黒山先輩は、あらたまって、「あのさ」と言葉を置いた。

あまりに真っ直ぐな目でわたしに話しかけてくるものだから、思わず身構える。


「さっきのブランコとか、楽しかったよ。バレー以外でこんな楽しいの、久しぶりだったしな」

それはただ単にブランコが楽しいだけなんじゃ……とは言わないでおいた。

「ギャグとかそーゆーんのはなくても、話しやすかったし」

それから、とつけ足そうとした先輩が、立ち止まった。

どうしたのだろう、と首をかしげる。


「先に言っとくけど、口説こうとしてるわけじゃないからな」

「……? はい」


顔はこちらを向いていたけれど、目は合わなかった。

街頭のない道に入ったから、僅か月光はあるけれど、黒山先輩がどんな顔をしているかまでは見えなかった。


「俺、春川ちゃんの顔好きだよ」

「それは……やっぱり口説いてるんですか」

実際にかわいいわけでもないから、良い気がするわけでもない。

わたしは黒山先輩に冷めた視線を送った。


「だから違う! だれが好きな男いる後輩口説くんだよ!」

思わず、といった感じで大きな声を出した山先輩に、「しー、夜ですから」とわたしは人差し指を口の前にたてる。

あ、やべ、と黒山先輩が笑った。