「ジリリリリリリリィ!!」

 忙しく目覚まし時計が鳴り響く。起き上がりながら、太樹は迷惑そうな顔で目覚まし時計を止めた。

「あれ?」

 ここで、一つの異変に気付いた。時計のディスプレイは九月一日の午前六時十八分を示していたのだ。

「はあっ⁈ そんなわけ」

 太樹は慌ててスマホの電源を入れ、日付を確認し始める。スマホの電源が入ると液晶は時計のディスプレイと同じ日付を表示していた。

「違う。九月二日のはずだ。違う。違うはずだ」

 認めたくなくて、何度も何度も日付を確認した。しかし、日付は九月一日だ。太樹の体からは力が抜け落ち、手に持っていたスマホを布団の上に落とした。

「はははっ。そうかっ。夢だよな。あんなに上手くいくなんて、夢に決まってる。そうに違いない」

 大樹はぶつぶつ言いながら、おぼつかない足取りで洗面台へと向かう。

「だよねぇ。あんな心優しい女の子なんているわけないんだよ。バカだよなー、僕は。夢だって気づいてりゃ、こんなに必死に日付確認しなくても、悲しくならなくてもよかったのにさあ」

 ぽつーん、ぽつーん、と太樹の目から涙が零れ、洗面台に落ちていった。

「……嘘だ。今見ているのは全部嘘なんだ。今さっきまで見てたのがほんとのはずなんだ。なあ、そうなんだろ。頼むから……希望をくれよ。ねえ、ねえ………」

 大樹は泣き崩れ、洗面台の前に座り込んで泣き続けた。




 午前八時過ぎ。校舎内。夏休みも終わり二学期が始まるといこともあり、多くの生徒が学校に登校していた。大樹や、いじめるクラスメイトもそうだ。

「お、あれは太樹じゃねーか。ニッシシ!」

 いじめっ子の一人が大樹を教室で見つけると、何かちょっかいをかけてやろうと思い近づいた。だが、太樹の顔を見るなりすぐさま引き返してきた。

「おい、どうしたんだよ? あいつにびびってんの?」

 その光景を見ていた男子生徒の一人が引き返してきたいじめっ子に言った。

「んなわけねーだろ。それよりあいつの顔を見ろよ」

 その男が指を太樹の方を差す。それを見た男子生徒は驚愕した。

「な、なんちゅう顔してんだあいつ」

「まるで世界の終わりみたいな顔してるぞ」

「だろ?流石にあんなやつ弄ってもおもしろくねーだろ? だからやめてやったんだよ」

「お、やっさしいねえ!」

「男気だなあ」

 男子生徒たちの周りは太樹とは正反対に、賑やかになっていた。




 朝のホームルーム前。太樹はため息を吐きながら、この世界に絶望したかのような顔をして座っていた。

(はあ、もうどうでもいいや。どうなってもいいや。それよりとっとと終わんないかな)

 そう思っているとき、担任の光山が急いで教室に入ってきた。

「時間にはなってないけど一旦席に着け」

 光山がそういうと、談笑していた生徒たちは渋々席に着いた。

「今日から、うちのクラスに転校生が来ることになりました」

 光山の一言にクラスメイトがどよめく。

「先生! そいつは男っすか? 女っすか?」

「女の子だ。しかも、けっこうかわいい子だぞ」

 その声に太樹以外の男子生徒たちのテンションが上がる。太樹はそんなことお構いなしに机にうなだれていた。

「じゃあ入ってこい」

 ゆっくりと扉が開く。光山の言っていたように、転校生は可愛い女の子だった。

「うおおおおおっ!! やっべえ!」

「超かわいい!!」

 男子生徒たちのテンションはもはや限界点を突破している。そんなに騒ぐことはないだろう、と太樹は顔を上げその転校生の顔を見る。

「え、これって……」

 あまりの衝撃に太樹は夢ではないのかと疑った。試しに頬を思いっきり捻ってみたが、凄く痛かった。

「夢じゃ、ない!」

 太樹の顔に活力が再び湧いてきた。

「おーい! お前らかわいいのはわかるけどやかましいぞ。自己紹介してもらうからちょっと黙れや」

 猿のように騒ぎ立てていた男子生徒を光山が黙らせ、教室は一気に静かになる。

「じゃあ、自己紹介してもらおうか」

 緑髪の背の高い女の子は教室を見まわし、太樹の方を見るなり微笑む。そして、正面を向いて自己紹介を始めた。

「二年一組に転向してきました、那珂早希乃です。よろしくお願いします」