3分48秒の中にこれでもかと言うほどぎゅうぎゅうに詰められた想いが聴いていて重くも苦しくもなってー…




「…~っ」


最後の一文字がすぅっと消えた。

次の瞬間、嗚咽のようなものが聞こえた。
 
「…灯璃?」

つい吸い込まれるように夢中になって聴いてたばかりに、気付かなかった。

灯璃が泣いていたことに。

「灯璃!どうしたの!?」

ひっくひっくと声を押し殺して涙を流す灯璃のもとに駆け寄った、ギターをパイプ椅子の上に置いて。

「どうした?どこか痛い?」

俯いて流れる涙を拭いて、小さな灯璃がいつもより小さく見えた。

「折原さんと…」

「え、藍?藍がどうしたの?」

「…付き合ってるんでしょ」

顔を上げず泣いたまま、震える声で。

灯璃に触れようとして伸ばした手を下ろした。

「奏くんそんな人いたんだね…っ、一緒に暮らしてるんだ」

「灯璃っ」

「言ってよ!…そんなの、そんなこと知らないから私!私…っ」

「あのっ」

「婚約してるんだよね!?折原さんと!」

ポロポロと涙を流しながら灯璃がやっと顔を上げた。

そんな灯璃とは逆に俺は何を言われてるのか全く分からなくて、きょとんと目を見開いてぼんやりしてしまった。


「………え?何の話?」


眉にしわまで寄せちゃって。


「……え?」

「え?」

「えっ!?」

このあと灯璃の“えーーーーーーーっ”が部室中に鳴り響いた。いつまでも伸びる声にやっぱりボーカルに向いてるなって思った。 

「え、だって鍵!」

「鍵?がどうかしたの?」

「ひまわりの!あの鍵っ、折原さんのだって言ってたよ!?一緒んに住んでるってことじゃないの??」

たぶん灯璃が言っているのはひまわりのキーホルダーが付いた鍵のこと、あれは家の鍵で俺のものであり…藍のものでもある。それは間違いなくて。

「一緒には住んでるよ」

「やっぱりっ」

「でも付き合ってないし、婚約…なんてないよ」