歩道側を歩きながら、わたしはいろんな話をする。
無理やり、この気まずい空気をどうにかしようと。

想像していた高校生活と違った、とか。
先輩がご近所さんって知りませんでした、とか。

話し下手なわたしに、黒山先輩は嫌な顔ひとつせずつきあったくれた。


だけど、話しながら、どうしても頭の中にちらついてしまうのは、やっぱり相原先輩のこと。


――告白なんてしなかったら、こんな思いはしなかったのに。

――告白なんてしなかったら、またあしたもあの背中を見れたのに。




「……こんなこと言って良いのかわかんねーけどさ」

黒山先輩が前を向いたまま言った。横顔からでも、真剣な顔をしているのが分かった。

「春川ちゃん、二年も相原のこと好きだったんだろ? やめんの? もう好きじゃなくなった?」

好きです。ずっと好きだったんです。わたしの世界みたいなもんなんです。
言えず、のみこみ、うつむく。


「相原が覚えてなくとも、俺は知ってた。いつもいるなーとか、相原のこと見てんなー、とか」


黒山先輩は、そのあとわたしに問った。
そのときの顔は困っているようにも、あきれているようにも見えた。


「春川ちゃんは、どうしたいわけ」

「……黒山先輩は、お人好しですね」


ずるいわたしは、話をそらした。


だけど、お人好しと思っているのはほんとうだった。

だって、ほとんどはじめましてのようなわたしなんかに、こんなに真剣に向き合ってくれる。


だけどなぜか、黒山先輩はそれを否定した。

「俺が春川ちゃんと話してんのは、相原のためだよ。だから優しくないし、お人好しでもない」

「……相原先輩のため?」

どういうことかわからず、思わずオウム返し。なんでここで相原先輩が出てくるんだ。

ふられたわたしが自殺でもしたらどうしようとか、そういう心配だろうか。だとしたら考えすぎだ。


「や、ごめん、やっぱ今のなんでもない。ぜんぶ春川ちゃんのためで、俺はお人好しで優しい」

「よくわからないですけど、自分で言わないでください」

いいじゃん別に、と黒山先輩が口をとがらす。まあ、優しいとか言い出したのはわたしだけれども。


「……わたしにとっては、すぐに忘れられるような軽い恋じゃないんです。だからまだ、相原先輩のこと、あきらめられない。好きです」


先輩は前を向いたままだった。

わたしは続ける。


「だけど、わたしはもうふられたんです。だからおしまいにするべきです。それに、もし付き合えたとしても、わたしじゃ釣り合わないし。かわいくておもしろくて、明るい子。きっとそういう子が相原先輩の彼女になります。だから、どうせ諦めるべき恋なんです」

そうだ。
わたしには、見ているだけの恋がちょうどよかったはずなんだ。



「……春川ちゃん、さっきからべきべきべきべきうるさい」

「へ?」

……べきべき?


「だいたい、春川ちゃんはちゃんとおもしろいし」

「……ええと、そういえば、もうすぐ十二時をまわりますね。先輩、眠くて頭回ってないんじゃないですか」


回ってるわあほ、と黒山先輩はわたしの頭をかるく叩いたあと、もうこんな時間か、と呟いた。

それに、もうすぐ家につく。