まだ珠菜と光希が会って間もない頃
「姫、今日は一段と空が綺麗ですね」
名も知らない少年が珠菜に話しかけた。
どうやら、呼び方は『姫』になったらしい。
「ほんとですね」
少年の呼び方が分からない珠菜は会話に戸惑っていた。
(名前が分からないと話しかけずらい)
「なんという名前なんですか?」
「僕に名前はないよ」
(あなたに出会って、真っ暗な私の世界は光輝いた)
「『光希』はどうでしょうか。あ、すみません、私が勝手に......」
少年は一瞬驚いていた様だが、満面の笑みを浮かべた。
「『みつき』が僕の名前......。ものすごく嬉しいよ。どんな風に書くの?」
珠菜は地面に『光』と『希』を枝で書いた。
「『光』と希望の『希』です」
「これが僕の漢字か。今まで生きてきた中で一番嬉しい贈り物だよ。ずっと大切にするね」
「そんな、大袈裟な」
「大袈裟なんかじゃないよ。ほんっとうに嬉しいんだから」
そう言って、抱きついてきた光希の温もりは、朝起きても忘れられなかった。