やば、すっごい気持ちよかった…!


恥ずかしいよりも高ぶった感情の方が上回って、ドキドキしていた心臓はもっとドキドキしてっ

「灯璃!」

気持ちを落ち着かせる間もなく、眉をキリッとさせた奏くんが大きな声で私の名前を呼んだ。

「え、何?あ、私の歌どうだっ」

「灯璃めちゃくちゃ歌上手いね!!!」

「え…?」

「びっくりした!何かやってるの!?」

「いや、…何もやってないよ」

目をまんまるくした奏くんがわーっと口を開けて私の方を見てる。

そんなに意外だったのかな、私の歌声…
てゆーかほんとに全然普通なんだけど、そんなに驚いてもらえるようなあれじゃない。

「上手すぎだよ!」

「たいしたことないよ」

「こんなに上手い人初めて会った!」

「大袈裟だなぁ」

それにはちょっと笑っちゃって、だけど気分はよくて。

「普通だよ」

頬が緩んだ。

褒められるのには慣れてなくて、奏くんの前で奏くんの作った曲を歌うより恥ずかしくて、乱れた髪を直すフリをして顔を隠した。

ふふって微笑みながら。

「あっ!」

「どうしたの?」

「私そろそろ帰らないと!」

しまった、いつもアイス買ってすぐ帰るけど今日はここで結構時間潰しちゃった。

ふと思い出して顔を上げ見た時計台の時刻は9時半を過ぎていた。

10時までに帰らないと怒られる!

「じゃあね奏くん!ばいばい!」

軽く手を振って、すくっと立ち上がった。

「灯璃っ」

「…何?」

「また歌いに来てくれる?」

立ち上がったから、奏くんが私を見上げる形になった。

上目遣いで見られるのは変な感じだった。

「毎日来るよ。…あ、アイス買いに!アイス買いにね、毎日来てるの!」

変な意味に取られてないか急に心配になって、最後わたわたしちゃった。

「だから…夏休みの間は来るよ」

「じゃあ俺も、これから毎日来よ」

にこっと微笑んで、また静かにギターを弾き始める。

何度聞いても心惹かれて、聞くたびその気持ちが大きくなっていくような気さえする。

帰りたくなくなっちゃうな。


星空の下のステージ、それは初めての夏の夜だった。