくん。うちのなまえばおぼえとらんやろ?」
その子の言ったことは当たっていた。今まで友達がいなかったため、人の名前を覚えなくてもよかった。だから、生まれて初めてできた友達である女の子の名前を覚えることがなかなかできなかった。
「やっぱり………」
女の子が不機嫌そうに顔を膨らませた。太樹はそれを見て、ショボンとした。
「ごめん…。ちゃんとおぼえる」
「わかった。もういっかいゆうけど、うちのなまえは――」
(なんで、今になってこの記憶が?あの女の子と早希乃さんになんの繋がりが?)
「太樹くーん?」
早希乃が心配そうな表情を浮かべながら、太樹の名前を呼ぶ。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事してたら……」
「考え事?」
「えーっと、冷蔵庫の残り。冷蔵庫に何があったかなって」
太樹は考えてた事をぼかして言った。
(まあ、繋がりがあるかどうかは後でまた考え直そう。あと、会ったことないはずなのに、会ったことある気がする。それにいつも以上に胸がどぎまぎする。どうしてなんだ)
太樹は不思議な感覚に襲われているようだった。