この世界は死ぬほど気まぐれ。
写真部の活動の一環として初めて応募したコンテストで、一年の僕、松乃 怜瀬が入賞してしまうくらいに。ここはあと数えるほどしか出品できない三年生の先輩や、三年生へ継ぐ意思を込めて二年生の先輩が入賞するべきだろう。なぜ僕が入賞してしまったんだ。嬉しいことなのに、暗い顔と祝福の顔の複雑な表情の先輩の前では心から喜ぶことはできない。
「怜瀬すごいな、今回のコンテスト厳しめの評価だって噂になってたのにそんなコンテストで入賞するなんて。」
顧問の松下先生。ノリが良い男の先生で多くの生徒からの人気を集めている。でも先生、今それ言ったらまずいです。
「本当だよ、これなら心配なく引退できるな。」
三年生の立花先輩。もう神様ですか。この空気の気まずさと顧問の失言で胸が張り裂けそうでした。立花先輩の言葉に他の先輩も祝福の言葉を贈ってくれてなんとか胸は張り裂けなかった。
僕はクラスの中でも一軍などに入るような存在ではなく、読書とカメラが趣味の至って普通の男子高校生だ。だからなおさらコンテストでの入賞は大きなニュースだった。
「松乃くん、コンテストで入賞したんだってね、すごい」
部活動がオフの時、部室で部活動新聞のバックナンバーを眺めていたら急に声を掛けられた。名前は確か、早乙女 桜子。多くの友だちがいる同級生で、僕とは住む世界が違う彼女。そんな彼女が、こんな僕に何の用だろう。
「ありがとうございます、それで、写真部の部室に何か用ですか。」
「松乃くんに、お願いがあってきました。」
「…はい。」
「もうすぐ、学校の近くの河川敷で花火大会があると思うんです。そこの写真を撮って、私にくれませんか。」
部活のみんなでも花火大会の撮影は活動計画に載せていた。そこから印刷すれば良いだけだから問題はない。
「特に問題は無いんですが、どうしてそんなこと…」
「花火、見てみたいんです。」
これ以上、聞けない空気だった。だから僕は分かりました、とだけ伝えた。
「ありがとうございます!ちなみにデータで送るのって難しいんですか。」
「難しくはないです。実際、スマホでの撮影を試みた場合もありますし。」
「連絡先…交換してもらえませんか。」
別に断る理由も無いし、そんなに写真に興味があるのなら僕も嬉しいと感じて彼女と連絡先を交換した。
「名前名乗ってなくてすいません。早乙女桜子です。松乃…怜瀬くんだよね、私写真にすごく興味があるんです。特に夜の写真。よろしくお願いします。」
「松乃怜瀬です。そんなに興味を持ってくれて僕も嬉しいです。もう夏で仮入部は積極的に行っていない部活動も多いと思いますが、写真部ならきっと先輩も歓迎してくれると思うので、良ければ…」
「嬉しいです。明日活動あると聞きました!すこし覗かせてもらうかもしれないです」
写真部の部員が、一人増えるかもしれない。
「早乙女桜子です。花火大会に向けて活動が忙しい中、仮入部させてもらってしまってすいません。ありがとうございます。」
「部長の立花です。早乙女さん、写真部は部員が少ないから大歓迎です、もうすぐ僕達三年は引退ですが、よろしくお願いします」
結局早乙女さんは次の日の部活にやってきた。部員が少ないのは確かなのでカメラのセッティングなど、手伝ってもらえる場面も多いかもしれない。
「では、来週の花火大会に向けての調整に入ってください。早乙女さんは一年生が松乃しかいないからそこに入ってください」
「分かりました!」
「松乃くん、昨日はありがとうございました、本入部も考えちゃうくらい楽しいです」
「良かったです。良ければ花火大会の撮影一緒に行いませんか。学年ごとっていう話なので僕は一人なんです。」
まぐれでコンテストで入賞した僕が、花火大会の撮影を一人で行うのは少し心細かった。カメラに触ったことは少ないそうだが一人よりも作業がはかどるだろう。
「えっと…。ごめんなさい、花火大会の日には用事があって…」
「あ、じゃあ仕方ないです。また手伝えそうな日部活動ぜひ来てください」
「…はい!」
彼女はどこか、引きつった笑顔だった。僕の気のせいかもしれないけど。
写真部の活動の一環として初めて応募したコンテストで、一年の僕、松乃 怜瀬が入賞してしまうくらいに。ここはあと数えるほどしか出品できない三年生の先輩や、三年生へ継ぐ意思を込めて二年生の先輩が入賞するべきだろう。なぜ僕が入賞してしまったんだ。嬉しいことなのに、暗い顔と祝福の顔の複雑な表情の先輩の前では心から喜ぶことはできない。
「怜瀬すごいな、今回のコンテスト厳しめの評価だって噂になってたのにそんなコンテストで入賞するなんて。」
顧問の松下先生。ノリが良い男の先生で多くの生徒からの人気を集めている。でも先生、今それ言ったらまずいです。
「本当だよ、これなら心配なく引退できるな。」
三年生の立花先輩。もう神様ですか。この空気の気まずさと顧問の失言で胸が張り裂けそうでした。立花先輩の言葉に他の先輩も祝福の言葉を贈ってくれてなんとか胸は張り裂けなかった。
僕はクラスの中でも一軍などに入るような存在ではなく、読書とカメラが趣味の至って普通の男子高校生だ。だからなおさらコンテストでの入賞は大きなニュースだった。
「松乃くん、コンテストで入賞したんだってね、すごい」
部活動がオフの時、部室で部活動新聞のバックナンバーを眺めていたら急に声を掛けられた。名前は確か、早乙女 桜子。多くの友だちがいる同級生で、僕とは住む世界が違う彼女。そんな彼女が、こんな僕に何の用だろう。
「ありがとうございます、それで、写真部の部室に何か用ですか。」
「松乃くんに、お願いがあってきました。」
「…はい。」
「もうすぐ、学校の近くの河川敷で花火大会があると思うんです。そこの写真を撮って、私にくれませんか。」
部活のみんなでも花火大会の撮影は活動計画に載せていた。そこから印刷すれば良いだけだから問題はない。
「特に問題は無いんですが、どうしてそんなこと…」
「花火、見てみたいんです。」
これ以上、聞けない空気だった。だから僕は分かりました、とだけ伝えた。
「ありがとうございます!ちなみにデータで送るのって難しいんですか。」
「難しくはないです。実際、スマホでの撮影を試みた場合もありますし。」
「連絡先…交換してもらえませんか。」
別に断る理由も無いし、そんなに写真に興味があるのなら僕も嬉しいと感じて彼女と連絡先を交換した。
「名前名乗ってなくてすいません。早乙女桜子です。松乃…怜瀬くんだよね、私写真にすごく興味があるんです。特に夜の写真。よろしくお願いします。」
「松乃怜瀬です。そんなに興味を持ってくれて僕も嬉しいです。もう夏で仮入部は積極的に行っていない部活動も多いと思いますが、写真部ならきっと先輩も歓迎してくれると思うので、良ければ…」
「嬉しいです。明日活動あると聞きました!すこし覗かせてもらうかもしれないです」
写真部の部員が、一人増えるかもしれない。
「早乙女桜子です。花火大会に向けて活動が忙しい中、仮入部させてもらってしまってすいません。ありがとうございます。」
「部長の立花です。早乙女さん、写真部は部員が少ないから大歓迎です、もうすぐ僕達三年は引退ですが、よろしくお願いします」
結局早乙女さんは次の日の部活にやってきた。部員が少ないのは確かなのでカメラのセッティングなど、手伝ってもらえる場面も多いかもしれない。
「では、来週の花火大会に向けての調整に入ってください。早乙女さんは一年生が松乃しかいないからそこに入ってください」
「分かりました!」
「松乃くん、昨日はありがとうございました、本入部も考えちゃうくらい楽しいです」
「良かったです。良ければ花火大会の撮影一緒に行いませんか。学年ごとっていう話なので僕は一人なんです。」
まぐれでコンテストで入賞した僕が、花火大会の撮影を一人で行うのは少し心細かった。カメラに触ったことは少ないそうだが一人よりも作業がはかどるだろう。
「えっと…。ごめんなさい、花火大会の日には用事があって…」
「あ、じゃあ仕方ないです。また手伝えそうな日部活動ぜひ来てください」
「…はい!」
彼女はどこか、引きつった笑顔だった。僕の気のせいかもしれないけど。