ー珠菜(しゅな)がまだ幼かった頃ー


  「初めまして、珠菜様。(あや)と申します」


  珠菜と同じくらいの年頃の女の子が丁寧に頭を下げた。


 「珠菜と申します、綾様」


  珠菜も布団から出て挨拶をした。


  「二人は同い年だから、気が合いそうね」

  「そうですね、菊の方様。このお金で城下町で遊んでおいで」


  菊と綾の母の春は、お小遣いを渡して出て行った。

 二人きりになると


  「城下町に行きましょうか。城下町には素敵なお店が数多くあるので紹介しますね」

  「本当ですか?!楽しみです」


  二人は城を出て、城下町に行くと
 

 「珠菜姫様だ」

  「今日はお元気そうな様子だよ」

  「お店、来てくれるかな」


  綾は、城下町の人が珠菜のことを言っているのに驚いた。


  「珠菜様は慕われていますね。珠菜様を話す皆さんの顔が嬉しそうです」

  「父上と母上がよく私のことを領民に伝えているんですよ。とんだ親馬鹿です」

  「いいじゃないですか。それに、珠菜様、少し嬉しそうですね」


  珠菜は、羞恥心でいっぱいになったことをを隠して


  「こ、ここが私のお気に入りのお店です。可愛い髪飾りや櫛が売っている雑貨屋さんです」

  「ほんとですね、この簪きれいです〜」

 「その簪。色違いがありますね。お揃いで買いませんか」

 「そうですね。今日、一緒に遊んだ仲として」


 珠菜と綾は色違いの簪を買った後、屋台で食べたり、お店に行ったりしていつの間にか日が傾き始めていた。


 「もう夕方ですね」

 「そうですね。あの、綾様。最後にどうしても行きたいところがあるんですけど、行ってもいいですか?」
 「もちろん」


 珠菜が綾を連れてきた場所は、城下町から離れた小高い丘だった。


 「この場所からは、城下町や城、何よりも夕日がよく見えるんですよ」


 二人は日が沈むまで黙っていた。


 「珠菜様、今日はありがとうございました。また、いつか、この場所で会いませんか?」

 「もちろんですよ。いつか、必ず」


 辺りは暗くなっていき視認できなくなってきたが、二人はお互いの姿を瞳に映らせていた。