「あ、そうだ灯璃!」

これから個人練が始まる、ちなみに部室はここしかないからここで楽器は練習するしかないんだけどボーカルの灯璃だけは隣の空き教室で練習してもいいって久野先生から許可が出た。音がごちゃごちゃしてると歌の練習はしずらいだろうってことで。

「曲録音して来たんだけど、スマホに送ってい?」

昨日の夜、8時前までにギターを弾いてスマホに録音して来た。スマホだから雑音も入ってるかもしれないけど、なるべく気を付けて来たつもり。

「奏くんのギター音?」

「うん、もちろん。これ聴いて練習してよ」

「ありがとうっ」

にこやかな笑顔はいつも通りの灯璃で、もう灯璃の中のモヤモヤは溶けたんだなと思った。

そしたら俺の中のモヤモヤも溶けていって、文化祭が楽しみだなってそんな風にも思えていた。


―ザザーッ


「!」

何かが崩れ落ちたような音が聞こえ灯璃と振り返ると、藍がばら撒かれたように落ちていた紙を拾っていた。

「藍、大丈夫!?」

「うん、ごめん。ちょっと手が滑って…」

何かと思えばいろんな曲の楽譜たちが散らばっていた。

藍が用意してくれたやつだった、文化祭の演奏曲候補に。

「ごめん…」

「全然、奏のせいじゃないでしょ。私が片付けようかなって全部机から落としちゃっただけだよ」

結局使わないまま部室に置きっぱなしだった。せっかく作ってくれたのに。