「懐かしいよね、それ」

「うん、子供の頃ひまわり見に行った時のだよね。藍のおじさんとおばさんに連れてってもらった」

藍と4人で行ったんだ。

ここからちょっと遠く離れた丘のふもとのひまわり畑、あの頃ずっと俯いていた俺にとってひたすらに前を見続けるひまわりは眩しくて。

キレイで、力強くて、カッコいいなぁって思った。

「藍、覚えてる?その時、俺らはしゃいじゃって丘の上まで走ってったら帰って来れなくなっておばさんたちに超怒られたよね」

「あったね、あんなに怒られたのあれが最初で最後かも」

くすくすと藍が笑って、俺も思い出して笑った。

まだ俺が藍の家に来て間もない頃、藍が連れ出してくれた。

「これ…ひまわりの付いた鍵は奏のだからって藍がくれたんだよね」

ひまわりを見入ちゃってなかなか帰ろうとしない俺に藍が買ってくれたんだ。

「奏、他に覚えてるものないの?」

「え、他に…?」

「うん、他に…もう忘れちゃった?」 

スッと俺の方に視線を向けた。

その瞳はどこかもの悲しそうだった。


「大きくなったら結婚しようね、って約束したでしょ」


“婚約してるんだよね!?折原さんと!”


忘れたわけじゃない。

たぶん今でも心のどこかには残ってる。


「あーーー…したね、そういえば。でもそんなの10年くらい前の話じゃない?」


だけどあの頃は子供だったから。


「私は今もそう思ってるけど」


無邪気に指切りをした。

約束だよって、ひまわりの咲く丘の上で。


「嘘よ、そんな顔しないでよ」


俺はどんな顔してたのかな。

自分では普通にしてたつもりだったのに。


「…藍覚えてるのすごいよ!記憶力いいんだね、さすが藍テストの成績いっつもいいから!」

「奏はも少しがんばりなよ」

「藍に教えてもらおうかな」 

「私より先輩でしょっ」



覚えてる、って言えばよかったのかな。