当時新聞部だったわたしは、資料の写真を撮るために、体育館に来ていた。

キュ、とシューズの擦れる音があちこちから聞こえてくる。


ハードな練習をこなす運動部のひとたちを見て、文化部を選んで正解だったな、とか、のんきに考えていたそのとき。


「危ない!」という声と共に勢いよく飛んできたバレーボール。

受けていたら、間違いなく保健室行きだっと思う。
わたしは奇跡的にキャッチした。

それを、まさかとれるなんて思わなかったのか、目を丸めながらも「ナイスキャッチ!」とかけよってきたのが、相原先輩だ。

相原先輩のところまで届かなかったけれど、ボールを投げて返した。がんばってくださいっ!て。
さんきゅーって、相原先輩が受け取って、コートへ戻る。


練習試合が再開した。わたしはカメラをかまえる。

相原先輩にトスがあがった。
相原先輩が飛んで、叩いて、相手コートにボールが落ちる。

ピー、と鳴り響く試合終了の音。


わたしの瞳に映ったのは、仲間とハイタッチをしている、汗の光る嬉しそうな相原先輩の笑顔。

カシャ。気づけばシャッターが落ちていた。


世界の色が、変わっていた。



わたしにとっては宝物の一瞬。
先輩にとってはきっとただの日常。

もう覚えていないんだろうな。


その日から毎日通った体育館。毎日続けた応援。
学年が違うから話す機会なんてなかったけれど。

……だけど、そっか。覚えられてすらいなかったんだ。

顔くらい覚えていてほしかったな。くそ。

すこしくらい。



先輩が去って、ひとりになったわたしは、泣いた。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を誰かに見られないように下を向いて歩いて、校門を出た。