じゃり、という砂を踏む音が聞こえた。近い。

わたしは、泣き顔を見られないように、袖で涙を拭った。



「……こんなところでなにしてんの、春川ちゃん」


しかもこんな時間に、と、戸惑ったような男の人の声が聞こえた。


「……え」


春川ちゃん――は、わたしの名前だ。

だけど、知らない声。

……不審者?


こわい、と脳が言った。


夜、しかもこんな真夜中にひとりで外に出るのは初めてだった。

しかも、あまり人が立ち寄らない古い公園。管理がきちんと行き届いていないせいか、街頭もない。


――どうしよう。逃げる? 聞こえないふりをする? そっちのほうが危険?

焦っていろいろ考えていると、ふと雲が流れて、月明かりが辺りを照らした。周囲が見える。



おそるおそる顔をあげ、目に入ったのは赤色。

よく見慣れた服。

東野高校バレー部の、赤いユニフォーム。


相原先輩とは違う背格好。

相原先輩よりも少し背が大きかった。雰囲気もぜんぜん違う。


不審者じゃなかった。安心感が半端なかった。ヒーローかと錯覚するくらい。


風になびくやわらかそうな茶色い髪が、ふわりと揺れていた。