しゃがみ込みながら楽譜を拾う藍を手伝おうとすぐに灯璃が同じようにしゃがんで手を伸ばした。


「触らないで!」


突然の藍の大声に部室がしーんとなった。

駿二が弾いていたギターの音まで止まった。

「…これは私の仕事だから、望月さんは練習してくれていいから」

「でもっ」

「大丈夫だから」

それでも楽譜を手にした灯璃に藍がさっきよりも大きな声を出した。


「ほっといてっ!!」


ここは軽音部の部室、だけど防音なんて設備はない。

「らっ」

「藍ちゃーーーーん!!喉乾かない!?乾いたよね?俺は乾いた!一緒に買いに行こうキンキンのファンタオレンジ!!」

「…っ」

俺の声を遮るように、ギターを置いた駿二が藍の手を引っ張って部室から出て行った。

俯いた藍は顔を隠してるようで、バタンと閉まるドアの音がいやに響いた。

「……。」

開けた窓からすーっと風が入って来る。

風にさらに飛ばされそうになる楽譜を灯璃が拾い集めた。

「あ…ありがと、灯璃」

「なんかごめんね。私余計なことしちゃったみたいで」

「ううん、そんなこと…」



藍のこと考えてなかった。



部のためにいろいろやってくれてたのに、これだけ資料集めて印刷してくれてまとめてくれたのに。


考えてなかった。